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北沢栄
『小説・非正規 外されたはしご』

産学社■本体1500円+税


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『小説・非正規 外されたはしご』に寄せられた反響の一部をご紹介します。



*書評・新刊紹介
  • リベラルタイム(2016年10月号)
    フランスの経済学者トマ・ピケティ氏が『21世紀の資本』で指摘した、世界的に拡大し続ける格差社会。日本における格差問題は非正規雇用に象徴される。
    外食チェーン、自動車工場、年金機構、学校、メガバンク等々……非正規雇用はありとあらゆる環境で採用されている。正社員と比べて低賃金で雇用でき、契約内容によっては簡単に雇用を解消できる。それでも、生きるためには非正規だろうと働かなくてはならない。正社員になりたくても、転職活動をする余裕もなく、契約が切れればすぐに新しい仕事を探さなくてはならない。
    本書は、著者の北沢栄氏が、驚くべき格差の広がりとその多面多様な実相を、主人公の日々の戦いを通じて描いた小説である。登場人物は架空だが、舞台の背景にある法令や制度、社会・経済事件、問題の歴史的経緯の記述は全て事実に基づいたものになっている。

  • 山形新聞(2016年7月31日付)
    ニューヨーク特派員などを経たジャーナリスト北沢栄が、このところ精力的に取り組み始めた小説の、新刊である。混迷をきわめるグローバルな世界と日本の実態分析が横軸に、困難な日常を生き抜く者たちの苦悩と情熱が縦軸に織り込まれ、結末の予測しえない物語が展開されてゆく。
    わが国の雇用者の4割にあたる約2千万人の非正規雇用者の、2割近くが不本意で働いており、34歳までの若者については4割を超す113万人が不本意だという。また、非正規の平均年収は、正規の4割弱にあたる170万円程度でしかない。東大卒の非正規労働者の弓田誠は、外食チェーン、自動車工場、特殊法人、メガバンクなどを転々とし、低賃金・使い捨ての実態に接する。12年に及ぶ過酷な経験を、弓田はしかし、代え難い体験資産であると考える。それを格差社会に対抗する原動力にして、生き延びようとするのだ。
    一方、正社員もまた、働きがいを見失っている。過労死に陥りかねない過剰労働に苦しみ、考える余裕すら失っている。そのなかのひとり山川光輝らとともに、弓田は新たな事業を立ち上げようと企画する。非正規雇用者を対象とした就労サービスである。
    資金調達のためにメガバンクの頭取・鳴海英介に弓田が掛けあうラストシーンは、スリリングである。出世街道をゆく頭取の長男・俊太郎のもとで働いていた弓田は、俊太郎とは腹違いの兄弟であったのだ。立身出世を優先しひとりの女性を捨てた父に、弓田はしたたかにも1千万円の寄付を約束させる。
    不条理な世界を生き抜くアルベール・カミュの提唱理念「自由・熱情・反抗」が思い起こされる。社会を変える力は、個人の気概にこそ潜んでいるのだ。やがて離陸する弓田らのプロジェクトは、社会の変革へと高まってゆくにちがいない。さて、活動の結実はいかに? だれもが声援を送らざるをえないだろう。社会への告発と、人間への温かいまなざしと愛に満ちた、渾身の書である。(評者は詩人・万里小路譲氏)


*読者の反響

  • 一気に読み終えました。まさに現代の暗黒部を突いています。理に走りがちなのを、外食チェーン店や工場の描写が救っています。 「メガバンク」から「独立」にかけては、もう少し熟成すると山崎豊子を想い起こすようなストーリーになったかも、と思いました。 枠にはまらない想像力と表現力は相変わらずですね。過去の蓄積と日頃の勉強の成果で、要所にシモーヌ・ヴェイユやベートーヴェン、サルトル、ピケティまで登場するとは、驚きました。
    ・・・東大卒のインテリを非正規労働者に仕立てたことで、貧困のイメージがややぼやけ、希薄になったきらいがあります。これが現代の貧困というものなんですよ、とつぶやいているようにも思いますが。(東京都、男性)

  • ・・・(非正規を巡る)事態はとっくに分かっているのに政治家、政権がほったらかしにしている問題。基本は金融資本主義のグローバルな進展の中で、二極化がさまざまな形で出現、中間層の大多数が生活に行き詰まり、金銭的、思想的にどんどん没落していること。誰がこんなことにしたのか、非正規労働者問題は、女性の労働問題とともにまさにその一つ。世界経済の沈没に繋がることなのに、安倍は、一億総活躍だとか、アベノミックスだとか全く中身のないことを言っているだけ。・・・文章も読みやすく、前半は一つずつ独立した話の組み合わせなので、理解もし易いし、エピソードも各種統計数字もよく分かるものばかりで、結構です。(茨城県、男性)

  • 貴著の主旨はズバリ「若い非正規プロ主人公の体験を通じての、現閉塞社会体制への警鐘」であり、当世風男女結婚観など絡ませながら、・・・胸のすく仕上がりになっている。
    本著最大の力点は「年金機構」編にあり…現代最大スリラー・・・ナショナリズムの一形態、すなわち国と己との同一視心理状態とか…なるほど、なるほど…的確分析に唯々感服してばかりはいられない恐ろしい現実。
    作者「体験資産」が随所に散らばる――芭蕉絡み、人生は旅の述懐や主要登場人物による、節目の場面でのコーヒーショップにおける数杯のコーヒーbreak、更には要所での対話のメモ取りなどお馴染みの描写にこちらもにんまり。(東京都、男性)

