■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第97章 NPO法人が公益活動の主役に躍り出る / 寄付金優遇を拡大せよ

(2006年10月2日)

  NPO法人(特定非営利活動法人)の数が、法施行後8年足らずで早くも約2万8000に達し、制度発足以来108年の伝統を持つ公益法人(財団、社団)の約2万5000を上回った。NPO法人の急増は当分続くとみられ、法人の財政を支え、民間公益活動をさらに促進するには、2008年度から施行される公益法人の新制度に伴い「寄付金優遇のあり方」が最大の課題となってきた。その多くが官主導で設立された公益法人に比べ、寄付金に対する税優遇など、不十分なNPO法人の環境を早急に改めなければならない。

「お国任せ」から脱皮

  公益法人が1999年以来、整理・統合などで減少傾向をたどっているのに対し、NPO法人の勢いは止まらない。NPO法人数は今年7月末時点で2万7807。公益法人の2万5263(調査は総務省による昨年10月1日時点、以下同じ)を大きく逆転した。NPO法が施行された1998年12月以来、毎年ほぼ4000法人のペースで増え続けた結果だ。いまや数の上ではNPO法人が公益活動の主役に躍り出た。制度を管轄する内閣府によると、最近目立つのは「団塊の世代」が退職を間近に社会貢献を志して起ち上げるケースだ。NPO活動を担う年齢層が一段と厚みを増しているのである。

 公益法人の多くは、外郭団体のように行政のニーズから官主導で設立された。行政に代わって事務・事業を行う「行政委託型法人」がその好例だ。これに対し、NPO法人は民間からの「自発的な志を実現する場」として創設されてきた。内閣府は、NPO制度を濫用した営利目的とみられるケースも一部に現れてきたと警戒するが、流れは圧倒的に社会全体の利益、すなわち「公益」にとうとうと向かっていることは間違いない。

 こうした「民」からの自主的な公益活動は、従来の公益法人がともすればその目を「市民」ではなく、主務官庁や業界に向けていたのとは対照的だ。NPO法人の増勢は、欧米社会の先進的な民間ボランティア活動を追走する動きがいよいよ加速してきた表れ、と捉えることができよう。
 それは日本国民が「お国任せ」の依存心から、ようやく脱皮する一歩を踏み出した表れ、ともいえる。松岡紀雄・神奈川大学教授によれば、米国ではNPOの数は年間収入5000ドル(約60万円)未満の零細組織を加えると700万―800万に達する、といわれる。政府とは別の「問題解決者」として市民の信頼を幅広く得ているのだ。
 日本社会の民間公益活動は、組織の数の上でも寄付金額でも米国になお遠く及ばないが、阪神大震災を契機に制定に向かったNPO法を足掛かりに、初めて草の根レベルで大がかりに動き出したのである。

保健・福祉NPOが活発

 NPO法人の活動状況をみてみよう。
 内閣府が今年5月にまとめた「平成17年度市民活動団体基本調査」によれば、特色の一つは小規模団体が多いことだ。年間収入1000万円未満のNPO法人は6割弱、社員(社員総会の議決権を有する法人の構成員)の数30人未満の法人が5割弱を占める。年間収入3000万円以上、社員数50人以上の法人はそれぞれ1割強しかない。平均年間収入額は2147万円、平均職員数はたったの6.6人だ。
 公益法人の場合、平均年間収入額は7億2000万円、理事ら役員を除く平均職員数は22.5人。年間収入10億円以上が1割近い2434法人、500人以上の職員がいる大型法人も148法人(0.6%)ある。総じて公益法人のほうが、新興のNPOより運営基盤が堅固だといえる。

 NPO法人の活動分野をみてみよう。ここにも公益法人との相違がみえる。
 NPO法人の活動分野で最も多いのは、「保健、医療または福祉の増進を図る活動」で50.6%。次いで「子どもの健全育成」の40.5%、「社会教育」36.6%、「まちづくり」34.6%と続く。
 これが公益法人だと、最も多いのは教育・訓練、研修会・講習会、相談などの「指導・育成」で60.8%。続いて振興、助成・給付、貸与、表彰、信用保証など「振興・奨励」の48.9%、「調査・研究」の44.0%など。都道府県所管の財団に「施設の運営」が多いのも特徴だ。

