■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第103章 「信頼大揺らぎの独立行政法人制度/機能不全の府省評価委員会」

(2007年8月6日)

   特殊法人改革の「切り札」ともみられた独立行政法人(独法、計101法人)の信頼性が、大きく揺らいでいる。緑資源機構事件で明らかになったように、所管省庁の天下りOBが理事長をはじめ役員の大部分を占める独法が、省庁や自らが天下る公益法人と民間企業に対し、発注業務を独り占めさせる「官製談合」を主導していたためだ。年間約3.5兆円(2007年度)に上る独法予算の使われ方や業務契約のあり方など、独法の制度を含む抜本的見直しが問われている。
 政府は今秋、その多くが特殊法人から移行し、中期計画終了を迎える独法31法人の事業を見直す〈表1〉。これを踏まえ、年内にも「独立行政法人整理合理化計画」を発表する方針だ。独立行政法人制度の発足から6年余り ― 「第2の特殊法人」と化した感がある独法に対し、政府がどこまで「廃止や民営化、民間や地方への委託・売却」に踏み込めるか。

独法が主役の官製談合

  緑資源機構事件は、中央省庁から得た予算を手に独法が主導した官製談合の仕組みを浮かび上がらせた。それは次のような特性を持つ。
1. 独法(緑資源機構)役員が公益法人を含む天下り先業者に対し、所管省庁(農林水産省林野庁)と同独法からの天下り実績に沿って発注予定工事と落札予定業者名の「配分表」を作成し、これをもとに指名競争入札させ談合を主導、2. 同機構の天下り先の公益法人が林道調査の受託事業を民間企業に“丸投げ”していた、3. 丸投げされた企業は官庁OBの再天下り(わたり)を受け入れていた ― など、天下りと官発注の独占的な業務契約との「持ちつ持たれつ」の関係だ。

 衆院調査局がことし3月に公表した調査結果によると、独法や公益法人など天下り先法人に対し業務契約や補助金交付の形で、昨年4月から6カ月間に中央省庁から全予算の61%に当たる5兆9200億円が支出されていたことが判明している。国民の税金を原資とする補助金や委託費が、国民の与り知らぬうちに「中央省庁→独法など天下り先法人」のルートで使われていたのだ。
 こうした状況下で、独法から民間企業への天下りは、年々増えている。独法の退職者が役員に就任している子会社や下請け会社の数は、2002年度の1社から毎年急増し、05年度には120社に達した。同120社の役員の8.2%に当たる142人が公務員OB。独法OBはさらに多く、省庁出身者の「わたり」を含めると14.2%の245人にも上る(『独立行政法人評価年報 平成17年度版』)。独法の企業への影響力はまぎれもなく、年と共に増大しているのだ。

業務契約チェックが必要

 このことは、政府の行政改革推進本部をはじめ、各府省や総務省の第3者機関の評価委員会が独法の事業をチェックする場合、業務契約のあり方と受注法人の天下り状況にまで目を光らさなければならないことを意味する。発注者が任意で行う随意契約とか「談合」を生みやすい指名競争入札で、独法の発注が天下り先業者に集中しているようなら、コンプライアンス(独禁法)違反行為かその可能性があるからだ。  このように、各独法の発注が「官益優先」の発想から来ていることは、民主党の請求を受け衆院調査局が行った各独法の05年度支出調査からも読み取れる。国の事業予算は「官から民へ」ではなく、「官から官の聖域(天下り先)へ」流れているのだ。
 同調査によれば、天下り先への発注額の7割近くが随意契約で、残りの大部分は指名競争入札だった。なかでも今秋に事業が見直される都市再生機構はファミリー企業向けの随意契約が目立ち、随意契約額は独法中最大の約598億円にも上る(朝日新聞調べ)。
 独法の見直しに際し、こうした業務契約のあり方をチェックしなければならないのは自明の理だ。カネの流れが「官から民に」なっているか否かをだ。それは取りも直さず、官業がコンプライアンスを順守しているかどうかを点検することにほかならない。

監視体制の「機能不全」

  緑資源機構事件が起こった一因に、独法に対する監視体制の「機能不全」がある。独法の事業に関しては、3―5年の中期目標管理を第3者機関である府省庁の評価委員会と、総務省の「政策評価・独立行政法人評価委員会(以下、「政策評価委」と略)」がダブルチェックする仕組みとなっている。
 しかし、総務省の政策評価委とは対照的に、各府省の評価委員会は軒並みチェック機能が働いていない。チェック機関というよりも、むしろ「仲間うちの応援団」(消息筋)といったほうがふさわしい。
 緑資源機構をチェックする農水省の独法評価委員会・林野分科会(委員15人)を例に挙げよう。同機構に対する総合評価(A―Cの3ランク)は、05年度、06年度ともなんと「A」評価だったのだ。
 その理由として、「中期計画に対して概ね順調に推移していると判断された」という。機構の事業に立ち入ろうとせず、「外づら」をなぞった結果、「A」ランクとされたのだ。
 委員らは「業務運営に対する総合的な意見」で次のように持ち上げている。 「中期計画等に沿って事業・取組が着実に進められ、業務運営の効率化が図られていることを評価するとともに、今後の一層の努力を期待する。また、本機構の意義・必要性について、国民に一層わかりやすく説明していくことを期待する。なお、評価結果について、業務運営へのフィードバックにつながり始めている印象を強くした」
 緑資源機構と所管の農水省にとっては、まことにありがたい評価であろう。問題は、各府省のどの評価委でもこの種の「A評価」がまかり通っていることだ。「官から民へ」の改革の視点が、まるで欠落している評価といえるだろう。

