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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
<番外篇>世界各地で増える異常気象/現実化する地球温暖化リスク

(2017年9月25日) (「週刊エコノミスト」2017年9月26日号掲載)

過去に例のない気候の極端現象が、7月からゲリラ豪雨などの形で日本列島を相次ぎ襲った。地球温暖化の影響と見られ、今後も頻発する可能性が高い。
7月に北九州を襲った豪雨、次いで台風5号の18日にわたる迷走、東京都心で21日に及んだ8月の長雨―いずれも記録的な極端現象(過酷な異常気象)となった。この「真夏の3異変」とは、どんな実相だったのか。その地球温暖化との関連を探ってみよう。

記録的な豪雨、長寿台風

福岡、大分両県で34人が犠牲になった7月5〜6日の局地的豪雨。気象庁によると、福岡県朝倉市、大分県日田市などで最大24時間降水量が統計開始以来の最大値を更新する記録的な大雨となった。 7月5日の朝倉市の最大1時間降水量は129.5ミリ、6月30日から7月10日までの総降水量は660ミリにも達した。
この大雨の原因は、対馬海峡付近に停滞した梅雨前線に向かって7月4日に長崎市に上陸して東に進んだ台風3号の影響で暖かく湿った空気が流れ込んだため、と気象庁は説明する。
7月21日に発生した台風5号は、発生場所、進み具合、存続期間において昨年夏に迷走したあと東北を襲った台風10号と同様に、普通のタイプではなかった。
今回の5号は、台風が通常発生する北緯10度〜15度の赤道付近ではなく、日本の足元の南鳥島近海で発生。それから東の太平洋上を迷走し、29日に小笠原諸島付近を通過したあと南下し、31日には「非常に強い台風へと勢力を強めた」(気象庁)。 その後、ゆっくりと北上して九州に接近した後、8月7日に室戸岬付近を通過して和歌山県に上陸した。
8日に日本海へ抜け、温帯性低気圧に変わるまで台風として18日18時間存続した。観測史上3番目に長寿の台風、日本列島に上陸した台風としては最長寿だ。
長寿の要因の一つは、海面水温が30度Cを超え、海水の盛んな蒸発を得て台風のエネルギーが保たれ、発達したからである。台風が発生する海面は28度以上とされるが、それより一段と高温だったわけだ。

史上2番目の長雨

8月に入り関東や東北など東日本の太平洋側を中心に続いたのが、長雨と日照不足だ。東京都心では1日から21日まで21日連続で雨が降った。この長雨の持続日数は、最長だった1977年8月に記録した22日間に続く観測史上2番目の長さ。
気象庁によると、長雨の主因は、8月になって太平洋高気圧の本州への張り出しが弱まったせいだ。これに伴い相対的に強くなった北海道北のオホーツク海高気圧から冷たい風が東日本に流れ込み、これがフィリピン沖からの暖かい湿った空気とぶつかり、雨雲ができやすくなったという。
雨続きと日照不足から野菜が育たず価格が急騰した。キュウリ、ネギ、ナス、レタス、ピーマンなど、買い物客が仰天する高価格に跳ね上がった。レジャーや飲食業にもツアー客や海水浴客の減少、屋外プールや遊園地、ビアガーデンの閑散―といった影響が表れ、家計消費支出が鈍ったのは記憶に新しい。

