■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第85章 「架空予算」で財務省も大揺れ
                  ― 3特別会計の甘い実態

(2005年5月30日)

 使用実績のない予算付けが行われたとして、3省庁(財務省、資源エネルギー庁、社会保険庁)が管理する特別会計の「架空予算」計上問題が、民主党議員の追及から国会などで4月に相次いで明るみに出た。
 「架空」の内容では、社会保険庁の明らかに架空のイベント予算計上に対し、財務省と経済産業省資源エネルギー庁は「別途の目的内出費」と社保庁との違いを強調するが、3省庁とも「実績からかけ離れた予算請求をしていた」点では共通する。
 問題は、1. 一般会計の5倍規模に上る特別会計予算を省庁がルーズに管理・運用している、2. 結果、請求した予算項目にない予算の使い方をした、3. 財務省の特別会計に対する査定が甘く、これを見逃した ― などの実態が浮かび上がったことだ。

「年金週間」のデタラメ

 まずは、3省庁の特別会計の問題ケースを洗い直してみよう。
 ヤリ玉に挙げられた予算は、社会保険庁の「厚生年金特別会計」と「国民年金特別会計」、経済産業省資源エネルギー庁の「電源開発促進対策特別会計」、財務省の「財政融資資金特別会計」。
 社会保険庁の場合、1998年度から2003年度までの6年間にわたり、イベント予算として年間1億円前後、計6億200万円を計上したが、予算項目にあった「コンサート」「エアロビクス大会」「綱引き大会」はこの間一度も実施されていない(04年度予算から上記3イベントは予算請求から除外)。
 担当官によると、この予算請求は「年金週間」が始まった91年度以降毎年「当然、実施するものとして請求した」という。97年度以前については「(同庁の)公式文書はすべて破棄され、保存されていないため、イベントを実施したかどうか確認できない」ともいう。
 「年金週間」は、年金制度の加入義務や保険料の納付義務を国民に理解してもらおうという主旨で、毎年11月に実施されているが、年金積立金を取り崩す形でイベント予算だけ取って行わない状況が、少なくとも6年間は続いていたことになる。
 社会保険庁はこれに対し「適正を欠いた」としているものの、予算を流用した事実はない、とし、イベントを行わずに余った「予算の残額は特別会計の年金積立金に戻した」(阿蘇俊彦・年金保険課課長補佐)という。
 問題は、この“戻し”が「年金週間」向け経費項目として記載されていないため、同庁の公表財務資料から確認できないことだが、それが事実だとしても、なぜ6年も面倒な戻しの作業となる架空の予算請求を続けたのか、理解に苦しむ。
 ともあれ、そこから浮かび上がるのは、社会保険庁の無神経でルーズな予算付けと、財務省のチェックが働いていない実態だ。

あり余る特会予算

 われわれの電気料金に含まれる電源開発促進税(05年度予算3551億円)を原資とする「電源開発促進対策特別会計」。同特会は経済産業省、財務省、文部科学省の共管だが、国会で問題になったのは、経産省資源エネルギー庁が広報活動に法外に多額な公費を注ぎ込んだ上、公益法人の社会経済生産性本部に委託した「原子力なんでも相談室」の運営用に、使った実績のない「出張説明旅費」、「外部研修費」、「事務室借料」を03年度から予算計上していた実態だ。
 過大な広報予算については、例えば「原子力のページ」「原子力情報なび」のホームページ(HP)の制作・更新の委託に同特別会計から4年間で12億円もの予算を計上していた。追及した細野豪志・衆院議員(民主)によれば、経済産業省本体のHPは年間132万円の予算で済んでいる。
 「架空の予算」は、何に使われたのか―。「その分の予算は世論調査などに使った。不正使用はしていない」と、同庁電力・ガス事業部政策課は弁明する。なるほど、同庁作成の「原子力なんでも相談室」の予算と実績の比較表(03年度)をみると、予算の積算項目にあった相談業務向けの旅費など計3180万円相当は実績欄から消え、代わりにアンケート世論調査に1917万円、データベースの追加・改訂に692万円、質問等対応管理システム改善に288万円が計上されている。
 菅原郁郎・同事業部政策課長は「(予算と実績が)ズレても当たり前という観念があった。実態に合わなかったことは反省している」と語る。
 世論調査などへの出費にもかかわらず、「なんでも相談室」を含む委託費の予算は、結局使い切れずに、特会に剰余金として計上したという。
 ここで浮かび上がってきたもう一つの問題は、電源特会では原発の立地難から予算が使い切れずに毎年剰余金が出ていることだ(同特会の03年度純余剰金は934億円)。
 一般会計が財政悪化の一途をたどる中で、電源特会は逆に資金がダブついているのである。核燃料リサイクル対策費や新エネルギー開発への資金転用とか、特会資金の一般財源化が今後の課題となる。

