■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
短期集中連載(全3回)「行き詰まる原発政策」(1)

( 月刊誌『NEW LEADER』(はあと出版)5月号所収)

(2018年5月10日)

国の原発政策がいま、重大な岐路に立っている。東京電力福島第一原発事故を見て、国民の過半がなお原発の安全性への不信・不安から再稼働に同意していない。 将来計画の核燃料サイクル政策は、実質破綻状況にある。加えて、遅れていた再生可能エネルギーの普及に弾みがついてきたことから、エネルギー供給面でも原発の存在意義は大きく後退した。

「夢の原子炉」破綻

今年3月、安倍政権が再稼働に舵を切った原発推進政策が数歩、前へ進んだ。関西電力が大飯原発3号機(福井県)を4年半ぶりに再稼働させたのに続き、九州電力も玄海原発3号機(佐賀県)を7年3カ月ぶりに再稼働させた。 これで福島第一原発事故後、厳格化した新規制基準に適合した原発の再稼働は、5原発7基に上る。5月には大飯4号機と玄海4号機が再稼働する予定だ。
重大事故から7年後、原発は再開に向けようやく滑り出したかに見える(図表1)。

だが半面、原発にノーを突きつけるネガティブな状況が次々に現れる。まずは「夢の原子炉」と謳われながら、建設から22年間ほとんど稼働しなかった高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の廃止だ。
もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構は昨年12月、もんじゅの廃炉計画を原子力規制委員会に提出した。それによると、18年度から作業に入り、30年間で廃炉を終える。規制委は計画を認可し、もんじゅの解体が始まった。7月から核燃料の取り出しを始める。
もんじゅにこれまでに投じられた国費は1兆円超に上る。今後、廃炉費用として3750億円(文部科学省試算)かかる見込みだ。もんじゅの廃炉は、簡単でない。普通の原発と違い、冷却材に液体ナトリウムを使っているからだ。ナトリウムは水や空気と激しく反応する危険な性質がある。30年にわたり無事に廃炉を終えられるか―。

もんじゅはウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)を燃料に、発電しながら消費した以上のプルトニウムを生み出すとされた。 しかし、1994年に初めて臨界(核分裂連鎖反応)に達して運転を開始直後の95年にナトリウムの漏出、2010年に炉内への装置落下、12年に約1万点に上る機器点検漏れなどと事故が相次ぎ、長期にわたる運転停止に追い込まれる。この間運転期間はわずか250日。
原子力規制委は15年、トラブル続きの日本原子力研究開発機構を見限り、運営主体を他に変えるよう所管の文部科学省に勧告する。しかし交代できる運営主体は見つからず、政府は16年12月、廃炉の決定を余儀なくされた。
ここで浮かび上がったのは、事故はことごとく管理・点検の手抜かりが原因だったことだ。無責任体制が続き、人為的ミスを次々に誘発した。このことは原発の扱い自体が、危険きわまりないことを示す。

もんじゅの破綻は、もんじゅが中核的役割を果たすはずの国の核燃料サイクル政策の破綻を意味する(図表2)。しかし経済産業省は計画の破綻を認めず、継続を決めた。もんじゅは諦めても、使用済み核燃料からMOX燃料をつくり、これを普通の原子炉で燃やすプルサーマル発電を推進する、というのだ。
しかし、もんじゅ以外の核燃料サイクル計画も頓挫している。もう一つの重要施設となる再生工場が、トラブル続きで完成できずにいるからだ。日本原燃は青森県六ケ所村で1993年から再生工場の建設に入ったが、2017年12月、23回目となる完成の延期を発表。 完成時期を予定していた18年上半期から3年先に延ばした。すでに2兆円超の国費が投じられた。
再処理工場は原発の使用済み核燃料からウランとプルトニウムを分離・抽出し、MOX燃料として再利用する道を開く。だが、着工から25年経っても、完成できない。
経産省の試算によれば、全国の原発から受け入れた使用済み核燃料のうち年間800トンを40年にわたり再処理する場合、再処理事業の費用総額は12兆6000億円にも上る。 もんじゅを欠いた上、確実な将来見通しを得られない核燃料サイクル計画に政府は依然、途方もなく巨額な国費を注ぎ込もうとしているのだ。エネルギー関連国費は、税金と電気料金収入から支出されるから、国民の負担にのしかかる。

