■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「白昼の死角」
第257章 消費減税の「財源」は見つかるか(上)/新財源モデルに北欧ファンドは一見の価値

(2026年2月26日)

食品減税の経済効果

衆院選圧勝を受け、高市政権は経済政策に2大課題が突き付けられた。公約した「食料品の消費税ゼロ」の実施に向けた財源捻出と、物価高を上回る賃上げを続けられる「持続的経済成長」だ。年5兆円規模の減税分を埋める代替財源が見つかったとしても、実質的な経済成長が続かなければ、財政悪化・経済弱体化が避けられない。実質経済成長の持続が日本経済最大の課題だ。社会保障に穴をあけない「成長戦略」が、政策の本丸となる。

しかし、当面の焦点は公約した「食料品消費税を8%から0%に、2年間実施」への財源の確保だ。エコノミストや金融専門家には財源規律などを巡り消費税減税への反対意見が目立つ。だが、食品減税は食品物価高による生活者の困窮を軽減する最も直接的で有効な支援策。とりわけ中低所得者の家計を支える効果は大きい。
25年の食品の消費者物価上昇率(生鮮を除く)は7.0%に加速、うちコメは67.5%に跳ね上がった。家計のエンゲル係数(消費支出に占める食費の割合)は、25年に2人以上世帯で28.6%と44年ぶりの高水準となった。

日常必需の食品の税率を標準税率より低くする軽減税制は、世界では一般的だ。英国では標準税率は20%だが、食品の税率はゼロ。オーストラリアも標準税率10%に対し食品はゼロ、韓国では標準税率は10%だが、未加工食品のコメ、野菜、魚、肉は非課税だ。
米国では消費税に相当する売上税(Sales Tax)は連邦税にはない。州や郡が独自に設け、消費者が商品・サービスの購入時に支払う。メーカーの仕入時や小売店の商品購入時には課されない。米全国で税率0〜10%にわたる。オレゴンなど5州は消費税がない。

財政不安を抱えて財源探し

選挙戦で与野党が、みらいを除き横並びで訴えた消費税減税。その減税の財源について、新設する政府系ファンドの運用益や既存基金の活用(中道)、外国為替資金特別会計(外為特会)の資金(中道、国民民主)、日銀が保有する上場投資信託(ETF)の売却益(国民民主)などが具体的候補に挙がった。高市首相は「赤字国債に頼らない」と言いつつ財源は明示していない。超党派の『国民会議』を設け、「(減税)実現に向けた検討を加速する」とし、選挙後、野党も含めた国民会議で中間とりまとめを「夏前までに」得たい、と表明した。

一方、選挙戦さなかに異変が起こる。1月31日、高市首相は「円安で助かっているのは外為特会の運用。今ホクホクの状態」と発言。これが「円安歓迎」と海外市場に受け取られ、急騰していた円が一転、急落する。ホクホクの外為特会資金を消費減税の財源に使うのでは、との思惑も市場に広がった。海外市場は「積極財政」を掲げる高市首相の財政運営を不安視し円相場は下落方向の色合いを濃くした。

高市政権は財政規律不安の中、「食品消費税ゼロ」に向けた財源探しを迫られる。財源捻出で重要な視点は、膨れ上がった国費のムダの削除と新規の財源確保だ。膨張した財政は26年度予算で122.3兆円と2年連続で過去最高を更新した。
そこから生じる国費のムダの削除額が、納税者全ての負担減につながる。財政の緩みのせいで意外に“大がかりな財源発見”が期待できるかもしれない。

ノルウェーファンドが注目される理由

ここでまずは財源探索を新手の「政府系ファンドを創設して運用益を充てる」とした中道の主張から検討してみよう。この財源穴埋め法は、旧公明党が提案した。発表時に言及したノルウェーなど海外政府系ファンドの運用成功例を念頭に置いているようだ。
モデルは、巨額の運用益を出せる公的年金積立金運用機関のような大規模資金を持つファンドでなければならない。中道が海外ファンドモデルの制度設計を何らかの形で取り入れ、自前の政府ファンド創設に生かそうとしたのは間違いない。

「ノルウェー政府年金基金(Government Pension Fund Global=GPFG)」がその選択肢の1つと見られた。資金規模は世界最大の1.7兆ドル超(約264兆円)。日本の公的年金積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産約260兆円を上回る。1人当たり資産額は世界トップクラス。ただし原資は、「年金保険料」ではない。
GPFGの原資は主に北海油田・ガス田の収益だ。これに海外企業の株式投資、米国債など外国債券投資、再生可能エネルギー事業やインフラ、24年からの不動産投資収益、海外投資先の配当などが加わる。「年金基金」を名乗るが、実態は「エネルギー資源収入を基に世界70カ国以上、9000社以上に投資する巨大政府ファンド」だ。国民年金自体は赤字だが、GPFGの運用益で補填される。財政ルールにより、年金元本は原則使われない。使ってよいのは、期待収益の一部とされる。

年金財源の拡充も視野に

驚くべきは、GPFGの運用収益力だ。ノルウェーのノルゲス銀行の年次報告(24年)によると、投資リターン(収益率)は13.1%にも上る。ファンドの価値は24年に19兆7420億クローネ(約315.8兆円)に達した。2013年実績比3.9倍にも上る。コロナ禍の 20年にマイナスに転じたほかは24年まで毎年、急上昇を続けた。日本への株式投資も大きい。資金配分先の7割以上を株式が占めるが、うち日本株は米国株の57.9%に次ぐ6.8%(24年)。
一見、その盛んな資産増大姿勢に違和感を覚えるかもしれないが、ノルウェーファンドのミッションは「将来世代のために、国の資産価値を最大化する」ことにある、と堅実だ。この理念に立ち保有銘柄を含め銘柄除外措置などを原則、全面情報公開している。情報開示レベルは世界トップ水準とされる。

ハードルは高いが、仮に超党派「国民会議」でこのノルウェーファンドをモデルに、独自のGPIF改良型政府ファンドの創設を検討するとなったら、消費減税の財源ばかりか年金財源の拡充と年金制度改革も視野に入る。
実現すれば、新たな使命とその有利性、変わる事業内容、ルールをノルウェーファンド同様に国民に説明する責任を負う。さらに、同ファンドに特徴的な政治介入禁止ルールの法文化も必要になる。
とくにその「理念」の理解が重要だ。「元本は未来世代のもの」として投資から外す未来志向である。ただし現世代は利回りの恩恵を得る。財源探索が、思いがけず国費のムダの大幅削減や公的年金制度の大改革を呼び起こす可能性を秘める。