■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第147章 役人天国へまっしぐら/天下り、堂々復活

(2011年9月15日)

民主党政権が誕生して2年―。政権を取った09年衆院選のマニフェストの看板の一つ「天下り根絶」は、公約違反がはっきりした。 もう一つの看板「国家公務員の総人件費2割削減」も、実現の気配すらない。いまや政権は「官僚主導」に逆戻りした。 「野田どじょう政権」は、財務省に丸投げの官僚主導で安定化を目指す魂胆とみられる。 となれば、所管省庁幹部の業界団体・企業への天下りも、堂々と復活してくるのは必至だ。

マニフェストを裏切り、国民を欺く

民主党政権下の天下り規制問題は、屈曲した。政権交代を実現した2年前の民主党マニフェストでは、「国家公務員の天下りのあっせんは全面的に禁止する」と謳っていた。
鳩山首相は政権獲得直後の09年9月、マニフェスト通り国家公務員の天下りあっせんを認めない方針を明言した。 これが明治時代以来、官僚が閣議決定の内容を前日に決めてきた事務次官会議の廃止に続き「政治主導政治」がいよいよ始まった、と国民を沸かせた。
ところが、1カ月後の10月末には、鳩山内閣は早くも「脱官僚」の大看板を放り出す。
斎藤次郎元大蔵(現財務)事務次官を、郵政三事業を展開する民営化途上の日本郵政(特殊会社)の社長に、副社長4人中2人に旧大蔵省OBと旧郵政省OBを起用したのだ。「民から官へ」逆走させようとしたのである。
鳩山首相は野党時代に、「国民が最も怒っているのが官僚の天下りだ」と国会で表明したが、政権を取ると主要ポストへの天下りを自ら解禁してしまったのだ。

鳩山内閣はさらに翌11月、「天下り」を定義し直し「府省庁のあっせんを受けずに再就職先の地位や職務内容に照らし適材適所の再就職をすることは、天下りに該当しない」との新解釈を打ち出した。 内閣が直接任命すれば天下りではない、というわけだ。
ここに詭弁があった。天下りは「あっせんか任命か」の方法の問題ではないからだ。天下りは組織維持の問題であり、ひとたびポストを手に入れると、そのポストを代々、後進に「指定席」として譲り渡すようになる。
官僚側は、政権に対し「ならば、任命の形をとって天下りさせてくれ」となり、実際、これ以後「あっせん」の形をとらない天下りが横行するようになる。

2代目、菅内閣が昨年6月に閣議決定した国家公務員の「退職管理基本方針」が、この新解釈を押し進め、天下り規制を骨抜きにした。
以後、「官を開く」ためとして「官民人事交流」を謳い、現役官僚を出向や民間派遣の形で政府関連法人や民間企業に押し込むようになる。 他方、「あっせん」ではなく民間企業側が求める形にして幹部官僚が天下った。
結果、独立行政法人、公益法人などの政府関連法人に2139人(うち役員に105人)が現役出向、OBとして2101人(同574人)が、09年9月からの民主党政権下の1年間に天下ったことが判明した(衆院調査局調べ)。 天下りは根絶どころか、形を変えて大がかりに横行したのである。

行政と一体化する法人、組合

こうした経緯から、天下り問題は民主党政権下で「退職前5年間の職務と関係の深い業界への再就職は2年間禁止」という、それまでの人事院による事前規制を外したことと合わせ、むしろ野放し状態になってしまった。
パチンコ業界を例にとってみよう。この業界では今後もこれまでと同様、警察幹部の天下り風景が広がることは間違いない。

警察からの天下りは、大きく所管の3分野にわたる。警備、交通安全、娯楽・遊技だ。〈図表 「警察OBの天下り」3分野と主な天下り先公益法人〉(PDF)
たとえば警備分野では、全国警備業協会(うち役員に3人)とか全国防犯協会連合会(同2人)、日本防犯設備協会(同2人)などの公益法人に天下る。 交通安全分野では、日本自動車安全用品協会(同7人)、安全運転研修推進協会(同5人)、自動車安全運転センター(同6人)、日本交通管理技術協会(同7人)、国際交通安全協会(同5人)、新交通管理システム協会(同8人)などと並び、公益法人の代表格の一つ日本自動車連盟(JAF、同7人)がある。
パチンコ業界を含む娯楽・遊技分野では、全日本アミューズメント施設営業者協会連合会(同4人)、競艇保安協会(同3人)、日本遊技関連事業協会(同1人)などもあるが、ここでは代表例として財団法人・保安電子通信技術協会(保通協)と社団法人・全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)を取り上げてみよう。

保通協は、行政と一体化している公益法人の典型である。その中心業務は、パチンコの型式試験を警察庁の指定を受け、独占的に行うことだ。つまり、国の「指定法人」として都道府県公安委員会の委託を受け、国が定めた技術上の規格に照らしてパチンコがきちんと稼働するかを調べるため、コントロール・プログラム解析などの型式試験を行う。
この業務指定の根拠とされる法律は「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」。これに、国家公安委員会規則で定めるところにより、認定または検定に必要な試験の実施に関する事務の全部または一部を、国家公安委員会があらかじめ指定する公益法人に行わせることができる旨、書かれてある。

つまり、全国で21兆円規模を売り上げるパチンコ店の設備の型式試験を、法に基づき一手に独占しているわけだ。
検査は「10時間の試射」が規則で義務付けられている。試験手数料は都道府県条例で決められ、マイクロプロセッサーを内蔵するパチンコの場合、152万4200円もする。 警察庁からの調査委託収入なども合わせた年間事業収入は、計27億円超(10年度)。役員の中枢は当然、警察OBが占める。〈図表 保通協 役員名簿〉(PDF)
会長(常勤)に元警視総監、専務理事(常勤)に元警察庁情報通信局長、常勤の常務理事4人中2人が元福岡県警察本部長と元警察庁情報通信局長だ。
全日遊連は、パチンコホールの全国組織で業界のいわば総本山。下部機関に暴力団対策特別委員会、不正防止対策特別委員会などがある。東日本大震災を受け、今年6月の総会で空調、照明等の省エネ対策の強化を決めている。 むろん、連合会と都道府県にある同協同組合のすべてに警察OBが天下る。
民間には、10店舗以上開店営業する大手、中堅企業に“用心棒役”でしっかり食い込む。

このような天下り支配団体がパチンコ業界に限らず、どの業界にも根を下ろし、経済の公正取引を妨げ、活性化を阻害しているのだ。 天下り構造こそが、日本経済・社会の長期停滞の元凶の一つであり、即刻、この構造自体を廃棄しなければならない。