3異変に共通する特色は、「大雨」である。8月の長雨の間、わずかな雨の日もあったが、全体としての雨量は雨続きの21日間で平年比122%(東京都心)に上った。日照時間は計83.7時間と、8月としては観測史上最短となった。 気象庁によると、1時間当たり50ミリ以上の雨が降る頻度が、1970〜80年代に比べ3割程度増加している。降水量が1時間に50ミリ以上だった回数は2007〜16年の10年間にアメダス(70年代後半に導入された自動観測所)1000地点当たり年平均232.1回。 76〜85年の10年間に比べ33.5%も増えているのだ。
なぜか。基本要因として、地球温暖化の影響が指摘されている。
温暖化と大雨の関係は完全には解明されていない。だが、平均気温が上がると海などから蒸発する水蒸気の量が増え、積乱雲をつくる。積乱雲は気温や海面水温の上昇に伴う強い上昇気流で発生し、発達して雷を伴う大雨を30分から1時間程度にわたって降らせる。 「ゲリラ豪雨」と呼ばれるゆえんだ。7月5〜6日の九州北部の豪雨も、連続発生した積乱雲がもたらした。
国立環境研究所の塩釜秀夫・主任研究員は「個別の現象と温暖化との関係は断定できないが、一般的な傾向として暑くなれば蒸気量が増えるので豪雨が増える。強い台風も増えることが確認されている。(極端現象の事例がもっと)集まれば温暖化との因果関係がはっきりする」と語る。

世界各地で極端現象

極端現象が多発しているのは、日本だけではない。
5月下旬にはパキスタンに熱波が襲い、気温53.5度を記録した。6月にはイラン、アラブ首長国連邦(UAE)でも50度を超え、南欧や東欧も40度以上の高温が続いた。 7月には米カリフォルニア州デスバレーで50度を超えた。各地で熱中症による死者、農作物被害、豪雨、干ばつ、山火事、給水制限などが相次いだ。
8月には、メキシコ湾で発生した大型ハリケーン「ハービー」が米テキサス州を襲い、洪水被害を広げた。ハリケーンによる死者は50人超。被害総額は、過去最大規模とされた05年のハリケーン「カトリーナ」を上回った。
大雨が続く中、全米トップと2位の製油所が操業停止に追い込まれた。ハービーがもたらした雨量は、米本土に上陸したハリケーンとして観測史上最大。被害の大きさにトランプ大統領が被災地への視察と支援表明を余儀なくされた。
米海洋大気局(NOAA)によると、16年の世界の気温は観測史上最も高かった。3年連続で最高記録を更新した。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は13年に発表した第5次評価報告書で、人間活動を主な要因とする気候温暖化は「数千年間にわたり前例のないものだ」と認定。 特に「地球の北半球では1983〜2012年は、過去1400年において最も高温の30年間だった可能性が高い」と指摘した。その結果、気候変化が極端になり、世界規模で寒い日が減って暑い日が増え、欧州、アジア、オーストラリアの大部分で熱波の頻度が増す一方、ゲリラ豪雨のような大雨の頻度や強度が増している現実に言及した。
世界の平均地上気温は、1880年以降、2012年までの間に0.85度上昇。日本の平均気温は1898年以降100年当たり1.15度の割合で上昇した。日本は気温、海面水温とも世界平均より一段高い。 地上気温の上昇は、海洋の温暖化をもたらし、北極や南極の氷を融かして、地球の気象をかく乱する。これが地球規模の極端現象の背景にある。

IPCCの同報告書は、気候変動の影響によって起き得るさまざまな極端現象の一つとして「大雨の頻度、強度、大雨の降水量の増加」を挙げた。 その上で、 1. 世界平均気温が上昇するにつれて極端な高温がより頻繁に生じる一方で極端な低温が減少することは確実である、2. 中緯度の陸域のほとんどと湿潤な熱帯域において、今世紀末までに極端な降水がより強く、より頻繁となる可能性が非常に高い―と結論付けている。
この中で、短時間に集中的に強い雨が降る現象が日本で増える見通しも併せて示している。「日本全域で21世紀末には1時間降水量50ミリ以上となる(豪雨の)年平均発生回数が増える」という。
気象庁の「予報用語」では、1時間当たりの降水量50ミリ以上は「非常に激しい雨」と定義する。このレベルに相当する雨が降った場合に生じる災害の例として、都市部では地下室や地下街に雨水が流れ込む、マンホールから水が噴出する、土石流が起こりやすい、などが挙げられている。
IPCCの予測はいま、次々に現実のものとなりつつある。