財務省の「不適切」な予算付け

 「架空研究会」と報じられた財務省のケースをみてみよう。同省は、02-05年度の4年間に「財政投融資問題研究会」の委員謝金、旅費、速記料などの経費約1億円を資金運用収入などが財源の「財政融資資金特別会計」の予算に計上した、と読売新聞が伝えた(4月27日付)。
 これに対し、同予算を計上した理財局は「研究会というのは一般的な総称で、特定の研究会のための経費ではない」と弁明する。研究会、検討会と名の付く会合は01-03年度の4年間はたしかに開催されていないが、その間、財投制度調査のための職員による欧米への出張(01-02年度)、民間機関に委託した地方自治体の財務調査(03年度)を行った。これは実質的な調査研究に該当するため、「目的の範囲内で予算を効率的に使った」というのだ。
 予算をチェックする財務省主計局は「社保庁のケースとは違う。細かいところで予算が(請求と執行段階で)食い違うのは当然」としながらも、「全く使われていない科目(予算の「項」の積算根拠となる細かい予算項目)があったのは不適切だった」と認めた。財務省が自らの特会でも「不適切な」予算付けが行われたことを認定し、身内への査定の甘さを浮き彫りにした形だ。
 この事態を受け、「ようやく」の感はあるが、財務省主計局は他省に対しても「予算を執行の実態に近付けるよう、洗い直しをして概算要求するように」指示する構えをみせる。

各省の手中にある特会

 以上、3つのケースが示した「実態からかけ離れた予算付け」は、その全部が各省庁所管の特別会計で起こったところに、重要な意味がある。理由は、省庁は自らが管理する特別会計を「意のままにできる」と考え、放漫な管理・運用に陥りやすいからだ。
 特別会計は、どんな問題を抱えているのか―ことし4月11日に開かれた財政制度等審議会の特別会計小委員会の議事録が、問題の要点を指し示している。出席した委員5人の間から「特別会計の問題について」次のような意見が出された。
 では、各省が権限を握る特別会計予算の全体像とは、どんなものか。2月9日の財政制度等審議会合同会議で、財務省主計企画官はこのわかりにくい全体像を次のように説明している。―
 特別会計の歳出は、一般会計歳出82.2兆円の5倍に上る411.9兆円(05年度)。しかし、一般会計から特会への繰入れや、特別会計の会計間で動いたり、会計の中で勘定間で動くようなダブルカウントを除くと、一般会計の歳出は純計34.5兆円、特別会計の純計はその6倍近い205.2兆円となる。
 それを足した239.7兆円が国庫、一般会計、特別会計の世界から外に出ていく歳出予算額である。

起こるべくして起こった

 このように、実質ベースで一般会計の6倍近い予算規模を誇る特別会計に対し、各省が「自分たちの思うように使える」と思い上がり、財務省もこれを甘やかしチェックを怠ったところに、今回の「実態離れ予算」の誘因があった。
 実際の各省の予算請求は「(事)項」の数々から成り、「項」の下に積算根拠となる「(科)目」と称される細かい予算項目が広がり、さらに「目」にぶら下がる形で「目細」(もくさい)と呼ばれる、一層小さな予算単位が並ぶ形となる。
 財務省が特会のこうした「目」の執行実績をチェックしていなかったことが、今回の結果を招いたともいえる。  資源エネルギー庁の幹部は「情報公開時代なのに、常態化していた(予算付けと実態との)かい離を放任していたことが、新聞に取り上げられた。早く直すべきだった」と悔やむ。
 2001年4月に情報公開法が施行され、政府の予算の使い方に透明性が、一段と求められるようになった。  にもかかわらず、各省庁とも、監視機関の財務省でさえも、特別会計予算に対して旧態依然のルーズな対応を続けた。「架空予算」事件は、起こるべくして起こった、と言うほかない。