行政もNPOを活用

  いわばNPO法人が主に市民生活に直結する「身近な問題」を扱うのに対し、公益法人は行政と結びついた「上からの対応」といった色合いが濃いといえるだろう。
 だが、行政も最近、NPO法人の活用に本腰を入れだした。一例を挙げると―
 ことし7月末、農林水産省と外務省は、ウズベキスタン共和国に国内の余剰生乳で加工した脱脂粉乳100トンを支援物資として送ると発表した。脱脂粉乳は、現地の障害児施設で、NPO法人「ワールド・ビジョン・ジャパン」と「ワールド・ビジョン・インターナショナル・ウズベキスタン」が、乳幼児や子供たちに対して行う栄養改善事業で活用される。

 日本政府が同栄養改善事業に無償供与する援助額は計3750万円。このうちワールド・ビジョン・ジャパンが1981万円相当の供与を受け、事業を実施する。
 北海道では今年3月、牛の生乳約900トンが生産過剰で廃棄された経緯がある。援助物資となる脱脂粉乳の原料については、北海道内の生乳生産者団体が1000トンの生乳を無償で提供。脱脂粉乳の製造に要した経費と、工場から積み出し港までの輸送費等計2100万円については、独立行政法人・農畜産業振興機構が助成する。
 ワールド・ビジョンが事業実施団体に選ばれたのは、食糧支援分野での経験と実績を評価されたためだ。

寄付金優遇が発展のカギ

 とはいえ、運営基盤がぜい弱なためNPO法人の解散も増えている。これまでの解散数は計824法人(今年7月末時点)に上る。7月の1カ月間で393法人が誕生したのに対し、1割弱の35法人が解散している。
 NPO関係者によれば、その大部分は資金難から事業が続かなくなったせいだ。とくに開業の時は「お祝儀」の意味合いもあって、会費や寄付が集まるが、歳月とともに収入が先細りするケースが多いという。地方自治体などから補助金、委託費を得ている法人もあるが、その多くは運営を支えるほどの額でない。ここが、国や地方自治体の補助金や委託費で経費を賄える多くの公益法人(計約7800法人が受給)と異なる点だ。

 NPO法人の財政基盤をしっかりと強化し、民間公益活動を活性化させるには、欧米のような寄付金に対する税の優遇措置が欠かせない。とりわけ、寄付をした個人が所得税の算定で寄付金分が所得金額から控除される上限枠の拡大や、法人の寄付が損金算入されて法人税が減額される算入限度枠の拡大などの優遇措置が必要だ。  この寄付者への税優遇措置は、国税庁長官の認定を受けた「認定NPO法人」に対し既に実施されている。
 問題は、認定NPO法人の認定数が、前出のワールド・ビジョン・ジャパンを含め、たったの48法人(9月1日現在)しかないことだ。これはNPO法人の全体数からみれば、0.17%にすぎない。審査が厳しすぎる、と言うほかない。
 これではとても、多くのNPO法人が寄付金優遇を得て民間から広く寄付を集め、公益活動を拡大していくというわけにはいかない。そもそも税優遇の認定権限を持つ者が、国税徴収の最高責任者の国税庁長官であることが、認定NPO法人が容易に増えない根本の原因なのだ。

 08年度から施行される新公益法人制度。この制度下で新たに認定される公益法人に対し、新しい税制優遇措置が実施される見通しだ。その際、新公益法人とNPO法人の税制優遇の認定要件は、公正を図るため同一でなければならない。そして、NPO法人が寄付金優遇を受ける「公益性認定」も、公益法人同様、新制度下で新設される第三者機関(公益認定等委員会)が行うのがスジではないか。