NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第3章 官僚たちの利権追求の道具・公益法人(新編)
 構成がちょっと妙なことになったが、JAFの話をもうしばらく続けよう。
公益法人が営利体質を隠すには、何より財務内容を外部に見えにくくしておかなければならない。不透明性、言い換えれば「情報の非公開」こそが、こうした公益法人に欠かせない舞台装置といえよう。

株主不在が可能にする不透明決算

 政府は昨年12月、公益法人の指導監督基準を一部改正している。この結果、例えば内部留保については「公益事業の適切かつ継続的な実施に必要な程度とすること」に改められた。分かりやすくいえば「限りなくゼロに近い利益」ということだ。そこで、前回みたように1996年度は引当金や積立金を増やして剰余金を大幅に圧縮したのである。

 97年度はどうだったか。さる6月末に開かれたJAFの総会に提案された収支決算書の中身は不可解なものだった。会館の建設用などに積み立てられてきた施設改善積立金が一挙に21億1800万円余りも取り崩されたのである。この取り崩しで赤字が穴埋めされ、民間企業の純利益に当たる当期剰余金はゼロになっている。つまり、内部留保を取り崩して無理して指導監督基準に合わせ、収支トントンにしている。
 だが、収支決算書とは別に提案された「収支計算書」によれば、どういうわけか施設改善積立金の取り崩し収入は前述の倍以上の49億2000万円余りに膨らんでいる。公益法人会計基準による組み替えの結果だとしているが、この差が生じた理由は明記されていない。一体、本当はどれだけ取り崩したのか、これでは分からない。便宜的にこの取り崩し額を加減して、数字のつじつま合わせをしているとしか思えない。
 では、取り崩し分は何に使ったのか。当初予算比でみると、雑損などの事業外費用、前年比でみると管理費の増加がいずれも14%台と目立っている。だが、それ以上詳しいことは明かしていない。

 こうした不透明な決算は、民間の株式会社と違って株主不在だから、平気でまかり通っている。57人いる役員はいずれも業界の現役とかOB、官僚OBもしくは業界関係者とか、竹村健一や犬養智子のような業界と縁の深い著名人だから、全員が仲間内のようなもの。役員報酬として計1億5400万円余り(97年度)が分配されたが、不祥事に揺れた民間企業とは異なり、誰からも文句が出るわけはない。収支を不透明なヴェールで包んだまま、96年度のように事業に莫大な利益が出れば引当金、積立金を積み増して「利益隠し」を行い、逆に赤字になるようだと内部留保分の施設改善積立金を97年度のように大きく取り崩して、目立たないように穴埋めするのである。

ロードサービス用の会費でモータースポーツの赤字を補填

 JAFの事業のうちモータースポーツ事業はとりわけ「公益事業からの逸脱」と強く批判されている。2年前に、自社さ三党がつくる与党行革プロジェクトチームが問題視したのも、本業のロードサービスとは関係のない自動車競技に血道をあげているからだ。
 JAFメイト誌によれば、赤字の続くモータースポーツ事業は97年度に収入約6.7億円に対し、支出が約8.5億円、差し引き約1.8億円(前年度は2.3億円)の損失。同誌は「この収支の差は会費から充当しています」と記しているものの、モータースポーツ事業の赤字がロードサービスを目当てに入った会員の会費から補てんされている事実を、一般の会員はほとんど知らないのではないか。JAFは少なくともこのリスク負担を、入会の際にきちんと説明する責任を負っているはずだ。

 JAFは自ら付与しているモータースポーツ・ライセンスの保持者10万人がJAFの会員(3月末で総数約1270万人)になっているから、補てん額は会費収入の0.7%以下で適正な範囲内―と表向きいっているが、問題混同もはなはだしい。一般の会員はロードサービスを受けたいために入会しているのであり、レースやラリーといった興業の世界とは無縁なのだ。
 しかも腑に落ちないことに、パリに本部を置くFIA(国際自動車連盟)の日本代表として、ヨーロッパ系のF1のようなFIAが組織するレースばかり宣伝し、開催に協力してきた。JAFはロードサービスのために生まれた団体のはずだが、モータースポーツという別種の事業を営み、これに関しては事実上「FIA日本支部」なのである。

 JAFの国内競技規則をみてみよう。総則によれば、FIAを自動車競技および競技規則を実施する機能をもつ「唯一の国際的権威」と位置付ける。そして「その実施に当たって生ずる紛争を裁定する最終審の国際裁定機関である」と言い切っている。この規定はFIAの定款にリンクしたものだ。
 一方、JAFはこのFIAにより日本の自動車団体の代表として公認され、「国内の自動車競技を管理統括する唯一の権威であることを宣言する」とうたっている。つまりは、実質的にFIAの日本の出先機関であり、日本国内のモータースポーツについてはFIAの定款や規則に従って独占的に業務ができる、というわけだ。F1レースをむやみに宣伝して、FIAの競技規則スポーツコードを「国際スポーツ法典」と訳すのも、FIAと一体化しているせいだ。
 こうしたJAFの偏ったモータースポーツ事業に刺激され、日本のカーレーサーもいつしか米国の自動車競技の存在さえ忘れ、F1レースに熱を上げるようになる。『中嶋悟のF1日記』のまえがきには、こう書かれてある。
 「『いつかはエフワン!』というのが、もう長いこと、日本のレーシングドライバーの見果てぬ夢であり口ぐせでもあった。それを目指して何人が海を渡ったことだろう…」

なぜF1レースにこだわるか

 手元に89年度から93年度の5年間、計60回に及ぶJAFのモータースポーツ関連の国際会議出張記録がある。それによれば、出張先の大部分がフランス(31件)で、米国はわずか4件。出張費が倍増して2000万円の大台に乗るのは92年からで、出張者は延べ25人、回数は19回、出張費用は計2430万円に上る。一人当たり97万円、一回あたり128万円の支出だ。
 こうした豪勢な「フランス詣で」も、FIAと一体化して日本で利権を独り占めするため、と勘ぐられても仕方がない。JAFは自動車競技を巡る諸規定の制定および管理、A級やB級など各種ライセンスの発給、競技車両や競技コースの公認、競技会の組織許可、記録の管理、競技に関する紛争の裁定―など、モータースポーツの全分野に関与しているからだ。(次回に続く)


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