■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第207章 出生・子育て対策はフランスがビッグヒント
(2022年1月17日)

出生率の低下が、コロナ禍で加速してきた。生産年令人口(15歳〜65歳未満)はピーク時の1995年比13.9%も減った。国・地域から活力を奪う人口減への対策は、もはや待ったなしだ。 政府もようやく2023年度に「こども家庭庁」を新設し、少子化対策と子ども支援の対応に乗り出す。幼稚園の所管を文部科学省に残すなど課題を引きずるが、子ども政策の司令塔として立ち上げる。出生率向上の妙案はあるのか―内外の成功ケースが道しるべとなる。

止まらない人口減

厚生労働省によれば、2020年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生む平均子ども数)は5年連続低下の1.34。この数字がおよそ2.1を下回ると、人口は減りだすとされる。政府が目標とする「希望出生率1.8」からほど遠く、コロナ禍による出生減でその差は前年より広がった。
出生減の懸念は、世界的な広がりを見せてきた。米ワシントン大学が昨年7月に発表した世界出生率予測調査によると、21世紀後半にほぼ全ての国が人口減少に当面しそうだ。世界人口は2064年に約97億人とピークに達したあと、今世紀末には約88億人に減少する見込みだ。
1950年当時、世界の女性は平均4.7人の子どもを持ったが、2017年には2.4人とほぼ半減。さらに2100年までに1.7人を下回る。「これは仰天するほどの異常事態だ」と研究者の1人はコメントした。
今世紀末までに人口半減に追い込まれるのが、日本やイタリア、スペイン、タイ、韓国など23カ国。日本の人口はピーク時2010年の約1億2800万人から5300万人以下に減るという。
最大の人口大国、中国も、今後4年で約14億人とピークに達したあと、2100年までに半数近い約7億3200万人になる、と見込まれる。
最も深刻なのは韓国だ。2020年の出生率は日本を大きく下回る世界最低水準の0.84。人口が集中するソウル市内の住居費や教育費の高騰、キャリア女性の結婚観の変化、雇用の非正規化による経済困難などで、若者が結婚しなくなるとされる。このように経済の豊かさや女性の権利意識の高まりを背景に、人類は今世紀中に歴史上初めての人口減少時代に入る見通しだ。

フランスの長く厚い施策

高齢化が世界最速で進む日本。出生増加策に、どんなメニューがふさわしいか―。
米国と共に出生率を先進国中最も高く保ってきたフランスが、学習モデルの一つ。その出生率は、2010年前後に5年連続で2人以上を記録した。コロナの影響で減少する前の2019年は1.87。日本と比べると1980年代半ば以降、その差を大きく広げた。
高出生率の最大要因は、手厚い家族政策だ。きっかけは、1871年の普仏戦争の敗北に遡る。かつてフランスはロシアを除く欧州諸国きっての人口大国。欧州を支配したナポレオンの軍事力の背景に、欧州最大の人口規模があった。が、19世紀後半に出生率が急低下し、総人口が増え続け、国力を増すドイツに追い抜かれた。普仏戦後、危機感を強めたフランスは様々な少子化対策を打ち続け、今日に至るまで「少子化対策先進国」を保つ。
対策で目立つのは30種類にも及ぶ家族手当。対象は生活困窮者や低所得者でなく、一般世帯だ。1939年制定の「家族法典」が家族手当を公的制度として定着させた。以後、第1子から家族手当を所得制限なしに支給するほか、「母子もしくは父子家庭、親なし家庭」向けにも養育手当を整え、出産先行手当も導入した。ポイントは全体の5割超を占める婚外子の子育ても、同様に支援していることだ。昨年6月には、仏議会は異性カップルのみが対象だった人工授精や体外受精などの生殖補助医療を、独身女性や女性同士のカップルにも拡大する法案を可決した。

日本の先進ケース

日本の市町村にも、進んだ施策がある。
岡山県東北部の奈義町がその一つ。人口約5700人の小さな町だが、合計特殊出生率は2019年に日本トップとみられる2.95に達した。「子育て応援宣言」を掲げる同町の主な支援メニューは以下の通りだ。
・ 満7カ月児から満4歳児童で保育園等に入園していない児童養育者に児童1人につき月額1万円を支給。
・ 高等学校の就学支援として学費、通学費を一部助成し、生徒1人当たり年額9万円を在学中の3年間、毎年度支給。
・ 医療費を18歳まで無料化。
・ 出産祝い金として子の誕生に際して子の数に応じて10万〜40万円を支給。
これら内外の優れた施策メニューの中から最適と思えるモデルを選んでの活用が、行政のプラグマティックな一手となる。