■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第80章 なぜ独立行政法人は暴走するのか

(2005年1月11日)

 行政改革の新手法と期待された独立行政法人(独法)制度だが、肝心の独法の運営を監視するチェック機能が働いていない。結果、「運営の自主性」を逆手にとって、暴走する法人が相次いでいる。
 独法職員の平均年収が国家公務員より4割近くも多かったり、全役員ポストを所管官庁や特殊法人出身者が占める実態は、第75章で既に報じた。その後、2004年12月には特殊法人や国の直営機関から移行した15の独法で、留任した役員に対し高額の退職金を支払った上で、役員賞与を前団体の在職期間分も含め支給していた事実が、尾立源幸・参院議員(民主)の追及から明るみに出ている。
 問題は、こうした独法の暴走を抑えるはずの府省庁と総務省のチェック機能が役立っていないことだ。政府は04年12月末、32法人の事務・事業のムダを見直し、約3割減の22法人に削減する、と発表した。だが、その内容は類似法人の統合・吸収によるものだ。独法の似たもの同士をくっつけた、「めくらまし整理」である。従来の特殊法人改革と同じ数減らし手法に過ぎず、要らなくなった法人は事実上「廃止」を免れた。

ダブルチェック働かず

 独法制度においては、専門的な知識を持つ第三者評価機関である各府省の「独立行政法人評価委員会」と、全政府レベルの第三者評価機関である総務省の「政策評価・独立行政法人評価委員会」の双方が、業績評価などのダブルチェックを行う。その評価結果は法人の業務運営に反映され、中期目標(3-5年)の期間終了時には、主務大臣は独法の業務を継続させる必要性や組織や業務のあり方全般にわたり検討を行う。その際、総務省の独法評価委は法人の事務・事業の改廃に関し主務大臣に勧告できる、とされている。
 一見して、総務省の独法評価委が強調するように「客観的かつ厳正な評価システムが設けられている」ように思える。だが、現状はこの二重の評価機能が制度の狙いから外れたままだ。04年来の委員の大増強にもかかわらず、なお「監視機能の不全状態」が続いている。
 その理由は、なにより特殊法人以上に天下り比率が高かったり(03年12月の政府発表によれば、公務員と特殊法人職員のような準公務員出身者を合わせると、役員の約96%を占める)、職員給与と賞与の支給額が国家公務員を上回る(03年度で事務・技術職員の場合、国家公務員行政職より平均年間給与額は7.4%高)実態を放任してしまったからだ。
 例えば、問題の職員給与の水準に対し、各府省の独法評価委員会は業務評価の一環として評価を行い、必要なら「引き下げ勧告」ができたはずだが、行っていない。給与は「法人の自律性の尊重の下、国家公務員や民間企業の給与、法人の業績等を考慮しつつ、各法人がそれぞれ支給基準を定めること」(総務省)とされている。
 この自律性の尊重をいいことに、独法の多くは職員の給与水準を引き上げ、賞与も特殊法人並みに国家公務員分よりも上乗せしたのである(04年夏の賞与で、国家公務員2.1カ月分に対し2.19カ月分)。
 この“自律的決定”の考えに沿って、多くの独法は役員の退職金支給額も高めに設定している。03年度に退職した大学入試センター理事長の場合、在職期間2年8カ月に対し退職金は991万円、農業・生物系特定産業技術研究機構の理事で、在職期間がわずか2年6カ月なのに約948万円も支給している。
 これら給与・賞与・退職金の原資は、国民の税金や保険料の積立金で賄われているから、水準設定には慎重に対応しなければならないはずだ。01年4月に独法制度が導入されて以来、独立行政法人の総数は現在、108法人(国立大学法人の89を除く)。これら独法の人件費は「運営費交付金」の名目で国の補助金から支給され、04年度予算額は実に1兆5257億円にも上るのだ。「国民のカネ」のこうした使い方に、各評価委がもっと監視の目を光らせるのは当然であろう。

「統合」でお茶をにごす

 監視機能の不全状態がなお続いているとみられる、もう一つの理由は、先の32法人見直しの政府決定にそれが表れているためだ。
 この見直し作業は、05年度末までに中期目標期間が終了する独法56法人の約半分、32法人については04年中に「組織形態と事務・事業の見直し」の結論を得る、とされた。府省と総務省の評価委に加え、内閣の特殊法人等改革参与会議も「有識者会議」の形で見直しに関与した。
 見直しの視点は、業務面で、1. 事務・事業の必要性・有効性、2. 実施主体の適切性、3. 効率化、質の向上などの達成状況、である。
 これを踏まえ、1. 事務・事業の廃止、2. 民間または地方自治体への移管、3. 事務・事業の制度的独占の廃止、4. 自主財源の拡大、補助金依存度の引き下げ、5. ほかの独法または国への移管、6. 民間委託の拡大、7. 整理縮小、8. 市場化テスト(事務・事業の入札を民間から募集し、独法よりコスト面などで有利な場合は委託)、などを検討する。そのうえで、必要性がなければ法人自体の「廃止」または「民営化」を考える、というものだった。
 結果は、総務省評価委の勧告に基づき1. 32法人を約3割減らし、22法人とする、2. 研究開発・教育関係法人(研究所、学校など)の25法人の職員(約8300人)を非公務員化する、3. 事務・事業の廃止、重点化、民間移管など―が決まった。

 このうち消防技術を調査研究する消防研究所と、若者の農業の担い手に農業経営のノウハウを教える農業者大学校の2法人は「廃止する」と発表している。だが、その実態は統合・吸収されるものだ。
 入学者の大幅な定員割れが続く農業者大学校に対しては、農業担い手育成事業を大幅に見直し、必要性が高まる先端農業技術などの教育を別の独法、農業・生物系特定産業技術研究機構で行うこととした。
 消防研究所のほうは、緊急事態の対応など本来、公務員が担う必要がある業務については要員の5割をメドに削減し、消防庁に統合・吸収させる。つまり2法人とも純然たる「廃止」ではない。「民営化」する法人も一つもないため、結局「廃止」と「民営化」は事実上ゼロで、ムダな法人を統合させ数を減らしたに過ぎない。
 本来なら、時代を経てかつての役割を終えたり、民間や地方自治体でも同様の業績を実施しているため「存在意義」を失った法人は、法人自体を廃止すべきであった。
 あるいは、旧特殊法人時代に官業を破綻させて法人の「廃止」が決まったのに、独法に看板を掛け替えて延命した雇用・能力開発機構のような法人は、改めて「廃止」するほかない。
 ところが、政府は、要らなくなった法人の「統合」でお茶をにごしたのである。
 国土交通省の独法評価委の委員数は臨時委員を含めると、84人にも上る。農林水産省の評価委員も、全部で77人を数える。これだけ大勢の委員を抱えながら、監視機能が働かない理由は何なのか。
 チェック体制のあり方が問われる。