府省の「応援団」

 府省評価委員会の「応援団ぶり」をもう少し詳しくみてみよう。
 6年前に華々しく登場したサッカーくじ(toto)を運営する日本スポーツ振興センター。Jリーグの人気に便乗するはずだったが果たせず、多額の累積欠損を抱えて運営は厳しい。
 所管の文部科学省評価委は、06年度の見通しで、同センターの業務のあり方について「・・・中期目標の達成のためには業務の改善が必要である」と、ごく当然のことを指摘しただけ。具体的な助言や指導の類いはない。
 同評価委は続いて、取組中の改善策を通じて「今後、業務運営の効率化・売上向上に最大限努め、財務内容の改善を図り、もって助成財源(くじ収益の3分の2)が確保されることを期待する」と、通り一遍の期待感を表明して意見を終えている。肝心の「toto」の制度改革には触れずじまい。この程度なら、素人でもいえる内容だろう(これに対し総務省の政策評価委は、「toto制度そのもののあり方の再検討が可能になるような評価を行うべき」と注文を付けている)。

 雇用・能力開発機構が運営する「私のしごと館」。「私のしごと館」は、建設費に雇用保険財源から580億円を投じ、「若者たちにやりがいのある仕事をみつけてもらう」狙いから、2003年10月にオープンした機構直営の人材開発施設。しかし見通しが甘く、事業経営費21億円に対し収入は1.1億円(04年度)、その後も大赤字経営が続いている。これに対し、厚生労働省評価委の評価はどうか。
 同評価委は「・・・利用者のアンケート調査でも84.8%の方から『大変参考になった』等の評価を受けており、評価としては良好である」と称え、雇用保険財源で損失を穴埋めしている財政事情は無視した形だ(これに対し総務省評価委は、当然のことだが、「廃止を含めた検討」の必要に言及している)。
 政府が01年12月に発表した特殊法人等整理合理化計画。この中で「地方や民間で可能なものは、機構の業務としては速やかに廃止とする」とした雇用・能力開発機構の「在職者訓練」に関しては、どんな評価だったか。
 厚労省評価委は、アンケート調査で受講者や派遣した事業主の9割以上から「役に立った」との評価を得た、として、ここでも「評価できる」と断じている。

1000人超もいる評価委員

 こうした「身内意識」からみて、府省評価委員会に十分な監視機能は期待できそうにない。
 問題は、府省の評価委員を全部合わせると、なんと延べ1084人(06年調査時点)もいることだ〈表2〉。総務省の政策評価委の同39人に比べ、異常なくらいに多い。
 委員会の最大世帯は、国土交通省評価委の93人。同省は文科省に次いで多い独法20法人を所管していることから、委員の数が多くなるとしても、ケタ外れの人数だ。
 「こんなに委員が多い理由は何か?」との筆者の問い合わせに、同省独法担当官は文書で次のように回答してきた。
 「委員会及び分科会は、独立行政法人通則法の規定に従い、客観的かつ中立公正の見地から適正な評価を行えるよう、1. 「経済」「法曹」「マスコミ」等の一般的分野の有識者、2. 各独立行政法人固有の業務に関する専門的分野の有識者を総合的にできるだけバランス良く人選することとしております」

 たしかに、各界から万遍なく有識者を集めているのである。しかし、みるべき結果が出ていない。その理由の一つは、会議の少なさだ。「膨大な資料をもとに、府省では年にほんの数回、会議を開くだけの委員会が多い」と、総務省関係者は指摘する。総務省の政策評価委は年間90回ほど開かれ、1回につき2―4時間かけて会議している。時には現地調査も行う。
 国交省によると、本委員会と分科会を合わせ昨年度の開会数はわずか27回。うち本委員会は昨年8月に1度開かれただけ。これでは十分な審議ができるわけがない。そもそも、やる気があるのか疑わしい。「体裁ばかりで開店休業状態」の印象は否めない。
 委員が延べ1000人以上ともなると、役所が出席委員に支払う経費も半端でない。1回の委員会出席に対し「委員手当が(本)委員が20200円、臨時委員が18300円のほか、委員ごとに所定の旅費が支払われる」(国交省)からだ。
 となると、委員全員が年27回の全委員会・分科会に出席するとして計算すると、支給総額はざっと5600万円程度になる。これに地方から出張する委員を含め旅費を1人当たり1日につき平均5000円支払うと仮定すると、年に7000万円超の経費がかかる計算だ。
 いうまでもなく、委員会運営のコストはすべて国民の税から賄われる。府省評価委員会の「実質なき会議」の“ムダ”をこの際、なくす必要がある。




〈表1〉
(注) △は、18年度に融資等業務の見直しを実施済みの法人。
(出所:総務省)

〈表2〉 府省独立行政法人評価委員会委員数  1084名
(筆者作成)