廃炉作業も闇の中

核燃料サイクルという将来計画が、実質破綻したばかりでない。足元の事故の後処理も、手順がなお不確かで廃炉のメドさえきちんと立たない。
廃炉が計画通りに進んだとしても、東京電力によれば完了までに30年以上もかかる。福島第一原発事故は6基のうち稼働中の1〜3号機の原子炉がメルトダウン(炉心溶融)を起こした。 1号機、3号機、4号機は原子炉建屋が水素爆発。2号機は原子炉格納容器が破損し、大量の放射性物質が大気中に拡散した。
事故により、2014年までに1〜6号機すべてが廃止された。いずれの原子炉も目下、廃炉に向けた途上にあるが、日本国内で廃炉の前例はない。東電は廃炉までに要する期間を30〜40年と見込んだ。
廃炉の費用は1基数百億円に上るといわれるが、それは圧力容器が処理しやすい正常な場合に限られる。福島第一原発の場合、経産省の見込みでは廃炉に8兆円もかかる。しかしこの金額で収まりそうにない。

経産省が16年12月に発表した福島第一原発の廃炉に向けた事故処理費用は総額21.5兆円。前回、13年に発表した見積もり11兆円を倍近く上回り、廃炉費に至っては4倍にも膨れ上がった。
その内訳は、廃炉8兆円、賠償7.9兆円、除染4兆円、中間貯蔵1.6兆円。政府は東電が到底、費用負担できない金額を見すえ、「国民全体で福島を支える」とした。 その財源として電力自由化で新規参入した新電力を含む電気料金に事故処理費用の一部を上乗せする方針を示した。上乗せの仕方は、電力会社が持つ送配電網を事業者が利用する利用料金に当たる「託送料」を引き上げるものだ。
結果、再生可能エネルギーを買う消費者の負担で廃炉財源が賄われることとなった。この電気料金の上乗せ分には、福島第一以外で廃炉が決まっている老朽原発の廃炉費用も含まれる。
福島第一以外に事故後に廃炉が決まった全国の原発は計9基に上る。これら全ての廃炉費用が、今後数十年にわたり電気代が増える「国民負担」で賄われるわけだ。

経産省は福島第一の廃炉費8兆円の試算根拠として米スリーマイル島原発事故(1979年)をベースにしたという。 しかし、事故の深刻度は段違いだ。スリーマイル島事故は国際的な事故評価基準で「レベル5」だったが、福島第一はチェルノブイリと同じ「レベル7」。スリーマイル島では、核燃料は溶けたが、圧力容器はほぼ正常な状態にとどまった。 福島では、核燃料が圧力容器を溶かして格納容器の底に落ちた。取り出し作業をしようにも、内部の状態さえ把握できていない。廃炉作業は手探りで覚つかず、費用もどのくらいかかるか見通せない。8兆円で収まるとは考えにくいのだ。

止められない汚染水、止まらない出費

廃炉への道に立ち塞がり、止めどもなく費用がかかっているのが、汚染水対策だ。そもそも地下の汚染水を処理しなければ、廃炉作業に入れない。対策にどれだけ手こずっているか、これまでの流れを見てみよう。
2011年4月、2号機取水口付近から高濃度汚染水の海洋流出が判明。以後、次々に海洋流出が見つかり、ピーク時は汚染された地下水の1日当たり海洋流出量は300トンにも達した。
汚染水が止まらないのは、1〜3号機で事故で溶け落ちた核燃料を冷やすため原子炉圧力容器に注水を続けているからだ。この水が高濃度汚染水となるが、陸側から絶えず流入する地下水がこの建屋内の高濃度汚染水に混じって汚染される。
東電は対策として建屋の周辺約40カ所に井戸「サブドレン」をつくった。1日400〜500トンの地下水を汲み上げ、汚染水を浄化する多核種除去設備(ALPS)に通すが、放射性物質トリチウムだけが除去できずに残留する。 やむなく処理水をタンクに入れ、第一原発敷地内に保管する。このタンクが増え続け、今年2月末には保管量約105万トン、タンク数約900基に上った。場所は限られ、タンク収納も限界に近づく。 結局は地元漁民の反対を押し切り、汚染処理水を薄めて海洋に放出するほかない状況だ。

