■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
 第42章 腐った幹は放ったままにされた公益法人改革      
(2002年4月8日)

  枝葉の一部は手入れされたが、腐った幹は放ったままにされた。―政府の行政改革推進本部(本部長・小泉純一郎首相)が3月28日に決定した公益法人改革は、公益法人問題の一部である「行政委託型公益法人」に限定された。肝心の制度の抜本改革は3月末の目標期限に基本方向さえ打ち出されず、「公共の宿」を全国展開して民業を圧迫する公益法人や、国の職員団体が運営し、所管官庁からの独占的受注などで潤う公益法人の問題は、一切棚上げされた。抜本改革の策定は1年も先送りされ、法的措置を含む改革の具体化は、さらに3年後の2005年度末にもなる見込みだ。

特殊法人の下請けは改革対象外

 発表によると、国から直接、委託や推薦を受けて公益法人が行う「検査」「認定」「資格付与」などの事務・事業及び国から公益法人への補助金や委託費のあり方について概ね次のような措置が決まった。
 公益法人による補助金の外部への「丸投げ」を国からの直接交付に改めたり、「英検」のように公益法人が実施する「資格」を国が認定する“お墨付き”の廃止、役員報酬に対する補助金の廃止、検査・検定の一部を事業者の自己責任制に移行、などだ。長年の弊害がようやく是正されるわけである。
 併せて、国からの補助金を使った事業内容や補助金の使途などを、各府省がインターネットを通じて情報公開するよう義務付けた。このディスクロージャーにより、これまで薄闇の中に閉ざされていた公益法人の実態の一部が浮かび上がる。こうして、行政委託型公益法人の改革に限れば、実質的に前進した内容になった。
 だが、今回の政府決定は、次の3つの点で重大な欠陥を持つ。

1. 国が直接、「検査・検定」「資格付与」などを委託した公益法人を対象にしているもので、国が設置した特殊法人の下請け公益法人は含まれていない。これらの法人は、特殊法人の事務・事業を補助・補完、もしくは特殊法人が作った「公共の宿」などの保養所施設を管理・運営している。→公庫住宅融資保証協会、水資源協会、中野サンプラザ、年金保養協会、厚生年金事業振興団など。

2. 国の補助金、委託費は受け取っていないが、特殊法人(日本自転車振興会、日本小型自動車振興会など)や公益法人(日本宝くじ協会など)から助成金(一種の公的資金)を受け取り、事業運営している公益法人は、対象外となった。→国民休暇村協会、日本規格協会など。

3.  国の職員の互助会や共済会が衣替えした公益法人(「中間法人」のカテゴリーに属する)も対象外。→郵政弘済会、特定郵便局長協会、郵政互助会、農林弘済会、防衛弘済会など。

 つまり、政府決定は国からの行政委託型法人以外のすべての問題法人の処理を先送りしたのである。
 今回の改革実施対象となる行政委託型法人は594法人。全公益法人2万6000余の2.3%にすぎない。都道府県所管の法人を含む圧倒的に多くの公益法人が、改革の対象から外された

またも取りつくろい

 もう一つ、今回の改革で見落とせないのは、公益法人の監督権限を握るのが依然、所管府省庁であることだ。このことの持つネガティブな意味は大きい。
 公益法人問題の根源は、「官」の権力乱用とその結果としての民業圧迫・国民負担だ。19世紀末に制定された民法第34条のあいまいな設立要件を基に、行政に都合のいい公益法人の設立を実質主導し、そこを天下り先にして排他的な利権を拡張してきた。したがって、KSD事件が示したように、この主務官庁制が公益法人問題を発生させる「装置」だが、今回の改革ではこの制度悪を不問にして、公益法人の事業チェック役を引き続き所管府省庁に委ねている。
 だが、所管官庁が自らのOBが多数天下る公益法人を政府決定に沿ってきちんと監視・監督できるのか。チェック機能は、主務官庁制のもとではこれまでの“実績”に照らして十分働くとは期待できない。したがって主務官庁制に手をつけない改革は、単なる「取りつくろい」にすぎない。
 主務官庁制に問題あり、とする問題意識は、むろん今回の改革案を立案・作成した内閣官房行政改革推進事務局の公益法人改革専従チーム(約20人)にもある。昨年7月に事務局が発表した「公益法人制度についての問題意識―抜本的改革に向けて」の中に、次のような記述がある。
 「主務官庁制の下で、公益性の判断が、主務官庁の自由裁量に委ねられているため、統一のとれていないものとなっているのではないか」  「公益活動を行う民間の法人について、設立に当たり、今後もなお許可主義を維持する必要はあるか」  「公務員の再就職先として(公益法人が)安易に用いられているのではないか。またそのあり方につき見直すべきではないか」 ―などである。
 まことに当を得た指摘だ。
 ではなぜ、抜本改革は先送りされたのか。おそらく次の3つの要因が絡んで先送りを余儀なくされたものであろう。その3要因とは、石原伸晃行革担当相の改革意志の弱さ、自民党や省庁側の抵抗、抜本改革の問題の大きさ、である。
 この国の利権構造の便利な装置として公益法人が根を下ろしているだけに、官と族議員側の抵抗は激しく、改革への道は既得権益と衝突して細く険しい。
 事務局の担当の一人は「抜本改革の問題は大きい」と強調し、先送りされたとはいえ「民間非営利活動の積極的な意義付と公益法人制度について関連制度を含め抜本的かつ体系的見直しを明記した閣議決定の意味は大きい」と弁明した。
 たしかに問題は、民間非営利活動を積極的に意義付けし、公益法人制度をどう考えるか、ということである。
 そこで筆者は最後に、以前から暖めていた公益法人を含む「新NPO」のコンセプトについて一案を提示してみたい(下図参照)。

 公益法人ばかりでなくNPOや法人格のないボランティア団体をも包含する民間の「非営利・公益事業」すべてに対し、登録制のもとで「非営利・公益性あり」と第三者機関(日本版チャリティ委員会)が認定した場合、税制優遇措置などを等しく受けられるようにするものだ。民間非営利活動を公平な条件のもとに、全面的に活性化させる狙いである。



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