■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第43章 抜本改革は一年先送り/改革実施対象は全公益法人の2.3%
     公益法人改革(差し替え版)      
(2002年4月25日)

 小泉改革の柱の一つ、公益法人改革が3月29日に閣議決定された。昨年12月の「特殊法人等改革」、「公務員制度改革」に続く第三弾である。
 しかし一言で評価すると、今回の公益法人改革も特殊法人改革と同様、抜本改革に至らない「部分手直し」に過ぎない。弊害を生み出す制度自体の改革は1年後に先送りされ、公益法人の全体から見れば、ごく一部の国所管の行政委託型法人の改革にとどめてお茶を濁している。政府は1年後の2003年3月までに抜本対策(「公益法人制度等改革大綱」)を打ち立てる、としているが、再び先送りされる可能性も出てきた。

しぼむ改革

 閣議決定された公益法人改革の中身をみてみよう。まず全体像をつかむために、この改革がどういう狙いで進められてきたかを明らかにしておく。
 公益法人を含む先の三つの改革は、森喜朗前内閣が2000年12月1日に閣議決定した「行政改革大綱」に始まった。内閣官房に行政改革推進事務局が設けられ、そこに特殊法人・認可法人改革、公益法人改革、公務員制度改革についてそれぞれ調査・立案する三部門が組織される(最盛期のスタッフ総勢約90人)。
 小泉純一郎政権が改革を旗印に誕生した昨年4月以降は、「大胆に徹底的に行政改革」をスローガンに、石原伸晃行革担当相の下で公益法人改革に向け二つの目標を追求してきた。一つは、行革大綱で決まった行政委託型法人の改革である。行政委託型法人とは、国から指定されて事務・事業の委託や推薦を受けていたり、補助金などを交付されている約1000の公益法人を指す。これらの法人に対し、国の関与のあり方を補助金・委託費を含め見直そうという狙いである。
 もう一つは、財団法人「ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)」が引き起こした国会議員への贈賄や業務上横領・背任のKSD事件などを背景に、昨年7月に「公益法人制度についての問題意識」を公表し、新しい制度を含む抜本対策に向け、方向性をことし3月末までに打ち出す、としたことだ。
 ところが、今回の閣議決定では、改革は国所管の行政委託型公益法人に限定され、肝心の2万6000余りの全公益法人にそっくり網をかぶせる新制度設計のほうは1年も先送りされたのである。
 仮に閣議決定通りに、今年度中に新公益法人制度の基本的枠組みを決めたとしても、それを実施するための法的措置などを講じ、改革を具体化するのは「2005年度末までをメドに」としているため、さらに3年後にもなる。
 しかも、抜本対策そのものが今年度末までに果たして公約通り打ち出されるかどうかも「官」と族議員らの抵抗を考えると疑わしい。

官僚の改革案をうのみ

 発表された改革実施計画は、次のような内容を盛っている。

1. 「検査・検定」を国の代行機関として行う公益法人に対しては、国の関与を最小限とし、民間事業者の自己確認・自己保安を基本とする制度に移行する。→国により登録された第三者機関が検査・検定を実施するケースもある。国民の生命、財産保護、国際的責務の履行などの観点から1. が困難な場合は、国または独立行政法人が実施。

2. 試験や講習などで「資格付与」を行う公益法人に対しては、国家資格が必要かどうかを検証の上、廃止または独立行政法人に実施させる。

3. 「登録・交付」の事務・事業についても2. に準じた措置を講ずる。

4. 公益法人が独自に行う「英検」のような技能審査の「大臣認定」その他の「推薦」(お墨付き)は一律に廃止。

5. 補助金などの五割以上を第三者に分配・交付している法人(いわゆる「トンネル法人」)に対しては、公益法人を経由せずに国から直接交付または独立行政法人からの交付に切り替えるか、交付先公益法人が事務・事業を直接行うようにする。

6. 国から交付される補助金などが年間収入の三分の二以上を占める公益法人(いわゆる「丸抱え法人」)に対しては、交付金の廃止、もしくは対象事業を国または独立行政法人が実施するようにする。

7. 公益法人の「役員報酬」に対する国の補助金などによる助成は、一律に廃止。

8. 国からの公益法人への補助金・委託費などの使途を、各府省はホームページで情報公開する。

 ―などである。

 このように、行政委託型法人に限ってみれば、改革は進んだ、といえる。だが、それはすそ野のように広がる公益法人問題の全体からみれば、ほんの一角に過ぎない。
 数の上でも、今回の改革実施対象となる公益法人は五九四法人。都道府県所管の法人を含む全公益法人の2.3%にも満たない。「公共の宿」を全国展開して民間の旅館業者を圧迫する法人や、国の職員団体が運営し、母体の省庁から独占的な業務委託で潤う公益法人の問題は、すべて先送りされた。KSD事件などで一挙に表面化した公益法人問題は、「民間で出来るものは民間に任せる」と宣言した小泉首相が最も重視すべき改革課題だったはずだが、内閣は事実上、取りつくろいの行革事務局案をうのみにしたのである。

