■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第54章 「第2の特殊法人」化する独立行政法人

特殊法人改革      
(2003年2月26日)

 「構造改革」の旗を掲げる小泉純一郎政権が、国民の圧倒的支持を得て誕生してから1年10カ月が過ぎた。この間、経済停滞の中で、国民の多くはひたすら改革を待望し続けた。「改革」と名の付くものは次々に取り上げられ、あるものは閣議決定され、法律も制定された。だが、本当に改革は進んだのか?形(表層)は前進したが、実質(深層)は後退していたり、官の焼け太りが起こってはいないか? 「改革政権成立二周年」を前に、看板の一つ「特殊法人改革」を検証してみた。

独立行政法人が改革を左右

 日曜の朝、テレビを見ていると内閣府提供の政府PR番組で「特殊法人等改革」が放映されていた。石原伸晃行革担当大臣が、特殊法人改革の必要性を説き、政府の実績を強調している。
 これを見ている国民の多くは、特殊法人改革はいまや政府の手で着々と実行されつつある、と信じたとしてもおかしくない。これまで(森喜朗前内閣まで)二つの似たような特殊法人を統合する、つまり単にくっつけて数を減らす、というのが「特殊法人改革」の常道だった。それに比べれば、たしかに「小泉改革」は、一段前進にみえる。
 小泉内閣の「特殊法人等改革」は、2001年12月に決めた特殊法人と認可法人計163法人の整理合理化計画で全体像がまとまったが、改革の評価に当たり、まずはこれをおさらいしてみよう。
 整理合理化計画によると、
  1. 廃止・民営化、民間法人化が全体の4割近い62法人
  2. 独立行政法人化が2割強の38法人(統合して36)
  3. 先送りが政府系金融8機関と公営ギャンブル5の計13法人
  4. 現状維持が日銀など5法人
  5. 各省庁の共済組合など別途整理が45法人  ―とされた。
 うち最大のポイントは、中央省庁再編と並ぶ橋本行革の目玉で、「行革の切り札」とされた独立行政法人(独法)化が成功するか、それとも「第二の特殊法人」に堕するか、である。「第二の特殊法人」になるとすれば、独法制度の未熟さにつけ込んで、官が運用上、制度を悪用したことになる。
 独立行政法人は2001年4月にいずれも国の直営の機関から移行して発足した(第41章参照)。その第一期生は、旧通産省工業技術院が衣替えした独法最大の予算・職員数規模の産業技術総合研究所(経済産業省所管)など計57法人。その後、2002年に駐留軍労務者の労務管理事務や自動車検査が独法化し、現在59法人を数える。
 続いて、ことし4月に統計センター、造幣局・印刷局、10月から先の整理合理化計画に基づき順次、特殊法人と認可法人計36が独法化される。2004年度には国立大学、国立病院・療養所も独立行政法人に移行する予定だ。つまり、相次ぐ独法化に伴い独立行政法人の理念どおりに、特殊法人が持つ「事業の硬直性・無責任性・不透明性」を改める仕組みが生かされるかどうか、が注目されるのである。

官の利権の温床か

 そこで、独立行政法人に移行した先行グループの運用実態が、スポットライトを浴びる。独法が特殊法人同様の官の格好の天下り先となり、利権の温床になろうとしているかどうか、がまず問われる。
 最初に、これまでに設立された独法59のうち54法人までが、役職員に国家公務員の身分を与えている「特定独立行政法人」であることを記憶しておこう。ほとんどの独法の役職員は依然、国家公務員なのであり、当然、官僚の意識そのままである(「特定」でない独法は、自己収入でやっていける「日本貿易保険」や「国立青年の家」、「経済産業研究所」など5法人)。コスト意識とか合理化意識といった民営化組織の意識とはおよそ無縁の「親方日の丸」意識であるわけだ。
 こういう国家公務員の身分のまま、独法の特色である「経営の自主性」が与えられるとどうなるか。― 自主性をいいことに、所管の省庁とつるんで都合よい天下り先にする危険がまず想像できる。
 総務省などの調べによると、現在、独立行政法人59法人の役員数は計286人(うち監事が118人)。独法移行前の機関の役員相当職(審議官以上の指定職)の数約90の3倍に上る。独法に法律上必要な監事(民間企業でいう監査役)を除く役員数だと168人だが、それでも2倍弱だ。独法移行前の行政組織の指定職数がゼロ(例えば「日本貿易保険」の前身である旧通産省貿易保険課だが、独法化で役員数は5人となる)もしくは1人であった法人が8割近い45法人だったことをみると、ある程度の役員増は予想されたが、実際にフタをあけるととてつもなく多い。
 先の産業技術総合研究所の場合、役員は14人にも上る。これらの役員報酬は後述するように、超高額なうえ国の補助金の中から「運営交付金」の一部として支出されているのだ。
 このように、独立行政法人のほとんどの役職員が国家公務員の身分保障を得て、役員ポストが大幅に増えたのである。しかも、国家予算で人件費も賄っていけるから、国にオンブにダッコだ。官にとってはむろん、特殊法人に取って代わる高収入の天下り先として活用しない手はない。