  • 読みやすく情景が目の前に広がり、例えば一杯のコーヒーがとても旨そうに伝わってきます。主人公の弓田誠の青年時代が苦労したわりに爽やかに感じました。最後の鳴海頭取の告発が痛快でした。これもあって弓田誠の印象が明るいのかもしれません。(千葉県、男性)

  • 現在、世の中は人手不足と言われますが、働く人の4割が先のことを考える暇さえもない、満たされない環境で働いていることが分かります。これによって企業が競争力を付け、グローバル時代に対応するためとは寂しい限りです。職業の選択は自由というものの進んで非正規の道を進む人も不本意に非正規を抜け出せない人も、将来必ずやってくるとてつもないやっかいな年金を考えると、(中略)生活保護受給の単身者が増え続けるでしょう。財源は大きな政治問題です。仮に力の付けたグローバル企業の法人税で賄い、今後の労働者は非正規で生かさず殺さず、晩年は生活保護で生涯を終わる? こんなの戦国時代に逆戻りですね。弓田誠の目指す事業が成功することを祈っています。(千葉県、男性)

  • ……内容がとても充実していて、色々勉強になったり、考えさせられたりして、読みごたえがありました。主人公の弓田誠を通して、今、日本が抱えている、非正規雇用の問題点や、年金などの深刻な問題から、老後に対する不安など、自分自身の身の上と重なって、深刻に考えさせられました。(東京都、女性)

  • ……私のような、個人商店も、非正規雇用者と同じだと思うのですよ。ただ、小説の文中にあるように、「仕事とは、イコール喜びでなければならない」という面では、私はやりがいを感じているし、生きがいを見出しています。……私は、仕事が本当に面白いと思っているので、それが救いであり、幸せだと思います(東京都、女性)

  • 今回の小説は、ストーリーも面白いし、意外なハッピーエンドの終わり方も、すっきり、爽快感があって良かったです。(神奈川県、男性)

  • 小説「非正規」は、啓蒙書の要素も充分にあり、とても、いい小説を読ませて頂いたと、感謝しています。(東京都、男性)

  • それにしても、学問では、表現しきれないそんなきれいごとでは、行きませんよと突きつけられるテーマを独自の切れ味で示してくれる、まさに外されたはしごの社会をビジュアルにおしえてもらえる。非正規が4割と数値的にはマスコミで知らされるが、そのどろどろした働き手の実情までは知らされていない。本書の出だしで、景気が回復し、失業率は改善されたと報じられている。なのに、なぜ求職者が溢れているのだろうのくだり。――そうか失業者の職探しだけでない。すでに職についている大勢の人がもっといい仕事はないのかと押し掛けたに違いない。この出だしは、びっくりするほど素晴らしいです。なぜなら、この中に、この本のすべて―過労、残業時給、名ばかりの管理職、閉塞感から生じる民衆のやり場のないはけ口を全部表している。(東京都、男性)

  • ……一気に読んだ。現実離れしたところが無く、「その通りだなあ」と、うなづき続けた。「労働とは」「生きがいとは」も考えさせられた。筆者の体験と知識、取材力、構想力が、この力作を支えている。(神奈川県、男性)

  • プロローグ(というより弓田誠のモノローグ)は、実に巧みな導入ですね。特に“体験資産”という言葉は新語大賞かも知れません。会計学にも「人的資産会計」という考え方はありますが、体験資産には驚きました。……
    六十九歳でM銀行を退職しましたが、融資(貸付)担当の時は、殆ど毎日九時過ぎ迄残業し、さらに自宅に稟議書ファイルを持ち帰り、午前0時、一時まで仕事をしておりましたが、残業の申請は1/3もしていません(出来ない雰囲気?)でした。超ブラック企業でしたね。 (東京都、男性)

  • スゴイ小説だと思いました。……とてもリアルで、北沢栄にしか描けない世界を小説として展開されたことに感動いたしております。(愛知県、女性)

  • 小説の形をとっているので深刻でむずかしい問題がわかりやすくすんなり頭に入り、大変勉強になりました。(神奈川県、男性)

  • 非正規社員が希望を持って働けるようにすることは難しい課題ですが、この本が提案しているような具体策を与野党ともに本気で追求してもらいたいものです。
    今回の著書の後半に“希望があれば乗り越えられる”という表現が出てきます。……希望がなければ、我慢は続かないのです。働くことに意義が見いだせなくなった人は鬱になったり、本来持っていた能力を発揮できなくなります。いまはそうした人が益々多くなっているのでしょう。
    こうした考えの私に、今回の新著はぴったりで、多くの人に読んでもらいたいと思いました。(広島県、男性)

  • 非正規雇用の現場がじつにヴィヴィドに描かれ、状況がよく分かった。われわれは(大企業の正規雇用として)恵まれた環境なので、こういう非正規の現実を知らなかった。政治家も実情をよく知らなければダメだ。(大阪府、男性)

  • まことに時宜にあった内容です。とても興味深く読ませて貰いました。(神奈川県、男性)

  • 小説「特定秘密保護法」に続き、北沢さんらしい社会問題の急所に迫る視点はさすがです。(東京都、男性)

  • “非正規”を描きながら、人の心や生き方にまで深く及んでくる文学としての小説のあり方のすばらしさを思いました。……この小説のスゴさを多くの人が味わえますように!(静岡県、女性)




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