■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「白昼の死角」
第256章 AI編 真実を追求するメディア/ニューヨーク・タイムズの逆襲

(2026年1月26日)

台湾が情報戦の主舞台に

2026年、生成AI覇権競争の焦点の1つは、国家のニセ情報戦である。注目は力をめっきり付けた中国系AIサイトだ。昨年1月の米トランプ第2次政権の発足直後、中国製生成AI「ディープシーク」が公開され、その優れた性能と大幅コスト安が世界を驚かせた。
ロシアの盛んな対西側フェイク工作に加え、26年は中国の国際情報戦が活発化するのは必至だ。昨年の参院選で、自民党はボット(自動応答プログラム)を使ったロシアの選挙工作を疑った。今年は有事問題で揺れる台湾が、中国の情報戦の主舞台となりそうだ。

AIがプロパガンダ工作に容易に悪用されるのはなぜか。それには技術的な理由がある。AIには道徳的・倫理的判断力がないことだ。AIは善し悪しの価値判断ができない。対話型AIでは、利用者の要望を丸のみして応答するばかりだ。AIが価値判断できるのは、計算できる経済上の数値判断に限られる。
アーティストらの作品をAIが無断でそっくり盗用したとして世界各地で相次ぐ著作権違反訴訟。知的文化的素材に対し「対価」を全く考えずカネを支払わない、賠償しろ、との当然の訴えだが、AIに「悪さをした」との意識は毛頭ない。AIはビジネスモデルに従い単に目的遂行のためにそれを行ったのだ。

ニューヨーク・タイムズの見事な再建

AIデジタルの怒涛に翻弄され、米国では地方紙の経営破綻が相次いだ。ペニー・アバナシー米ノースカロライナ州立大教授によると、2018年以降300の地方紙が廃刊され、6000人のジャーナリストが仕事を失った。 2020年時点で米国にある3143の郡、もしくはそれに相当する行政区のうち200以上に新聞がない。地域で起こった重要問題について信頼できる総合的な情報源が失われた。

この苦境下、危機対応を迫られた米有力紙は必死のデジタル対応を図る。これに成功して経営を赤字から黒字に転換し、増収増益を続けるニューヨーク・タイムズ紙のサクセス・ストーリーを紹介しよう。 同紙は2014年3月、デジタル時代への対応遅れを自己修正する改革ポリシーを最終決定した。改革の基本的な方向性は、「減少する読者の拡大」である。 デジタル対応で先を行く競争相手の有力紙ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナル、USAトゥデイ、ザ・ガーディアンらと共通する。そして究極の使命を高く掲げた。「世界最高のジャーナリズムを生み出す」と。

デジタル化の進行は凄まじく、13年10月にはアマゾンの創始者ジェフ・ベゾスがウォーターゲート事件をスッパ抜いた名門ワシントン・ポストを2億5000万ドルで買収した。 ニューヨーク・タイムズは検討当初、デジタル化の衝撃を甘く見た。ある幹部が振り返る。「(ウェブ時代になっても)私たちはずっと受動的なアプローチを採用した。ホームページ上で記事を発表すれば、多くの人が自分たちのところにやって来る、と考えていた。観衆(Audience)を増やすには、多くの努力が必要だった」。

改革はデジタル特性の理解から始まる。ウェブの紙に対する速報性、環境変化への即応性、注意を掻き立てる力、情報の継続的な更新力、差し替えの柔軟性、重要記事の拡張性―といったデジタルの卓越性だ。 全面見直しを進めるうちに、抜本対策のイメージが見えてきた。失敗の原因は「総合的な文化を届けていない」とし、「読者がより多くの記事を読み、より多くの時間を費やすようにする、そのために本紙の中核部分を変革し『デジタル・ニュース編集部』をつくる必要がある」と結論した。

デジタルのよさと新聞の価値を両立

デジタル時代を正面から見据えた。「読者の習慣が変わった。読者はソーシャルメディアに大量移住した」と分析した。この認識に基づき、「オンラインとオフラインの双方で読者を増やす」ことを決め、編集業務を抜本的に見直す。 戦略はデジタル特性を生かす一方、新聞として確立した地位(価値・信頼性)を維持し活用することに決まった。 ウェブという新しいツールの力に加え、自分たちの価値ある伝統的資産も再認識した。その資産とは、印刷新聞がほとんど完璧な状態に磨かれて1日1回の出版となり、価値ある情報が日々蓄積されていくことだ。 これを生かせば、日刊ニュースレターと蓄積情報の図書館(アーカイブ)の両方になれる。デジタル・ニュースのパッケージにアーカイブが生かされる。例えば関連報道として過去の類似の内外の出来事を伝え、記事や解説を充実できる。

デジタル・ニュースでは、情報を迅速にリリースし、継続的に改良していくサイクルを確立する、と狙いが定まった。「完璧主義的衝動は抑える」ことも確認した。なぜなら、新聞報道のように完璧性を目指すと、速報性を損なうからだ。 ニューヨーク・タイムズは現在、毎日300超ものURLを生産する。表示ページに限りがあるため、見せ方読ませ方を絶えず工夫し、改良して更新する。汚染情報空間をクリーン化する対抗カルチャーの気運が、ここに来てようやく高まりを見せる。