■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第202章 異常事態の日常化/豪雨・山火事・コロナが襲来する世界

(2021年9月13日)

地球温暖化の影響が、日本や世界各地で豪雨や熱波となって生々しく現れてきた。新型コロナと同様に、気候変動を生活の安全を脅かす「いま、そこにある危機」として対応する必要がある。

地球温暖化

この夏、世界で頻発したのは森林火災だ。米西部、カナダ、ブラジル、欧州、北アフリカなど各地で40度を超える熱波と空気の乾燥がもたらした。米カリフォルニア州では、森林火災が多発した前年の2.5倍に。 米当局によると、8月半ば時点で米国で100以上の大規模森林火災が発生している。
ドイツやベルギーを7月に襲い250人超が死亡した7月の大洪水も、温暖化の影響とされる。ライン川流域の洪水リスクは事前に警告されたが、住民がよもや深刻な事態になるとは思わずに油断して被害を広げた。
日本では温暖化の影響は豪雨となって現れた。東京五輪直後に続いた西日本各地での連日の大雨被害。停滞する前線が「これまで経験のないような大雨」をもたらした、と気象庁は指摘した。

異常気象は8月に入ると、食生活をも直撃した。北海道では6〜8月上旬にかけ記録的な高温と少雨に見舞われた。結果、発育し損なった北海道産ジャガイモの8月の東京市場の卸値は平年比4割ほども値上がりした。
このことは、異常事態が日常化してきた、ということである。
地球温暖化が、いまや世界中の市民の生活を脅かしてきたのだ。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8月9日、今後20年間で世界の平均気温の産業革命前からの上昇幅が、1.5度に達する可能性があるとする第6次報告書を発表。 この中で、人間の活動が温暖化を引き起こしていることは「疑う余地がない」と初めて断定した。人間活動のせいで自然が荒れ、人類の生存を脅かすようになったことが、確認されたのだ。 「脱炭素社会」が日欧米を軸に共通した国際社会の目標になったのも、気候変動は放っておけば国の安全保障に直結する、との危機意識からである。

デルタ株

もう一つの異常事の日常化は、新型コロナ不安だ。新型コロナの脅威は依然、続く。インド発の変異ウイルス「デルタ株」の広がりが、鎮静化しかけたかに見えた感染状況に火を付けた。 遅れていたワクチン接種では、ようやく1次接種でみれば6割を超えた。この接種ペースが続けば、9月末にはコロナ感染は収まっていき国民の不安も和らぎ、営業規制も解除されて経済活動がようやく正常化する、との期待も広がっていた。
しかし、実態はデルタ株の感染急拡大で予断を許さなくなった。ワクチン接種で先行した米、英、イスラエルでいったん感染が収まったあと再び急拡大してきた。3国とも死者は激減したが、やむなく国民の3回目の接種に入る。

日本でも東京五輪時から急拡大したデルタ株感染で、コロナワクチン接種が遅れた20〜30代を中心に現役世代の感染が急増した。
明らかになってきたデルタ株の特徴は、二つある。感染力が従来株よりもはるかに強いこと。さらに、ワクチンの効果に差があり、日本で使用中のワクチンの効きめは確認されたものの、効果の低いワクチンもあることだ。
日本ではデルタ株の感染拡大による医療ひっ迫で、感染者の「自宅療養」を増やす措置がとられ、これが重症化・死亡の多発、子どもの感染を招いている。

歴史の教訓

コロナは変幻自在だ。最近では南米コロンビア由来と見られる新たな「ミュー株」が出現した。すでに約40カ国に感染が広がり、日本でも外国人の入管検査で感染者が確認された。 世界保健機関(WHO)は、ミュー株がワクチンの効果に影響を与える可能性がある、と見る。今後、デルタ株以上の変異ウイルスがいつ現れても不思議でない。
ここで歴史の教訓を引き出さなければならない。多くの大規模災害も、ウイルスの疫病も、今後は想定外の確率で発生する、とみなければならないことだ。 豪雨や洪水、山火事は頻発が繰り返される、ウイルスパンデミックも繰り返し襲来する―。このように将来を予見して「いま、そこにある危機」として備える。コロナ対応に日本政府がしくじった真因は、危機意識の欠如だ。 コロナ感染を「非常事態だ」と認識して、有事の対応で取り組んでいれば、国民への支援金10万円の給付遅れも、ワクチン承認の2カ月遅れもなかった。

新政権の役割になるが、「有事体制づくり」の観点から日本のコロナ対応の失敗の原因を全て洗い出す。9月より発足したデジタル庁の働きを生かし、エネルギー基本計画時のような経済産業省と環境省の縦割り省庁論議の空回りを省いて決定を早める。 「司令塔」を確立して、決断を急ぐのだ。そして、世界の主戦場となる「脱炭素・脱化石燃料市場」での日本経済の競争力復活を手に入れる必要がある。