■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第124章 民主党新政権に「政治主導」ができるか/“官詰め”の鳩山内閣

(2009年11月16日)

「脱官僚依存」を掲げる民主党新政権が、実は運営を官僚と官僚OBに委ねるジキルとハイドの“二つの顔”を併せ持つことが、はっきりしてきた。改革の顔をしたジキルに対し、別人のハイドは改革の矛先を鈍らせ、軌道修正を図ろうと余念がない。

政権内で官僚勢力の浸透が著しいのは、首相官邸と行政刷新会議。鳩山内閣はすでに日本郵政の社長に斎藤次郎・元大蔵(現財務)事務次官を就任させ、郵政3事業を再び官業に戻す方向を打ち出して、国民の多くを驚かせた。
ところが、長雨のように政権中枢に浸透していった、もう一つの「官僚支配」については、目立たないゆえに、あまり注目されていない。しかし「改革」の成否を占う上で、公権力の運営を担う主導勢力が何か、は重大な問題だ。内閣官房などの裏方の“お膳立て”によって、改革の実質は大きく左右されるからである。

最近、筆者自身が思いがけず、官僚勢力によると思われる“横ヤリ“を受けた行政刷新会議の迷走に巻き込まれ、混乱させられた。11月2日、筆者は2010年度予算を巡る各省庁の概算要求額の大幅削減を目指す「事業仕分け人」への打診を関係者から受ける。間もなく、仕分け人選出の責任者である行政刷新会議の加藤秀樹事務局長から直接電話が入り、「仕分け人」の内定を得た。
しかし、この内定はわずか2日後に、なぜか「ジャーナリスト」を理由に覆される。11日に始まった仕分け作業では、筆者の希望通り「厚生労働・経済産業・外務」3省を分担するはずだった。
どこの先進国でも、「ジャーナリスト」を理由に政権協力から排除されたケースは聞いたためしはない。あるとすればロシアくらいだろう。政府は「ジャーナリスト」を「政権リスク」と見たのだろうか。この内定取り消しの背後に、「親官僚」とされる官僚OBらの策謀があったかどうかは定かでないが、その可能性は大いにある。

内閣官房関係者によると、首相官邸と内閣の看板の一つ、行政刷新会議は「官僚で固められた」という。官僚機構の頂きに立つ事務担当の官房副長官に前総務次官。事務の官房副長官補、首相秘書官らも慣例通りすべて財務省や外務、経産、警察など4省庁出身だ。異例にも政務の首相秘書官にも、官僚出身者(経産省)を起用した。
しかも3人の官房副長官補、内閣情報官、内閣広報官、内閣危機管理監はそれぞれ再任され、麻生内閣と同じ顔ぶれだ。鳩山内閣は「脱官僚」を叫びつつ、いつの間にか自民党前政権と同じく官僚で足元と周囲を固めてしまったのである。
これら官邸人事などの決定方針や過程は公表されなかったため、国民がメディアの報道で知ったときにはもはや「既成事実」となっていたのだ。

休眠状態を続ける国家戦略室とは対照的に、脚光を浴びる行政刷新会議をみてみよう。ここでは、企画立案し会議を運営する事務局の7割を官僚が占める。事務局長の加藤氏は大蔵OBでシンクタンク「構想日本」の代表。次長も財務官僚だ。参事官以下企画官、補佐、係長・係員に至る総勢35人中、官僚が25人、民間人はたったの10人しかいない。
これら官僚事務官にとって「出身官庁の利害」が頭から離れないとしても、不思議でない。こうした官僚と官僚OBに囲まれて防備された“要塞”の中で、生きた主体的政治(政治主導の政治)は果たして可能だろうか―。

先の内閣官房関係者によれば、内閣の官僚依存体制の中で、そのしたたかな調整力と機転で存在感を際立たせているのが、民主党の松井孝治官房副長官と古川元久内閣府副大臣の2人だという。
松井氏は陰で「副総理」とも呼ばれる経産省出身の49歳、古川氏は大蔵省出身の43歳。2人は「親官僚」として民主党と官僚ネットワークの接点に立って活動を広げる。菅直人副総理が指揮をとる国家戦略室の「局」への格上げが年内に実現できず、活動が軌道に乗らないのも、「官僚勢力の妨害工作のせい」とみる向きもある。こうした内閣が“官詰め”の状態では、鳩山改革の足元はおぼつかない。

民主党政権は表の顔である「改革」を成功させるためには、文字通り「政治主導」でなければならない。そして、そのためには裏方のハイドに代えて民間から活力と知恵をもっと取り入れ、政策の立案と運営に生かさなければならない。