汚染水の海洋流出が止まらない中、ついには国も動き、東電が発案した、世界にも例のない「凍土壁」を作る挙に出た。国費を投入して1〜4号機全体の周囲1.5キロメートルにわたり土を凍らせる企てだ。
汚染水対策の「切り札」とされ、345億円の国費が投入された。地下30メートルまで埋めた配管に冷却液を流して管の周囲を凍らせ、原子炉建屋の地下水流入を遮断する狙いだ。
東電は凍土壁の建設工事を14年に始め、17年11月にほぼ終了した。18年3月、凍土壁の遮断効果を1日当たり95トンと発表したが、効果は限定的だ。
17年秋の台風がもたらした大雨で、地下水の汚染量発生量がそれまでの1日当たり約100トンから3倍の推定300トンに急増したことが判明した。汚染水対策はなお十分な解決からほど遠い。
凍土壁の維持費は年間数10億円かかるとされ、その費用も税金や電気代から支出される「国民負担」となる。

周辺住民の同意得られず

このように福島第一原発ひとつ取っても、後処理もままならない。30年以上かかる廃炉までの道筋がいまなお見えてこない。廃炉作業の前提となる地下の汚染水対策も決定打を欠く。対策は果てしなく続く、と考えなければならない。
廃炉に要するコストも、8兆円で済みそうにない。東電や当局は予算を少なく見積もりたいところだが、かさむばかりだ。原子炉内部の状況さえつかめないのだから、予算が見通せないのもムリない。
このことは、原発はひとたび過酷事故を起こせばコントロール不能となり、事態の掌握もできずに、人も予算も果てしなく注ぎ込まなければならなくなる危険がある、ということだ。
これが福島第一原発事故が突き付けた重い教訓だ。しかし政府に深い反省はない。「事故は収束に至った」とか「事態はアンダーコントロールだ」と野田元首相や安倍現首相は強がりを言ったが、到底、安心できる状況でないことを、国民は肌身に感じている。
原発が政府の思惑通りに再稼働し、核燃料サイクル政策がもんじゅ破綻のあとも回り出すためには、最低でも、地元の立地周辺住民の同意が必要となる。
しかし、今後はこの最低条件も、充(み)たされないのは明らかだ。

周辺住民から再稼働容認を決して得られなくなる兆候は、今年3月に現れた。首都圏にある唯一の原発の東海第二原発(茨城県東海村)の再稼働を巡り、日本原子力発電(原電)と30キロ圏の水戸など6市町村が、原電が各自治体から同意に当たる事前了解を得ることを約束した新協定を結んだためだ。 各地の原発では、再稼働の事前了解を道県や立地市町村に限定してきた。対象を30キロ圏に拡大するのは初めてだ。
この新協定により、「30キロ圏内同意方式」が全国に波及するのは確実だ。
共同通信が昨年12月に発表した大飯、高浜両原発(福井県)周辺自治体へのアンケートによると、30キロ圏内にある京都府内6市町の周辺住民は再稼働に際し、同意権を求めている。
今後、30キロ圏内自治体すべてから再稼働の同意を得ることは不可能とみられ、原発推進政策は、この面でも立ち往生する。


(2)に続く




(図表1) 全国の原発状況(2018年4月10日現在)
<資源エネルギー庁資料を基に筆者作成>

(図表2)核燃料サイクルの仕組み
『エネルギー白書2005』を基に筆者作成