■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
<番外篇> 秘密法の根幹変わらず

(2014年9月18日)

政府は12月の特定秘密保護法の施行に向け、同法の問題点の解消につながると期待された運用基準の修正案を決めた。10月上旬にも基準を閣議決定する。政府は2万通を超すパブリックコメント(意見公募)を受け、部分手直しはしたものの法の骨格は修正せず、問題を積み残した。
昨年12月に国会で紛糾の末に強行採決された特定秘密保護法には、識者らから多くの問題点が指摘されてきた。とりわけ、次の5つが「問題の根幹」とみられている。

その1つは、40万ほどに上るとされる「特定秘密」が行政当局の恣意的な解釈から際限なく拡大する可能性である。大臣や長官ら行政機関の長が特定秘密を指定できることからこの懸念が生じる。事実上、官僚トップの裁量で特定秘密が指定されてしまうからだ。
2つめは、特定秘密の指定がいたずらに長期化し、解除されない可能性だ。同法では、特定秘密の指定有効期間は「原則5年」となっている。しかし必要とみなせば「30年」にまで5年ごとに延長できる。これは米国の指定期間上限の25年、英国の同20年よりも長い。
さらに、やむを得ない場合は内閣の承認を得て30年を超え、なんと60年まで特定秘密指定の延長が可能だ。その上、人的情報源など7項目の重要情報については、特別に60年を超えて延長できる仕組みになっている。
つまり、行政は重要情報の一部を国民に永久に明かさずじまいにできるわけだ。

3つめは、秘密がどんどん廃棄されてしまう可能性である。政府が指定解除した特定秘密は国立公文書館に移管され、情報公開の対象となるが、指定期間30年以下の特定秘密は内閣の承認を得て廃棄できる。これをいいことに、政府が隠したい不都合情報を廃棄してしまう恐れがある。
4つめは、厳罰化で報道活動や公務員の内部告発(通報)が抑えられ、「国民の知る権利」が損なわれる恐れだ。
政府は公表した特定秘密保護法の運用基準素案で「報道・取材の自由に十分な配慮をする」としているが、同時に、情報漏洩の働きかけを受けた職員等には上司や適当な者への報告を義務付けている。配慮はしても取材の働きかけには逐次報告せよ、というのだ。どの程度“配慮”したらよいか規範が示されていないため、現場の職員等は取材を受ければ戸惑うほかない。
特定秘密を漏らした公務員への刑罰は最高懲役10年と重い。しかも市民や記者が秘密を知ろうとすると漏洩の「そそのかし(教唆)」、「共謀」、「煽動」の罪に問われ最高懲役5年を科される恐れがある。
どんな行為が「そそのかし」などに該当するのかの判断は、公安警察など当局に委ねられるから、うっかりした報道活動はできなくなる。政府への取材・報道は慎重にならざるを得ない。
他方、特定秘密を取り扱う公務員や関係民間業者も、漏洩の厳罰を念頭に行動しないわけにはいかない。これは特定秘密取扱者の薬物使用や飲酒癖、信用状態を調べる「適性評価」と並んで、公務員らに多大なストレスを与え、取材に応じたり、内部告発することに気後れするのは必至となる。
そうなると、報道する側、される側双方に「報道活動への自制」が生じる。政府内の問題や予算のムダ遣いを明るみに出す内部告発も、公務員が身の危険を感じて思いとどまり、抑えられる。結果、国民に適切な情報が与えられずに「国民の知る権利」が失われていく恐れがある。

5つめの問題は、危うい法の運用を十分に監視できない可能性である。
国会で監視役に当たる「情報監視審査会」は監視活動は行うが、会議は非公開の上、運用改善を勧告しても強制力はない。
監視機関とされる内閣府の「「独立公文書管理監」とその下に置かれる「情報保全監察室」。同じ官僚組織のため独立性に欠けるのに加え、同管理監のトップは審議官級なので秘密指定権限者の行政機関の長に対抗上、立場が弱い。
内閣官房に設けられる監視機関「保全監視委員会」の場合は、事務局を務めるのが特定秘密保護法を企画立案し、同法を所管する内閣情報調査室(内調)。実行責任者だから監視役を立派にこなすとは到底、期待できない。
欠陥だらけの法律といえる。

政府は7月に運用基準の素案を公表。その後1か月間に寄せられたパブコメを受けて9月に修正案を策定した。修正案は新たに「国民の知る権利の尊重」などを明記したが、法の根幹部分は変えていない。