特殊法人の下請けは除外

 今回の改革が行政委託型法人に偏った結果、具体的には次のような問題ケースが、処理されずに放置されることとなった。
 一つは、国が設置した特殊法人の下請け公益法人は対象から外された。結果、特殊法人や認可法人の事務・事業を補助・補完している公益法人や、特殊法人がつくった保養所などの施設を管理・運営している問題法人は野放しにされた。→道路サービス機構、ハイウェイ交流センター、水資源協会、放送大学教育振興会、中野サンプラザ、年金保養協会、厚生年金事業振興団、公庫住宅融資保証協会など。
 二つめは、国の補助金、委託費は受け入れていないが、特殊法人(日本自転車振興会、日本小型自動車振興会、新エネルギー・産業技術総合開発機構など)や公益法人(日本機械工業連合会、日本宝くじ協会など)から助成金を受け取り、事業運営している公益法人も、改革の対象外となった。→産業研究会、国際経済交流財団、日本情報処理開発協会、国民休暇村など。
 三つめは、国の職員の互助会や共済会が衣替えし、出身省庁の需要と結び付いて利権を得ている公益法人も対象外。→郵政弘済会、郵政互助会、農林弘済会、防衛弘済会、特定郵便局長協会など。
 四つめは、全公益法人の7割を占める都道府県所管の法人(約1万9000法人)も対象外。→地方自治体所管の行政委託型法人を含む問題法人の解決は、すべて棚上げされた。
 以上が、公益法人改革の内容である。
 問題は、改革対象となった法人への改革の実施をフォローアップし、事業の監督を担うのが、引き続き監督能力が疑われる所管官庁であることだ。こうなったのも、行革事務局が制度の見直しに踏み込まずに、現状のシステムを前提に判断したためだ。公益法人問題の諸悪の根源である主務官庁制(設立許可と監督権限を主務官庁が一手に握ること)の制度悪を不問にした結果である。到底「改革」とは名ばかりの、まやかしの「部分手直し」に過ぎないことがわかる。

腰が引けた行革事務局

 なぜ、抜本改革は一年先送りされたのか。
 今回の改革案を立案・作成した行革事務局にも、むろん公益法人制度を巡る盛んな問題意識はあった。事務局が昨年7月に発表した「公益法人制度についての問題意識―抜本的改革に向けて」の記述の中に、制度改革の必要性について多くの指摘がある。
 例えば、現状では公益法人の設立は一世紀以上昔の1898(明治31)年に施行された民法第34条に基づき主務官庁によって「公益性」を判断して許可される。これに対して、事務局の中に「『公益』に関する事業を行うはずの公益法人が、国民の目から見て必ずしも『公益』とは言い難い事業を行っているものもあり、その判断を厳格に行うべきではないか」との指摘があった。
 主務官庁が設立を許可している現状に対しても、「官主導で、公益法人を設立したり、行政代行的機能を担わせたりしている場合があるのではないか。特に、公益法人という民間法人に行政代行的機能を担わせることは不適当ではないか」  主務官庁制の下で民法及び「指導監督基準」にのっとり指導監督が行われる仕組みとなっていることに対しては、「主務官庁の指導監督が必ずしも行き届いておらず、監督のあり方を改善する必要があるのではないか」―などの指摘もあった。制度的問題に対するもっともな問題意識である。
 にもかかわらず、抜本改革案は公益法人改革の中身を決めた3月28日の政府の行革推進本部(本部長・小泉首相)会議に提出されなかったばかりか、「抜本改革の一年先送り」が何の議論もなく通ってしまったのだ。明らかに改革の後退である。
 一つ、はっきりしていることは、事務局の公益法人改革担当が先送りの理由に挙げた「抜本改革の問題の大きさ」であり、既得権益を失うまいとする官僚と自民党族議員の、改革に対する根強い反対と抵抗である。
 公益法人がどれだけ現職の国会議員と深くつながっているか、はKSD事件が垣間見せたが、現に公益法人の役員を務める国会議員と都道府県議会議員は数多い。
 国所管法人の理事長を含む理事に就任している現職国会議員は、一年前より68人減少したとはいえ413人、法人数で260法人(2000年10月1日時点)。都道府県所管法人の理事に就任している現職都道府県議会議員は1752人、法人数1213法人にも及ぶ。なかには中曽根康弘元首相が会長を務める外務省所管の財団法人「世界平和研究所」のように著名な公益法人もある。
 このように現職議員の多くが公益法人の役員に就任している現状からみても、「政」からの改革への抵抗ぶりは想像がつく。加えて、天下り先の利権を守ろうとする「官」を代弁する族議員は国会の至る所にいる。当然、官僚・族議員連合の抵抗は激しく、改革の実現は厳しい。

消極的報道が目立つNHK

 いや、抵抗勢力は必ずしも「官」と「政」の中だけとは限らない。大マスコミのNHKも、公益法人改革につながる特殊法人改革の報道に異様に消極的だ。特殊法人問題を特集などの形で大きく取り上げたNHK番組を筆者は見聞きしたことがないが、NHKが特殊法人改革に消極的抵抗を試みているとしたら、その理由は容易に推測できる。
 NHK自身が特殊法人だからである。政府が昨年12月に発表した特殊・認可法人の整理合理化計画でも、NHKは「現状維持」が認められた唯一の特殊法人だ(他に「現状維持」を認められた日銀や日本赤十字社など4法人はいずれも認可法人)。
 NHKだけがなぜ特殊法人として存続できたか、その理由は判然としないが、おそらく「政」、「官」にとってNHKの存在意義は大きい、ということであろう。
 しかし、NHKが放送法の趣旨を逸脱した付帯業務を子会社を通じて行っている、との批判は絶えない。NHKの子会社は30社以上に達し、子会社の全役員の8割以上をNHK幹部かOBが占める、との民主党議員の指摘もある。(朝日新聞4月6日付『オピニオン』)。
 このような抵抗勢力に攻囲されて、小泉改革はかつての勢いを失った。自らサンドバッグになるはずだった石原行革担当相が“逃げ”に回ったことも、抵抗勢力を勢いづけた。
 小泉首相には、初志を貫くならこの際、自民党を離脱し、民意を問うべく衆議院を解散して、改革新党を立ち上げるしか選択肢は残されていないのではないか。


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