■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第98章 特別会計の限りなくルーズな実態

(2006年12月11日)

  国の31ある特別会計(特会)の「ルーズな財政実態」が、会計検査院の検査報告で浮き彫りにされた。報告は、カネの流れの不透明さに加え、多額の繰越額・不用額が毎年度発生しているなど、所管省庁の管理のずさんさを指摘している。「特別会計の闇」が、国の財政チェック機関によって、ようやく照らし出された意義は大きい。

複雑怪奇なカネの流れ

 今回の検査は、特別会計の状況について参議院決算委員会の報告要請を受けて行われ、10月に検査結果が報告された。
 そのポイントはまず、特別会計に出入りする複雑怪奇なカネの流れが解明されたことだ。特別会計が分かりにくい大きな要因は、一般会計と各特別会計間、各特別会計相互間、同一特別会計の勘定間にカネの出入りがあり、歳入・歳出が重複していることだ。一般会計からの繰入れなどの重複分を除いた純計ベースでみると、2006年度の特別会計予算規模は225.3兆円と、一般会計(33.4兆円)の約6.7倍近くに上る。
 報告は、このような他会計や他勘定(特別会計全部で63勘定ある)相互の繰入れに係る科目数は、2004年度の特別会計決算では約300にも上ることを挙げ、「極めて複雑な状況となっている」と指摘している。

 特別会計が分かりにくいもう一つの要因は、年度を越えた資金移動に相当する前年度余剰金の受け入れや、積立金との間の資金の受け払いといった内部取引の内訳が、一斉示されていないことだ。
 さらに、一般会計の予算書・決算書にあるような主要経費別分類(「社会保障関係費」のように重点施策の種類を示す)のコード番号が付されていないことも、特別会計の不透明さを助長している、と報告は指摘する。一般会計では、歳出の各「目」(「項」の下の勘定区分)が主要経費別分類のいずれかに該当するかが分かるコード番号が付されてあるが、これがないため「予算が何に使われたか」すぐに把握できない。

不用額10.5兆円

 報告は、各特別会計の繰越額・不用額の多さも問題視している。予算執行後に残った剰余金のうち、翌年度への繰越額を引いたものが不用額だが、検査の結果、04年度の繰越額は特会全体で11.8兆円、不用額は10.5兆円にのぼった。02〜04年度の3年間に連続して100億円以上の不用額が発生した“常連”の特別会計は18会計、28勘定あり、その上予算10%以上の不用額が発生した特別会計は8会計、10勘定あるが、こうした繰越額・不用額の年度ごとの推移は、一覧できる形では発表されてこなかった。
 不用額は基本的に、一般会計からの繰入金などとともに各会計の積立金に繰り入れられる。この積立金は特別会計全体で04年度末で201.4兆円にのぼる(積立金を管理・運用する財政融資資金と外国為替資金の2特会を除く)が、報告は積立金をめぐる自己規律の欠如も指摘する。

  筆者は、国の財政赤字を改善するためにも適正レベル以上の積立金は一般会計に繰り入れ・活用すべきだと考えるが、報告によれば、そもそもほとんどの特会は積立金の目的、使途などに応じた「適正基準」を定めていない。「このため、積立金等の残高が適正な水準であるかどうかを判断できず、資金の有効活用を図る上での財政統制が機能しにくい状況となっている」と報告はいう。
  財政融資資金特会の積立金については、一部を国債・借入金の償還に備えるための国債整理基金特会に繰り入れるなどの措置が06年度に講じられたが、それ以外の多くの特会の積立金は、規律なく漫然と積み立てられ続けているのである。
  これらの積立金の適正基準作りと圧縮・一般会計化は、国家財政健全化の重要なカギとなるだろう。

