NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第14章 NSA、三沢基地の「エシュロン」関与を確認
 米NSA(国家安全保障局)が主導する英語圏5カ国による秘密のスパイ・ネットワーク「エシュロン」が、日本の三沢空軍基地(青森県)を通信傍受の拠点としていることが、NSAの公表資料によって確認された。冷戦時代に、「愛人(Ladylove)」というコードネームの作戦に従い、米国の対ソ連スパイ活動の一環として、通信衛星を通じてソ連の軍事上の交信を傍受し翻訳・解析していた。三沢基地がエシュロンのネットワークの重要基地であることが判明したことで、冷戦後は日本や中国、北朝鮮など近隣の東アジア諸国に矛先を変えて通信傍受を行っている可能性が高まった。
 欧州連合(EU)では昨年春以来エシュロンを使った米英の産業スパイが問題化、ことし2月には欧州議会が特別調査委員会の設置に動き出すなど、産業スパイ活動を否認する米英側との対立が強まっているが、日本政府はエシュロン問題に対し米英側に伝えられている産業スパイ活動の有無に関して確認を迫ることさえしていない。こうした「米国追従外交」からみて、通信傍受法の成立を受け、日本政府がエシュロンと協力して日本国内で通信傍受を行うか、三沢基地に依頼して特定の対象を通信傍受してもらう可能性も出てきた。
 NSAは「機密扱い」にしていた内部文書の一部について、インターネットのホームページ上に公表することに踏み切った。それによれば、過去に内部通達した15の文書を“機密解除”している。うち「ドキュメント12」でエシュロンに言及、三沢基地が「愛人作戦」に基づき、エシュロンの基地がある英国のメンウィズヒル、ドイツのバッドアイブリング、米ノースカロライナのロズマンと同様に、冷戦の間、通信衛星を通じてソ連の軍事情報を傍受するスパイ活動に従事していた実態を明らかにした。

NSAの「限定暴露」

 エシュロンについて初めて公表したのは、「エシュロン部隊の活性化」と題された米空軍情報局(AIA)の94年の活動報告書の一部。説明書きの中でエシュロン部隊がAIAの「544諜報グループ」の一部を含み、機密活動におけるAIAの参加は三沢基地における「愛人」作戦に限定されている、と指摘している(このほかグアム島基地がエシュロン作戦に関与していることを示唆している)。
 しかし、別ページに掲示された肝心のAIAの94年活動報告書は、所どころインク消しのようなもので消去されていて完全には判読できない。それでも三沢基地の「愛人」作戦へのAIAの参加が、現地指揮官との間で合意され、覚え書が交わされたこと、翌95年にはこれらエシュロン部隊の活動を強化するため特別な指令が出されること、などを知ることができる。
 エシュロンの存在そのものを否認していたNSAがなぜ、いま、エシュロン関係文書の公表に踏み切ったのか。先のAIAの活動報告書には、当初は「トップシークレット」とあったのが横線で消され、その側に「機密事項に属さない(Unclassified)と押印されてある。米政府は欧州連合(EU)の猛反発を受け従来の否認政策を転換して事実の一部を明らかにするほうが賢明、と判断したのは間違いない。ほおかぶりを続けていてもいずれバレるのなら、この際事実の一部を小出しにして相手に譲歩したほうが得策、というわけである。
 この種のディスクロージャー法をCIA当局者は「限定暴露(リミテッド・ハングアウト)」と呼ぶ。もはや事実を隠し切れないと判断した場合、情報機関は被害を最小に食い止めるため、トカゲのしっぽ切りを始める。事実の一端を少し明かして問題追及の矛先を緩め、燃え上がった世論の火を鎮めようという狙いである。
 狙い通りにいけば、トカゲはしっぽを切られただけで追及の手から逃げられる。このやり方でCIAは、さまざまな疑惑をヤケド程度で切り抜けてきた。NSAもまた、この伝統的手法を使い出してエシュロン疑惑の追及をかわそうというのである。

マイクロソフトも絡む?

 NSAが「限定暴露」に追い込まれた背景には、エシュロンによる産業スパイ事件を追及する欧州議会の圧力ばかりでなく、エシュロン当事国の米国や英国、ニュージーランドをはじめデンマークなど欧州各国で「エシュロン・ウォッチャー」が立ち現れ、ネット上にエシュロンの活動に関するリポートを次々に発表しだした状況がある。
これらの“反エシュロン市民連合“によれば、エシュロンはプライバシーを盗聴し覗き見する「市民の敵」にほかならない。放っておけば、何をされるか分からない不気味な「影」であり、こうした非合法活動をグローバリゼーションの先端を行く米国と英国などが自国の利益のために最新鋭の情報技術(IT)を使って行っている―という不安と反発が、インターネットでの暴露に向け市民を駆り立てているのだ。
 ことし3月、米中央情報局(CIA)のジェームズ・ウールジー前長官が「米国はこれまで欧州の贈収賄活動を監視してきた。いまもそうだと思う」と米ワシントンで外国人記者団に語り、スパイ・ネットワークの暗躍ぶりを印象付けた。
他方、昨年9月に米ソフトウェア・セキュリティ専門会社の主任科学者がネット上で、マイクロソフト社がNSAに対しユーザーに無断で「極秘のアクセス」を与えている、と主張したことから、マイクロソフトへの疑念も広がった。NSAが侵入できるようにマイクロソフトのパソコン用基本ソフト「ウィンドウズ」に「裏口」が密かにつくられ、その鍵の名も「NSAキー」というのだから、全米のユーザーを不安に陥れた。
 「マイクロソフトは米政府のスパイ機関と結んでプライバシー侵入に手を貸している」と、多くのユーザーがマイクロソフトに警戒感を抱きだしたのである(これに対し、マイクロソフト側は“裏口の鍵の名”はNSAが輸出用セキュリティ・ソフトに求めている技術審査にパスしたことを印すため、NSAにちなんで名付けた、と反論、主張はばかげている、と否認した)。
 こうしたエシュロン騒動の中で米NSAによるさらに驚くべきインターネット傍受の疑いも浮上してきた。NSAはコンピュータにいま入力中の通信文の内容を「その場にいるかのように」盗み見している、という疑いだ。すべてのコンピュータが発信する電磁信号を傍受して解読する、という技術は専門家によれば少なくとも十年前から可能だったらしい。
 NSAはこの種の通信傍受を「テンペスト(“大嵐”の意)」というコードネームで呼んでいた、と暗号文書収集家がネット上で主張して波紋を投げた(NSA側は国家安全保障上の理由を挙げて、発表を事実上拒否している。)
 エシュロンを巡る熱い闘いは、NSAが一歩譲って「限定暴露」に踏み切ったことで、新しい局面に入った。


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