■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」

<番外篇> 震災復興に国民負担路線


(2012年3月21日)

東日本大震災から早くも1年が過ぎた。この間の経過を見ると、3つの留意すべきポイントが浮かび上がる。
1つは、悲惨な災害への同情と復興への協力を通じて深まった「絆」である。日本全国で「頑張ろう」の掛け声がこだまし、被災者への支援の波が広がった。それは、毎年3万人以上も自殺者を出す孤独な“無縁社会”とは無縁の熱い思いであった。
絆の証明は、国内の延べ94万人に及ぶ復興ボランティア、4400億円達した募金額にとどまらない。海外からも126カ国・地域から支援物資が届けられ、募金額も最貧国のアフガニスタンを含め175億円に上った。
被災者と日本人をはじめ世界の人びととの間に絆が力強く結ばれ、世界中の人びとが共鳴したのである。

2つ目の留意ポイントは、この絆を傷つけたのが原発事故だったことだ。
被災地の仮置き場に積み上げられたがれきの処理が進まないのも、放射性物質の拡散を恐れて被災地以外の自治体が受け入れに難色を示すからだ。「なんとかしてあげたいが、地元への引き取りは不安」という気持ちが働いている。こうして岩手、宮城、福島3県合わせて2252万トン超のがれきが発生したが、処理が完了したのは6%ほどに過ぎない。
つまり、放射性物質が復興への絆を断ち切ろうとしているのだ。
震災復興の成否は、したがって原発事故処理と絡み合う。原発事故被害の大きい福島県は、とりわけ復興の道のりが険しい。放射性物質を除染し、福島第1原発の1号機から4号機までの廃炉処理を実施していかなければならないからだ。廃炉には、推定40年という途方もない時間がかかる。
この教訓から、政治は原発の巨大なリスクを深刻に受け止め、その長期的な扱いをしっかり考えなければならない。廃止の方向でスケジュールを作らなければならない。

留意ポイントの3つ目は、政府の復興対応の不手際である。国民の被災者への高い同情を利用し、もっぱら国民に負担を求める形で復興予算を組み立てた点に、それは表れている。
リーマン・ショック後、名目GDP(国内総生産)が500兆円の大台を割り、再びデフレ化した日本経済が立ち直りかけた時に、東日本大震災が発生した。
この状況下で、民主党政権は12年度の復興予算を所得税などを臨時増税することで賄った。同時に、膨らむ社会保障の財源確保を理由に、2015年までの10%への消費増税を決めたのである。
つまり、国民に重荷を負わせる増税を中心に財政をやり繰りすることにしたのだ。一方で、消費増税の根拠とされた社会保障改革の内容が民主党内でまとまらない。そこで社会保障との一体改革から消費増税を切り離して、法制化に向けて動き出した。

大震災、原発事故、電力危機、タイの大洪水、欧州通貨危機、超円高―と、昨年は不運が一挙に重なった。11年度は貿易収支が31年ぶりに赤字転落し、名目GDP、消費者物価ともにマイナスのデフレ・マイナス成長の見通しだ。この国難にもかかわらず、野田佳彦内閣はほぼ「増税1本やり」で切り抜けようとしているのだ。
震災復興予算をみると、復興特別会計を設け、これに備える資金を主に国債(復興債)と臨時増税から賄う。5年間に投入する資金19兆円のうち10.5兆円相当を臨時増税が占める。内訳は所得税約7.5兆円、法人税約2.4兆円、個人住民税約0.8兆円。家庭の負担増が柱だ。試算によると、夫婦で子2人、年収800万円の場合、年間7000円の負担増となる。デフレ不況から個人の可処分所得、家庭の預貯金ともすでに減少傾向にあり、負担増は厳しい。

12年度予算では他方、特別会計への計上分を含めると公共事業は前年度比実質11%も増えた。なかには震災と関係ない、民主党マニフェストで「廃止」を謳った八ツ場ダム建設工事の再開分、3大都市圏の環状道路整備分、事業仕分けで廃止となったスーパー堤防の一部復活も含まれる。どさくさに紛れてバラ撒いた格好だ。震災復興を含め、中長期の膨らむ財源は「増税」で―野田内閣は、財務官僚が敷く国民負担路線を走っている、というほかない。
この増税路線が続く限り国内の消費をさらに冷やし、日本経済を一層沈めてしまうのではないか、との心配がよぎる。政府の復興対応から今後も目が離せない。