■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第151章 消費増税で税収減の危機/最悪のシナリオ実現か

(2012年5月23日)

消費増税の成否がかかる社会保障と税の一体改革関連法案が、国会ですべて審議入りした。「社会保障費を賄う財源として消費増税は適切か」が焦点となるが、とりわけ景気低迷下での増税のタイミングが問題となろう。歴史の示すところ、消費増税は個人消費を鈍らせデフレ不況を悪化させる可能性があるためだ。

野田首相ら政府の増税派は、財務省の描いた「消費増税シナリオ」に乗り、消費税の引き上げ効果を信じてそれが唯一の財政危機の解決策であるかのように喧伝してきた。消費増税を「不退転の決意」と強調する、野田首相の再三の決意表明がこの信念を物語る。
しかし、消費増税の財源創出効果は果たして絶大なのか―。所得減税などの経済刺激策を講じずに実施された場合、消費増税が国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費に大打撃を与え、経済のデフレ化を一段と促す恐れがある。そうなると、消費税収は増税分相応に上がっても、所得税、法人税が落ち込み、税収総額はむしろ減少する可能性が大きい。
というのも、歴史の教訓がこれを示すからだ。消費税を3%から5%へ引き上げた前回、97年4月当時、97年度の税収総額は消費増税の効果から53.9兆円へと著増した。ところが、翌98年から日本経済はデフレの泥沼に入り込む。以後、デフレ不況の長期化にあえぎ、これに伴い税収難に陥っていく。
結果、消費税収は引き上げ以前より増えたものの、税収総額はこれまでに97年度水準を一度も上回ったことはなく、低迷が続いた。消費増税が一因となったデフレ経済化で、基幹税の所得税と法人税の税収が低落したためだ。

09年度の国の一般会計税収(決算ベース)をみると、総額37兆6655億円と40兆円台を大幅に割り込んだ。リーマン・ショック後の景気の落ち込みから消費税収は前年度に比べ0.2兆円減の9.8兆円にとどまったが、所得税収は2.1兆円減の12.9兆円、法人税収はなんと3.6兆円減の6.4兆円に急落している。デフレ不況下では肝心の税収総額が減少し、財政事情がむしろ悪化することを裏付けた形だ。
経済活動を刺激もしくは国民負担を軽くする経済・金融政策を併用せずに消費増税を実施すれば、目的とする税収増自体の実現が困難になる可能性が高い。

日本経済はいま、震災復興需要で上向いてきたとはいえ、依然厳しい状況にある。名目GDPは、08年9月のリーマン・ショック前まで毎年500兆円の大台を超えていたが、いまでは470兆円台に急落している。
デフレ下の企業業績の悪化に伴い、サラリーマンの収入も低下、家計の可処分所得は07年から毎年、縮小し続け、昨年は全四半期でマイナスとなった。つれて家計の最終消費支出も08年から落ち込んできた。
しかし、野田民主党政権は、国民に「我慢を求める政策」しか取っていない。国民の我慢強さをいいことに、これに乗じて国民負担路線を突き進んでいる感がある。
野田政権の性質は震災復興予算をみれば分かる。それは主に臨時増税と国債から賄われたが、うち柱となったのは所得税や個人住民税など家計の負担増だった。
消費税の10%への引き上げが実現した場合、国民の負担が増えるのは税金ばかりでない。ジワジワと増え続ける社会保険料の負担がずっしりとのしかかる。

昨年を例にとると、9月から厚生年金保険料率が本人負担分(以下同じ)で8.029%から8.206%へ引き上げられた。健康保険(協会けんぽ)料率が3月に全国平均4.67%から4.75%へ、介護保険第2号(40歳以上65歳未満)保険料率も3月に1000分の7.5から7.55へ引き上げられた。
厚生年金保険料は5年後の17年9月には事業者負担を含め上限の18.3%にすることが04年の年金制度改革ですでに決まっている。このゴールに向け毎年9月に少しずつ引き上げられていく。保険料率はサラリーマンの標準報酬月額に応じてかかり、保険料は企業と折半して源泉徴収される仕組みなので、サラリーマンの負担は確実に増えていく。

協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合、今年も3年連続で引き上げられ、半分負担する中小企業の経営者から悲鳴が上がった。東京都の場合、事業主負担分を含め3月分より9.48%から9.97%へ引き上げられた。
厚生労働省によれば、社会保障費負担は12年度の101.2兆円から25年度には146.2兆円に増える見通しだ。うち保険料の負担は税負担よりも4割大きい。
仮にこのまま消費税引き上げに進んだ場合、国民は「可処分所得減と税・社会保険の負担増」のダブルパンチを受ける形となる。最悪のシナリオは、デフレ不況が再び加速して景気が急悪化し、税収が全体として落ち込んで財政不安が一層強まることだ。そうなると日本経済への信認が急速に失われ、日本国債が突然、売りを浴びてギリシャ化する恐れが現実化する。
この最悪のリスクを避けるには、日本経済をデフレから脱却させ、成長軌道に乗せるしかない。政府は国民の可処分所得を増やし、経済の活性化を図る政策をまず優先する必要がある。消費増税を含む国民負担増は、経済回復後まで縮小もしくは後回しにする選択肢も考えられる。

問題は、民主党政権が「高福祉・高負担」の「大きな政府」を目指しながら、いまもって社会保障の全体像を示さないことだ。「負担」に見合う「受益」が見えないまま、国民負担は際限なく増え続けるのではないか―こうした不安が国民の間に広がっているのである。
各種世論調査によれば、消費増税への「反対」が「賛成」を上回るが、これはやみくもに反対している結果ではない。政府が増税する理由を十分に説明せず、将来の社会保障像が分からない上に、先行してやるべき公金のムダの排除や「埋蔵金」の掘り起こし、公務員給与や議員定数・歳費の削減を怠っているために、国民の多くは異議を申し立てているのである。