■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
財務官僚内閣がゴリ押しする「社会保障と税の一体改革」/無責任国家の正体(1)

(2011年12月12日)

「説明しない首相」の下、「社会保障と税の一体改革」が動き出した。消費税をはじめ、国民の負担がずっしりと重くなる内容だ。 民主党政権はいま、「脱官僚」どころか官僚を代弁する官僚社会主義への道を進む。それは、責任を負わない官の決定を優先する「無責任国家」への道だ。

野田内閣は「財務官僚内閣」といってよいのではないか。「安全運転」と称して、財務官僚の指南に沿って消費増税、年金、TPP、大震災復興増税の陰謀を押し進めてきたからだ。 先頃G20首脳会議で突然「10年代半ばまでに段階的に消費税10%へ引き上げ」を発表し、国際公約してしまったことが、その特性を物語る。
約1000兆円にも上るこの国の借金問題を取り上げてみよう。考えてみれば、財政の所管官庁は財務省である。巨大債務を積み上げた責任が当の財務省にあるはずだが、それは頬かぶりだ。
ある財務省OBが言う。
「政治ばかりに責任があるわけではない。われわれの財政規律にも問題があった」。

ところが、借金のツケは増税、年金、医療費などの形で国民がそっくり支払うシナリオがいま、着々と進む。その前にやるべきムダな歳出の削減、とりわけ国会議員の定数や歳費の削減、民主党マニフェストでうたった「公務員の人件費2割カット」は棚上げしたままだ。
「国民に丸ごと負担」を実現するために、政府は洗脳工作が必要になる。

年金の財源不足喧伝の陰謀

10月に突如、「年金受給年齢68歳引き上げ」の厚生労働省案が噴き出した。世論の反発に慌てた小宮山洋子厚労相が、来年の通常国会に法案を提出しない、と言ったことから、騒ぎはひとまず収まる。 しかし、厚労省は「撤回したわけではない。引き続き検討する」と保留の構えだ。
だが、現実は、年金は切羽詰まった財政状況にない。厚生年金で給付額のほぼ4年分に相当する140兆円の年金積立金がある。 万一、保険料収入がなくなり、積立金を取り崩していっても4年近くは持つわけだ。政府はなぜ、ことさら財源不足を喧伝するのか。
答えは、消費増税法案を年明けの通常国会に提出して成立させるために、「いま、そこにある年金の危機」をつくり出す必要があるからだ。

年金はいま、本当はどんな財政事情なのか。
厚労省が09年2月に発表した「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し」と題する年金財政の検証結果報告書がある。 これによると、厚生年金で財政の余裕度を示す積立金の10年度末の見通しは141.1兆円。給付額の3.9倍で、余裕のある米国の3.5倍(07年)を上回る。11年度は同141.7兆円、同3.8倍の見通し。
実績はどうだったか。09年度末の積立金は厚生年金、国民年金双方で見通しを約4兆円上回った。10年度は未定だが、運用損などで厚生年金と国民年金を合わせ「見通しを4兆円超下回る」と年金局数理課はみる。 両年度で見通しを若干下回る程度だ。「受給年齢引き上げ」をすぐに行わざるを得ないような崩壊状況にあるわけではない。
しかし、年金の安定財源確保もあって、10年代半ばまでに消費税を10%に引き上げる―このシナリオ「社会保障・税一体改革成案」を菅内閣が6月に政府決定し、その早期実現のために、年金の財源不足問題を急迫しているかのように演出したのだ。

野田首相は無責任にも、国民への説明抜きで、官僚にハンドルを任せて財務省路線をひた走る。