■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
<番外篇>最高裁がセブン商法の欠陥指摘/ 「加盟店との契約条項に問題」 /順風満帆の商法に警告

(2007年7月23日)

  消費期限切れ直前に廃棄処分された商品や、万引きされた商品の原価(廃棄ロス及び棚卸ロス)からもコンビニ加盟店にロイヤルティを支払わすセブン―イレブン・ジャパンの契約をめぐる裁判の上告審で、最高裁は「契約条項に問題がある」と補足意見で指弾した。順風満帆だったセブン商法は、軌道修正を余儀なくされそうだ。

 問題の補足意見は、6月11日に最高裁第2小法廷による判決の際、関与した4裁判官中2裁判官から出された。同裁判はセブン側とフランチャイズ(FC)契約を結び、埼玉県で「セブン―イレブン」店を経営するH氏が、不当にチャージ(ロイヤルティ)を徴収され続けたとして同社に約3460万円の「不当利得の返還」を求めた訴訟。消費期限切れ直前に処分する廃棄ロスや、万引きによる棚卸ロスにまでチャージを掛ける契約が妥当かどうか、また本部がその契約内容を加盟店に十分説明していたか ― が争点となった。

セブン契約は「錯誤」の恐れ

 2審の東京高裁は2005年2月、廃棄ロスと棚卸ロスの原価をチャージ金額に含めることについて「一般の会計方式と異なるのに契約書に明確な規定がない」などとして、加盟店勝訴の逆転判決を下している。
 これに対し最高裁は、同判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻した。破棄の理由は、セブン側が主張するチャージ算定方法を妥当と認定したためだ。
 しかし注目すべきは、2裁判官が次の補足意見を付けたことだ。
 廃棄ロスや棚卸しロスの費用についてまでチャージが掛かることに関し「契約書上一義的に明確ではなく、被上告人(前出のH氏)のような理解をする者があることも肯けるのであり、場合によっては、本件条項が錯誤により無効となることも生じ得るのである」。つまり、契約書の不備・説明不足から加盟店側に「錯誤」を起こし、契約が無効となる可能性がある、とした。これは事実上、セブンのFC契約に「欺瞞性がある」と認定したものだ。

不適切な契約

 補足意見は、さらに次のように厳しく続く。「加盟店の多くは個人商店であり、上告人(セブン)と加盟店の間の企業会計に関する知識、経験に著しい較差があることを考慮すれば、詳細かつ大部な付属明細書やマニュアルの記載を参照しなければ契約条項の意味が明確にならないというのは、不適切であるといわざるを得ない」「廃棄ロスや棚卸ロスについてチャージが課せられる旨の直接の説明はなく、これらが営業費に含まれ、かつ、営業費は加盟店の負担となるとの間接的な説明があったにすぎない・・・」
 そして、次のように結んでいる。 「本件契約書におけるチャージの算定方法に関する記載には、問題があり、契約書上明確にその意味が読み取れるような規定ぶりに改善することが望まれる」

 こうしてみると、最高裁判決はセブン側の主張を認めたとはいえ、セブン商法を支えるFC契約の欠陥を指摘している。同判決を受け、加盟店からのロイヤルティで流通業界トップの利益を上げてきたセブンが、今後どう対応していくか、に焦点が移る。いずれにせよ、最高裁からも疑義が出された“コンビニ会計の特異さ”を納得してもらうため、加盟店やFC契約希望者にとくと説明しなければならなくなろう。だが、果たして円満に説得できるだろうか―。

働けど報われず

 というのも、セブン相手のコンビニ訴訟は、敗訴に終わった別件のほか、目下、東京地裁でも進行中だからだ。セブンばかりでない。コンビニ・チェーンのローソンやファミリーマート、サンクスも加盟店から同様に訴えられている。訴訟が多発している背景に、セブンが給料と合わせ「3大営業費」とみなす廃棄ロスと棚卸ロスにもチャージが掛かる仕掛けがある。これによって、コンビニ加盟店は「働けど報われない毎日」を余儀なくされているからだ。
 チャージの金額は半端でない。チャージはチャージ算定の基礎となる「売上総利益」(売上高から売上商品原価を差し引いたもの。粗利益に相当)に対し、チャージ率を掛けて算定する。売上総利益が月「400万円超550万円以下」の場合、チャージ率は69%にも上る。先の東京高裁判決によると、前出のH氏の店では各月の「売上総利益」は廃棄ロスと棚卸ロスの原価を含めると400万円を超えていた。その69%が、ロイヤルティとしてセブン本部に吸い上げられるのだ。
 他方、訴訟がセブン系に目立つ理由は、契約にロスチャージについての明確な記述がないことが一因、とみられる。
 同高裁の証拠資料によれば、同種のコンビニ・チェーンの本部であるローソン、デイリーヤマザキ、ミニストップでは同様に「売上総利益」を基礎にチャージを算定しているが、セブンとは異なり廃棄ロスと棚卸ロスの原価を売上原価から控除することを契約書に明記してある。セブンのは“限りなく不透明に近い契約”のせいで、加盟店から不満が起こりやすい。
 問題のコンビニ会計のカラクリは、こうだ。10個のおにぎりを80円で仕入れて各100円で売り、1個が売れ残って廃棄したとする。その場合の粗利は〈900―800円=100円〉というのが会計の常識だ。ところがコンビニ会計では、この粗利に廃棄されたロス分80円を加えて180円とし、ここからロイヤルティを取る仕組みなのだ。

公正取引委員会、中小企業庁も注意を呼びかけ

  コンビニのFC契約については、公正取引委員会も、加盟店募集方法が独占禁止法違反に当たる可能性がある、としている。
  公取委の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」の改訂版(2002年4月発表)によると、本部がロイヤルティの算定方法に関し必要な説明を行わなかったり、「売上総利益」の定義について十分な情報開示を行っていないような場合は「不公正取引方法(ぎまん的顧客誘引)」に該当する、というのだ。
  他方、中小企業庁もコンビニにおけるロイヤルティの計算方法を例示して加盟希望者に「十分に確認した上で契約を結ぶよう」注意を呼びかけている(中小企業庁編『フランチャイズ契約は気をつけて』)。

  セブン―イレブン・ジャパンは今回の最高裁判決について「当社の主張が認められた妥当な判断で、判決内容に敬意を表する。今後のフランチャイズ事業の発展に向け、より一層まい進してきたい」とコメントしている。しかし、セブンの「会計の常識」に、司法が最終的な注文を付けたというのが実情だ。