出資法人が抱える巨額の欠損

 特会からの出資にも問題が多い。報告によれば、各特会が出資する法人に対し、他の特会や一般会計からも出資が行われているケースがあるが、それらを集計した形の情報開示は行われていない。
 例えば、独立行政法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」だ。NEDOは3つの特会(産業投資、電源開発促進対策、石油及びエネルギー需給構造高度化対策)と一般会計から出資を受けている。3特会からの出資金残高が約1268億円、一般会計からの出資金残高は約360億円(04年度)。NEDOが複数の会計から出資を受けているのは、NEDOが全部で11勘定(05年度末)を持ち、各勘定の事業目的に応じて出資者が異なるためだ。しかし、第三者がこうした出資の全貌を知るには、会計ごとに調査し、集計するしかないのが現状だ。
  出資先の法人の財務状態にも問題がある。経済産業省所管の産業投資特別会計の場合、NEDOを含む複数の研究開発法人への出資残高は05年度末で3428億円にものぼる。だが、これらの出資法人のほとんどが繰越欠損金を抱え、その合計は2641億円(産業投資勘定出資相当分は2416億円)にも及ぶ。各法人が行う研究開発事業が適正かどうかの判断が問われるところだ。

 電源開発促進対策特会(電源特会)の出資先である日本原子力研究開発機構(旧特殊法人・核燃料サイクル開発機構が05年9月に解散、その権利・義務を引き継いで同10月に独立行政法人化された)の場合、旧法人解散時の国からの出資金残高は2兆9225億円。うち欠損金は2兆5657億円にのぼった。他方、現在の日本原子力研究開発機構に対する国の出資金は、5004億円しかない。独立行政法人化にあたり、国は2兆4千億円超を「損切り」したわけだ。
 同機構が手がける高速増殖炉などの研究開発に多額の事業費を要するのは事実だが、「大事な研究だから仕方がない」と、これほどの損切りを大目にみていいはずはない。
 核燃料サイクル開発機構の研究開発用財源は、1967年〜79年度の間、一般会計から出資金されていた。80年度以降は、一般会計と電源特会の双方から出資金として、02年度以降は渡し切りの補助金として賄われた。所管官庁から天下りした役職員の給与・賞与にも補助金が充てられた。高度な研究開発事業とはいえ、丸ごと税金で賄われてきたのだ。

  その財源の一部である電源特会については、昨年、予算がその通りに執行されていない「予算と実績のズレ」が大きく報道じられた。
  その一例として、原子力発電所の立地難で予算を使い切れないため、「原子力情報なび」などのホームページの制作・更新に年間3億円もの予算を4年間、計上し続けた。今回の報告も「事務費」名目で、でたらめな出費をしていた事実を確認した。同特会の財源は、国民が支払う電気料金に含まれる電源開発促進税だ。予算の積算・執行状況を、所管省庁・財務省は総点検する必要がある。
 消費税引き上げ論議がくすぶり続けるが、「あり余る特別会計のカネ」から財政改革に着手するのが、打つべき「次の一手」であろう。

特会をオープンな一般会計に

  政府は06年5月に成立した行政改革推進法で特別会計改革の方向を示した。その内容は、1) 31ある特会を5年をメドに1/2〜1/3程度に統廃合する、2) 剰余金など計20兆円を今後5年間で財政健全化のために活用する、3) 国の財政状況の透明化を計る―などである。
 しかし、これは徹底した改革内容とは到底いえない。先に見たように不用額ひとつとっても10.5兆円に上っているのであり、これだけで消費税引き上げ分のざっと4.2%相当に匹敵する規模だ。政治は消費税論議に入る前に、まずはこうしたムダ金を即刻、有効な一般会計資金に転用する必要がある。
 さらに一歩進めて、密室型の特会を全てオープンな一般会計一本に統合し、どうしても必要な特会事業のみを一般会計上で区分経理することで、国の会計を分かりやすく透明化する抜本改革を考えるべきだ。トラック(一般会計)やフィールドの各種競技(個別区分経理)をスタンド(納税者)から一覧できる「陸上競技場方式」が、その中心概念となる。