■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第163章 エネルギー計画に3つの欠陥/事故に反省なく、実効性に問題

(2014年4月28日)

政府が4月11日に閣議決定した新たなエネルギー基本計画は、原発を再び「重要な電源」と位置付け再稼働させると共に、莫大な費用を投じながら依然実用化のメドが立たない核燃料サイクルの推進を明確にした。原発を不安視する民意から離れ、火力発電に頼って電力コストの上昇に直面する電力業界・産業界の意向に沿う内容となった。
東京電力福島第一原発事故後、初めてとなるエネルギー基本計画では、未曾有の原発事故の反省を生かした国のエネルギー政策の指針が問われた。ところが、計画は原発依存度を「可能な限り低減する」としたものの、その目標値は明示しなかった。原発の新増設についても「エネルギーの安定供給などの観点から確保する規模を見極める」と可能性を肯定した。あいまいな表現だが、原発復帰に踏み込んだものだ。
安倍政権は国民の大半が原発稼働への不安を抱く中、説明責任を果たさないまま、民主党政権の「30年代に原発ゼロ」を一転、原発の再稼働・推進に舵を切った。
計画を仔細に見ると、「3つの欠陥」が浮かび上がる。1つは、計画自体が体を成していない「未熟計画」であることだ。国民の不安を押し切って原発復帰を果たすには、政権は相応の根拠を国民に示し、十分に説明する必要がある。ところが、「重要な電源」として維持する結論に至った理由、原発依存率や原発に代わる再生可能エネルギーの発電比率の中長期目標について明確に示していない。「はじめに結論ありき」で、具体的説明や手順、目標数値を欠く、不透明でずさんな計画だ。

再稼働に高いハードル

第2の欠陥は、政府が原発の再稼働方針を決めても現実に抱える問題から実現が至難なことである。これでは計画自体が「絵に描いた餅」となるのは不可避だ。
計画が国民に受け入れられ奏功するためには、実現可能性が一定以上に高くなければならない。政府は原発再稼働の是非を「政治判断はしない」(菅義偉官房長官)とし、原子力規制委員会の安全性審査に一任する方針だ。新規制基準に適合して安全性が確認されれば、地元の同意を得て再稼働の運びとなる。
ところが、地元が原発の再稼働を認める可能性はかなり低い。事故発生への不安と万一、事故が発生した場合、無事に避難できるとは限らないからだ。東電柏崎刈羽原発の地元では、市民の会が原発事故後の12年4月、東電に対し運転差し止め訴訟を新潟地裁に起こし、口頭弁論が続いている。
北海道函館市は4月3日、青森県下北半島の北端、大間町で建設中の大間原発について事業者のJパワー(電源開発)と国を相手取り、建設差し止めを求める訴訟を東京地裁に起こした。自治体が原発差し止め訴訟を起こすのは初めてで、しかも原告は原発が立地する地元ではない。
函館市側は「大間原発で過酷事故が起きれば、27万人超の市民の迅速な避難は不可能」と訴えた。函館市は津軽海峡を挟んで大間原発の対岸にある。市街の一部は福島第一原発事故後に原子力防災計画の策定が義務付けられた原発30キロ圏内に入る。原発事故では重大な被害が30キロ圏内に及んだ。
大間原発は、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を100%使える世界初の原発として2008年から建設が始まったが、東日本大震災で中断し、12年10月に再開していた。
エネルギー基本計画は、地元や周辺自治体の不安や意向を無視して、国の政策として押し出しているため、仮に原子力規制委が安全性を確認しても、原発再稼働の可能性は相当に狭まる。

もんじゅは自己規律を喪失

第3の欠陥は、総額10兆円を注ぎ込んでも実用化のメドが立たない核燃料サイクル政策のやみくもな推進だ。核燃料サイクルとは、使用済み核燃料(核のゴミ)の燃え残りのウランやプルトニウムを取り出し、再び燃料に加工して燃やすサイクルを指す。
プルトニウム取り出しは、青森県六カ所村の再処理工場で行う。取り出したプルトニウムをウランと混ぜたMOX燃料を原発で燃やす「プルサーマル」も推進する。サイクルの中核施設となるのが、消費した以上にプルトニウムを生み出すとされる高速増殖炉の実用化を目指す原型炉の「もんじゅ」(福井県敦賀市)。
もんじゅはこれまで1兆円超もの予算を費やしながら、1992年に試運転を始めて以来トラブル続きから本格運転できず、今なお運転を停止している。停止の間も、毎年200億円規模の予算を維持管理費名目で主に人件費に使う。財務省はもんじゅの予算の積算根拠が不明だとして、11年11月の事業仕分けでもんじゅを運営する独立行政法人・日本原子力研究開発機構と監督官庁・文部科学省に対し「説得力ある形で国民に積算根拠を説明する必要がある」と要求した経緯がある。
ところが、もんじゅは税金の無駄遣い批判ばかりか、運営能力の問題も相次いで表面化した。1995年のナトリウム漏れ事故で長期の運転停止。さらに12年9月に約1万点にも上る機器点検漏れ、今年1月の点検計画見直しの虚偽報告に続き、4月には新たな未点検機器と100カ所以上に及ぶ点検記録の不正処理が見つかった。
もんじゅは核エネルギーを扱いながら、自己管理ができない規律喪失の状態なのである。にもかかわらず、政府はもんじゅに対し、民主党政権が打ち出した「事業終了」とは逆に、存続を決めた。国際的な研究機関と位置付け、新たに「核のゴミ専用の焼却炉」などに取り組むとした。看板の掛け替えによる延命だ。
計画は、2月の都知事選の争点に浮上した使用済み核燃料問題にも十分に答えず、不安を残した。「脱原発」に転じた小泉純一郎元首相らが問題提起したのは、その危険性だ。
現在、日本国内で保管されている約1万7千トンに上る高レベル放射性の使用済み核燃料を無害になる10万年後までどのように安全に管理し、最終処分したらよいか。その方法は世界的にもまだ見つかっていない。
計画の実効性が問われ、大幅修正を余儀なくされるのは必至だ。