■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第126章 「事業仕分け」の危険なカラクリ

(2009年12月9日)

2010年度予算のムダを削減する行政刷新会議の「事業仕分け」には、プラス、マイナス両面の効果を併せ持つ二つのカラクリがある。それは一体何か。
カラクリの一つは、国会議員らが公開で予算査定を行い、国民の予算への関心を一気に高めた劇場化手法だ。予算は見えるようになり、国民は国が行う事業のムダが実感できた。 その個別成果を類似事業への適用や「埋蔵金」の国庫返還につなげることで、数兆円もの予算削減が実現可能な見通しとなった。
二つ目のカラクリは、この仕分けの“お膳立て”をした財務省が、「仕分け対象」から自ら所管する事業を極力除外し、仕分けを免れたことだ。 財務省が仕分け作業に差し出した所管の事業は、全体の447事業中わずか8事業。にもかかわらず、行政刷新会議はこれを黙認し、同会議の「財務省依存」ぶりを一段と浮かび上がらせた。

画期的な予算査定

第一のカラクリは、予算査定で画期的な意義を持つ。同会議は仕分け判定の結果を2010年度予算編成で類似事業にも適用することを決めた。そのなかには従来、族議員の介入で予算が“聖域”化し、手がつけられなかった事業も多数含まれる。“一点突破・全面展開”である。
さらに独立行政法人や公益法人の「基金」に貯まった「埋蔵金」は、1兆円超見つかった。これらの埋蔵金の多くは特別会計から支出されており、特会の埋蔵金発掘への足がかりも得た。 筆者の試算では、本丸の特別会計には08年3月末時点で86兆円規模の「埋蔵金」(年金資金など国民への直接給付分を除く可処分積立金・剰余金)が埋もれている。これらをどこまで発掘し、財源に活用するかが、政権に問われる。

しかし、「一点突破」から「全面展開」していくためには、大きな課題がある。それは、従前のような “出たとこ勝負”をやめて、これまでの調査結果を踏まえた理論武装をして臨むことだ。 たとえば、独法の天下り先法人への随意契約金は一定基準を設けて削減する、というふうにである。独法にしても特会にしても、会計検査院のこれまでの検査報告をしっかり活用することが、時間の制約下で重要だ。
「事業仕分け」に欠けていたのは、本来なら同会議が予めまとめるべき指針・基準であった。仕分け人らは「ムダ」と判断する明確な基準を持たないまま、作業に突入した。 代わりに財務省作成の「論点メモ」を渡され、これと冒頭の主計官の論点整理に沿って論議を進めてきた。その点で仕分け作業は、実質的には財務省の請負作業だった色が濃い。
今後の同会議の課題は、改めて「指針」と「基準」作りをしっかり行い、新たな制度作りにつなげ、これを全省庁・全事業に適用することだ。

財務省主導で逆走の序曲

「第二のカラクリ」は、財務省が協力の見返りに同省所管の事業については8事業を“いけにえ”にして、ほかは「仕分け」からまんまと逃れたことであろう。 仕分け対象となる事業数は、農林水産省97、文部科学省85、国土交通省48、厚生労働省47とは、あまりに対照的だ。
仕分け対象は財務省の言いなりで決まり、仕分け作業は同省主計官の指南で進められた。この「財務省主導」をなによりも物語るのが、当の仕分け会場の体育館を保有する財務省所管の独法・国立印刷局が、仕分け対象から除かれたことだ。
同印刷局には都心の大手町、虎ノ門など超一等地に土地や建物の有形固定資産が2525億円相当のほか、繰越積立金260億円、未処分利益84億円(09年3月末時点)の埋蔵金を持つが、財務省は超優良資産を持つ、この身内の独法を敢えてマナ板に乗せなかった(批判を受け、最終日に仕分け対象に造幣局と共に追加)。

行政刷新会議に対する「財務省支配」は、事務局を官僚で固めたことで実現可能となったと見られている。仙谷由人行政刷新担当相の側近の秘書官や参事官が財務省出身に加え、加藤事務局長は元大蔵(現財務)官僚だ。
黒子を務める事務局を見てみよう。事務局次長2人のうち、総括担当の1人は財務省から起用され(もう1人の民間出身者は未定)、参事官以下の35人中、官僚が実に7割強の25人を占める。民間人はたったの10人。 3つのワーキンググループがあり、全体総括を経産省と財務省出身者および加藤事務局長が主宰するシンクタンク「構想日本」からの民間人1人が担当する。首相官邸も同様に官僚と官僚OBで固められている。
自民党前政権と同様の構図である。 こうしたなかで、鳩山内閣は10月、日本郵政の社長に斎藤次郎元大蔵事務次官を就任させた。下降線をたどった財務省の“復権”が始まった、と見る向きは多い。 郵政三事業の「民から官」への逆走に続いて、国立印刷局も独法から再び財務省の直営に戻すつもりだろうか―。「事業仕分け」後の行き先を、国民は注視しなければならない。