役員の9割が省庁OB

 次に、急増した役員ポストに所管省庁からどのくらい天下っているのか。毎日新聞の調査報道によると、独立行政法人の常勤役員(有給)168人の9割以上を官僚OBが占める(2002年11月24日付)。朝日新聞によれば、全役員を旧組織からの横滑りと天下りの官僚OBだけで占めていた法人が、一期生の57法人中約6割の34法人もあった(2002年4月14日付)。つまり、役員ポストを新設したうえで、旧機関から大量に横滑りさせるか天下りをさせてポストを占有していたことが、各種の実態調査で判明したわけである。
 しかも、役員報酬はことごとく「特殊法人並み」かそれ以上に設定されていることもわかった。役員の年収が一番高い産業技術総合研究所をみると、理事長(吉川弘之東大名誉教授、精密工学)の本俸(月給)は165万6250円(上田清司衆院議員調べ)と、国家公務員指定職の各省庁事務次官の11号俸よりも、いや東大と京大の学長のみに適用される12号俸の最高俸給を30万円近くも上回っている。
 同理事長の場合、賞与金が年間662万5000円、年収が2650万円とされ、1期2年勤めれば、1192万5000円もの退職金が得られる。退職金の計算式も、特殊法人と同一(月額報酬×在職期間×支給率〈36/100〉)にセットされているからである。
 同研究所は2003年度に「運営費交付金」などとして728億円近い補助金を一般会計から受け取る。理事長ら役員14人の役員報酬は運営交付金から支給されるわけだから、つまりは国民の税金から賄われていることになる。国民の側からすると、同研究所の役員14人に年間報酬総額2億587万円を支払い、1期2年分の退職金として計1億2352万円を負担する計算になる。
 ところが、この多額の「運営交付金」予算は、ドンブリ勘定で決まる。まず所管省庁は予算の大枠を決め、これに沿った法人側の予算要求に対し人件費、物件費を積算方式でチェックすることはしない。要求額をカットするにも、一定比率を掛けて「緩やかな枠」をはめるに過ぎない。各省が法人の予算要求額を認めると、8月末に予算の概算要求を出し、これを総務省の評価を経て財務省が査定する段取りとなる。
 こうしたプロセスからすると、独立行政法人の予算措置は甘く流れ、安易に膨らんでしまうのではないか。事実、既にその兆しは出ている。2003年度の特殊法人向け財政支出をみると、3兆314億円と日本道路公団を中心に前年度比1兆1251億円減り、「特殊法人改革」の成果が表れたかにみえる。ところが逆に、移行した独立行政法人向けの予算が8858億円増えたため、その成果はかなり減殺されたのだ。独法の予算を厳しくチェックしなければ、かつての特殊法人のように肥大化していくのは必至である。

評価委員会の役割重大

 このように独立行政法人は、制度発足後わずか2年にして「第二の特殊法人」に化しつつある。こうした事態を放置してきたところに、小泉内閣の真剣さの足りなさと失政があるのではないか。
 予算を厳しく抑制するのは、各府省と総務省に設置された評価委員会の役割だ。法人の3年から5年の中期目標への取り組みと実績の評価を踏まえ、予算を適正化し、天下りや役員報酬にメスを入れ、早くもつくられつつある「第二の特殊法人」を解体しなければならない。それができなければ、今後急増する独立行政法人を基盤に「官僚帝国」が一気に拡大していくことになる。「見えない政府」がさらに自己増殖を続けるか、増殖を止めるか―いまやそのターニングポイントに来ている、といえるだろう。
 とくに重要なのは、総務省に置かれた政策評価・独立行政法人評価委員会のチェックである。各府省の独立行政法人評価委員会がこれまで身内意識から所管の独法の評価に甘かったのは既にみた通りだ。それが国民にとって不幸なスタートを招いた。
 この各省レベルの甘い評価をダブルチェックするのが総務省設置の評価委員会の役割だ。委員の顔ぶれをみると、改革派も少なくない。評価委員会は、国民の立場から目標管理チェックを厳しくやり、きちんと監視してもらいたい。
 同委員会は昨年12月、法人評価の厳格性・信頼性の向上のため「評価活動準則」を公表している。
 そのなかで、予算措置に関して次のように述べている。
 「・・・法人の運営費交付金、施設整備費補助金等の予算措置等について、業務の見直しによるものを含め所要の修正が行われるべきである。このため、各府省の独立行政法人評価委員会における評価は、これを可能な限り迅速に行い、その結果を各年度下半期の予算執行及び次年度の運営費交付金、施設整備費補助金等の八月末の概算要求に着実に反映することができるようにすること」。
 遅くはなったが、各省庁の評価委員会など関係者に予算の厳正化を呼びかけた形だ。
 評価委員会がそれぞれチェック態勢を強め、情報公開を進めれば、「第二の特殊法人」づくりを阻止する可能性は高まる。そうなったとき、改革はようやく実現に向かった、といえるだろう。



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