■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「白昼の死角」
第226章 東芝再生の究極課題 / ガバナンス立て直しが柱

(2023年10月26日)

名門没落の真因

TOB(株式公開買い付け)の成立に伴い12月中にも上場廃止となる名門企業・東芝の再建方法が注目を集める。企業再生と再上場を果たすには、企業の原景を変える抜本改革が欠かせない。東芝がかつて誇ったコーポレート・ガバナンス(企業統治)の崩壊こそが、東芝危機の真因とみられるため、1960年代に経営難の東芝(当時、東京芝浦電気)に乗り込んで再建した故・土光敏夫や2010年に経営破綻した日本航空(JAL)を再建し再上場させた京セラ創業者の故・稲森和夫のようなカリスマ経営者が必要、との声が挙がる。

東芝は今なお幾つかの先端技術で世界の先頭を行く。創業は1875(明治8)年。白熱電灯の日本での最初の製造・販売に始まり、近くは世界初のノートパソコン、DVD プレーヤーなど画期的商品を生み出してきた。目下、近未来の実用化を目指し量子コンピューターや量子暗号通信、デジタルデータ・サービスなどの新事業開発を進める。しかし、先端技術を生かし、大きい事業に育てるには、経営基盤を安定させなければならない。
投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)を中核に国内企業連合20社超による東芝へのTOBが9月に成立し、東芝の新たな株主はこれら企業連合に一本化される。東芝は2015年の不正会計発覚後、海外原発子会社の巨額損失が加わり、経営が急悪化。債務超過に陥り、上場維持のため海外の複数のアクティビスト(物言う株主)・ファンドからの出資を受け入れるが、これが対立・抗争を生んで経営は混乱を深めた。

今後は、国内連合が安定株主として東芝再建に乗り出す。当面の課題は、東芝株の約3割を保有しているとされるアクティビストの追っ払いだ。その筆頭株主のエフィッシモ・キャピタル・マネジメントは10%近い株式を保有し、TOBにも応募した。東芝は11月に臨時株主総会を開き、全株取得を目指す強制買い取りの手続きに入る計画だ。

<写真>土光敏夫・旧石川島播磨(現IHI)社長
出典:IHIウェブサイト

山積する課題

今回のTOBで、JIPは買収資金の大半を銀行からの融資で賄うが、銀行への返済義務は買収された東芝側が負う。返済が滞るような事態となれば、銀行側の経営改善圧力が強まるのは必至。東芝は目に見える経営改善を急がなければならない。

当面の不可欠の課題として、多くの識者は不採算部門の整理や大幅な人員削減、資産売却など「厳しいリストラ」を挙げる。
東芝は経営危機下、半導体メモリーや医療機器、家電など主力事業を次々に売却した。残った事業のうち稼ぐ力があるのは、パワー半導体やハードディスクドライブ事業、鉄道や水処理技術のインフラ事業、発電システム、エレベーター事業などだが、圧倒的な強さに欠ける。23年3月期の連結売上高で2割近くの約6700億円を稼いだエネルギー事業の場合、将来性に富む再生可能エネルギーと共に、過去に大損を出し、先行き不安と不透明感を依然抱える原発事業が含まれる。

だが結局、リストラや既存事業の拡大だけでは再建困難とみられ、ブレークスルーとなる先端技術のグローバル事業展開が欠かせない。だがそのためには、東芝が凋落した真因を見究め、そこから根本的に立て直すシナリオが必要となる。その大失敗の真因とは、ガバナンスの崩壊である。それが不正会計問題として一挙に表面化した2015年4月に遡って、当時の状況を再確認し、問題の本質を明らかにしよう。ガバナンスの立て直しこそが、東芝再生の大基盤となることが分かる。

内部通報で不正発覚

東芝の不正会計問題は当初、単に不注意なミスに過ぎないとみられた。東芝自らが「不適正会計」という言葉を使い、マスメディアも「不適正会計」と報じていた。しかし調査が進むにつれ、その実態は歴代3社長らトップによる組織的不正会計であることが発覚する。あぶり出されてきた事件の特性は「ガバナンスの崩壊」であった。

発端は内部通報だった。これを受けた証券取引等監視委員会が東芝のインフラ工事案件に関し検査を行い、不正会計処理の疑いが浮上。東芝は15年4月に問題を公表し、事実関係を調べるため社外の公認会計士らを含む特別調査委員会を設置する。調査の結果、一部インフラ関連工事で工事原価総額が過小に見積もられ、工事損失が適時に計上されないケースが判明した。
さらにそれ以外にも調査が必要な事案が浮上し、東芝は中立・公正な外部の専門家総勢99人が構成する第3者委員会の立ち上げを余儀なくされる。同年7月に公表されたその調査報告書により歴代3社長が部下にプレッシャーをかけ、2009年3月期から14年12月期までに計1562億円にも上る利益水増しを行ったことが明らかになる。経営トップが主導した組織的関与があった、と認定されたのだ。

「なんというざまだ」

不正会計の具体的事実が暴かれた結果、関与した取締役8人が引責辞任、経営陣は一新された。が、改革への期待は裏切られる。経営トップの不仲・対立、経団連会長の椅子を巡る権力闘争が影響し、「産業界の先端を行く」とみられていた東芝のガバナンスが崩れて機能不全に陥っていたからだ。経営上層部の堕落の影響が、組織内に浸潤したのである。

東芝のガバナンス強化への取り組みは早かった。1998年には執行役員制度、99年に社内カンパニー制度を導入。2000年6月に指名委員会(取締役候補を指名)、報酬委員会(取締役、執行役員らの報酬を決定)を設置し、03年6月からは商法改正により導入されたばかりの委員会等設置会社制度を採用している。しかし、実質は何ひとつ働かずに不正を見逃していた。例えば監査委員会。「定期的に執行役のヒヤリングを行うと共に、経営監査部長から経営監査結果の報告を受ける」などと規定されていたが、全然機能しなかった。コントロールなき無責任体制に陥っていたのだ。

「なんというざまだ。情けない。土光さんや石坂(泰三)さんの墓前で土下座しろ!」2015年9月に開かれた東芝の臨時株主総会で、2000人近くも集まった株主の間からこういう怒声が上がった。東芝を再興に導いた偉大な先人経営者2人と現状のお粗末な経営トップとのあまりの違いに、その株主は思わず声を張り上げてしまったのだ。
東芝再生は一筋縄で行かない。会社が第1に必要なのは根本的なガバナンスの立て直しだが、器だけ立派に作っても、経営トップが悪ければ無用の長物となる。新しい皮袋には、経営哲学を持った良質の「新しいワイン」が入らなければならない。