![]() |
■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「白昼の死角」 |
第250章 利用規制叫ばれるスマホ/「考える時間」奪う機械
(2025年9月12日)
「スマホ利用は1日2時間まで」とする全国初の条例案の審議が、愛知県豊明市議会で始まった。10月1日の施行を目指す。発案した豊明市長は、不登校問題を調べるうちに浮かび上がった、子どもたちの身心やコミュニケーションに及ぼすスマートフォンの過剰使用の悪影響を抑えるのが狙いという。
「2時間以上スマホを使うと睡眠時間が削られる」とし、仕事や勉強用などを除き全市民が対象。使用時間帯の目安も「小学生以下は午後9時まで、中学生以上は午後10時まで」と定めた。
強制でなく罰則規定もないが、“スマホの危険性”を市民に警告し、自主規制を促す重要メッセージとなった。
海外ではオーストラリアが、交流サイト(SNS)運営事業者に対し16歳未満の子どものアカウント取得防止を義務付ける法律が今年12月に施行する予定。違反すれば事業者に多額の制裁金が科される。
ニュージーランドもオーストラリアに倣い、16歳未満の子どもによるSNSの使用禁止を閣議決定し、議会で審議中だ。
フランスは2018年の法令で幼稚園から中学校まで校内全時間帯の使用禁止。授業外の休憩・食事時間も含む。15歳未満はSNSアカウントの作成に保護者の同意を義務付ける法も23年に成立した。
米国は州単位での取り組みが目立つ。カリフォルニア州では24年に「ソーシャルメディア耽溺から子どもを守る法」が成立。SNSを含む中毒性コンテンツの子どもへの提供に対し通知の時間制限、親の同意、提供事業者の設計思想、影響調査データの公開義務付けなどを定めた(裁判により現在は施行停止中)。ネブラスカ州では18歳未満のソーシャルメディアアカウント作成に親の同意、年齢確認が必須とし、親が投稿や利用時間を管理できるよう義務付ける。違反した親には罰金刑も。
英国は23年、「オンライン安全法」を制定。プラットフォームに子どもに有害なコンテンツを選別できるシステム構築および、重要な政治的発言やジャーナリストのコメントなどのコンテンツを削除しない義務を設けた。24年には学校教室内のスマホ使用を禁止する政府ガイダンスを発表する一方、民間から「スマホから自由の子ども(Smartphone Free Childhood)」を名乗る草の根運動が始まり、親たちの参加が広がる。
生成人工知能(AI)の急進化でスマホへの依存性はますます深まる。筆者は東京の電車内でスマホ利用状況を観察したところ、ほぼ毎回、乗客10人中8人程度がスマホに見入っていた。なぜスマホに夢中になってしまうのか。
答えは、スマホが超利便性の魔性を持つ、刺激的で日々役立つケータイのツールだからだ。それは、見る者を刺激するように仕掛けられている。AIを使ったディープフェイクで本物そっくりの画像やニセ動画を作り出すことも簡単にできる。
スマホの本質は「注意収奪マシン」である。SNSでは情報を次々に繰り出して利用者の注意を引くことを事業モデルとする。ユーザーから無料で個人データを集め、その好みや関心をAIが学習してアルゴリズムでユーザーを広告に誘導する手法はお手のものだ。
SNSの特性は、情報刺激にあり、情報洪水の中にニセやウソ、極端情報が紛れ込む。情報は真偽不明のまま大量に流れ来る。先の参院選では、SNSでショート動画を多発して耳目を集めた排外主義の参政党が予想外に急伸した。
注目しなければならないのは、スマホ漬けが引き起こす精神面への悪影響だ。その現れの一つが、「考える時間をなくす」ことから来る「思考停止」である。スマホの所有率は今では13〜59歳でほぼ100%に上る。タブレットを含むと2台以上所有する人も多い。
総務省などの実態調査によると、10〜20代の若者は平日で「1日平均4時間半」をネットと過ごす。日々のスマホ使用が突出する。仮に1日の睡眠時間を7時間、朝昼晩の食事時間を調理、片付け、外食を含め計3時間、仕事時間を8時間、通勤時間を準備を含め往復2時間とすると、合計20時間に。1日の残りはあと4時間。ここからスマホやタブレット使用に「4時間半」を費やせば「自由な自分時間」や睡眠時間はその分、削られる。
人々はスマホに注意を奪われ「自由に考える余裕の時間」をなくしている実態が分かる。「考える」とはブラブラとリラックスして、心のオープン状態から生じる知的作業だ。これが対応法の発見や創造的発想につながる。この大事な「考える時間」を、AIを使った注意収奪マシンは貪欲に剥ぎ取る。