■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
<番外篇> 食の健康志向一段と高まる/潮流の大変化始まる

(2015年6月29日)


高齢化に伴う健康意識の高まりで、グラノーラや大豆といった食材への需要が急拡大してきた。長期デフレ不況下で強まった消費者の低価格志向も変わりつつある。海外では日本文化の一つである「和食」が注目されており、関連業界は対応を急いでいる。

進む減塩化

国民の消費支出に占める食費の割合が年々高まり、昨年4月からの消費税増税の影響もあって、消費の「選別性」が強まっている。
昨今は食を選ぶ際に、従来からのおいしさ(喜び)、旬(新鮮さ)に加え、健康効果がますます大きなウェートを占めるようになった。消費者が「健康によいかどうか」「体に安全な食材か」を念頭に選ぶ傾向は一段と強まり、素材に何が使われているかを重視する。これが食の需要全体に急激な変動をもたらしている。
長期にわたったデフレ不況下で、食の選択は低価格志向が顕著だった。しかし、この1年くらいで健康志向と高級化志向の高波が押し寄せた。
コンビニ最大手セブン―イレブン・ジャパンでは、低価格志向は「いまや6割程度」(鈴木敏文会長)とみて、高価格帯へシフトする独自性と、ヘルシーさを強調するプライベート・ブランド(PB)化を推進する。業界各社は、この食の潮流の大変化に対応しようと躍起になっている。

厚生労働省が今年4月に食塩の1日当たり摂取目標量をこれまでより1グラム程度引き下げ、男性8グラム未満、女性7グラム未満に設定したことも、この流れを後押しすっる。 日本人の塩分摂取量は、1日当たり男性平均11.3グラム、女性9.6グラム。世界保健機関(WHO)の基準である5グラムを大幅に上回る。
塩分摂取量を減らすため「減塩」を強調したソースや、摂取した塩を体外に排出する働きがあるカリウムの含有量が多い食品がクローズアップされてきた。塩分の取り過ぎは、高血圧やがん発生のリスクを高める。カリウムを多く含むのは大豆、マンゴー、リンゴ、桃、イモ類、トマト、バナナ、アボカド、ピーマン、ブロッコリーなど。これらの素材が消費者の関心を集める。

グラノーラの流行

はやりの“健康食”の象徴ともみられ、需要が急拡大しているのが、グラノーラだ。
東京都心部にある外食レストランチェーン。今春から朝食の定番メニューにグラノーラを加えたところ、予想以上に好評でサラダ、コーヒーとのセット注文が目立つという。客の多くは出勤前の中高年男性だ。
グラノーラはシリアルの一種で、オーツ麦や大麦、トウモロコシ、玄米などをベースにドライフルーツ、ナッツなどを混ぜて原料とする。これに蜂蜜や砂糖、植物油で甘みを付けてオーブンで焼く。牛乳やヨーグルトなどをかけるか、そのままスナックとして食べる。最近は、コンビニに「飲む朝食」と称するグラノーラまで現れた。

グラノーラの“元祖”は19世紀後半に開発されたサナトリウムの患者用健康食品に遡る。1960年代に米国で自然食を愛好するヒッピーたちが普及にひと役買ったという。このグラノーラの健康効果が見直され、再び需要に火が付いた。
ニューヨーク州ロングアイランドのジェリコ町に店を開くグラノーラ専門店の棚には、多種多様なグラノーラが並び、大勢の客を集める。
筆者が訪れてみると、客の多くはニューヨーク市マンハッタンからマイカーで1時間以上かけてやってきた富裕層の男女だ。普通のスーパーには見かけないようなスマートな美男美女が多い。客たちはグラノーラを手に取り、注意深く品定めをしていた。

大豆の評価急上昇

もう一つ、ニュートレンドの代表格ともいえるのが「高タンパク、低脂質」の大豆だ。このところ大豆を取り入れるスイーツ・レシピも目立ってきた。たとえば黒豆(黒大豆)をプリンやパウンドケーキに活用する、など。顧客の反応は上々だ。
健康効果からみると、とりわけ注目されるのが黒豆と枝豆(未成熟の大豆)。黒豆の場合、ポリフェノール(抗酸化作用があり免疫力を活性化)、ペプチド(エネルギー代謝をアップ)、イソフラボン(血圧降下作用)、レシチン(中性脂肪を溶解)、ビタミンB群(乳酸の分解や糖の代謝促進)をはじめオレイン酸、オリゴ糖、ミネラル、カルシウム、食物繊維も含まれる。
枝豆も健康食として世界的な関心を集める。米国では、酒のつまみやアペタイザー(前菜)、スナックとして喜ばれるようになった。2013年1〜12月の「和食」に関するグーグル検索キーワードでは、「すし」に続く2位に枝豆が入った。 これは、2013年12月の国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産登録を受けて、海外でのローマ字入力の回数をグーグルが調べた。

アジア各地ですでに普及している豆腐や豆乳など、海外でも大豆を使ったメニューは広がる一方だ。日本の伝統的な豆加工食への評価は、国際的にも高まりつつある。
日本の食文化で豆類は、主食のご飯に足りない、必須アミノ酸を補給するタンパク源として重宝されてきた。仏教の影響から長く肉食が禁忌とされてきたことも背景にある。奈良時代に成立した日本書紀には、米、麦、粟(あわ)、稗(ひえ)と並んで豆が「五穀」の一つに挙げられた。 正月のおせち料理に供される「黒豆」や「赤小豆」のように、行事食にも欠かせない。黒豆には「まめに働けるように」、「まめまめしく(まじめに)生きるように」との願いが込められた。
小豆は祝い事に赤飯や汁粉、ぜんざい、粥(かゆ)のほか、餡(あん)にして饅頭(まんじゅう)、どら焼き、最中、あんパンなどに用いられる。高タンパクでビタミンやミネラルを多く含む。赤い皮に豊富に含まれるアントシアニンは、眼の疲れを癒すとされる。
豆食は、日本の食文化の粋といえる。元は中国から渡ってきた豆腐、納豆、味噌といった豆加工品だった。これに先人たちが技術改良を加え、木綿豆腐や絹豆腐、ガンモドキ、厚揚げ、薄揚げ、オカラ、キナ粉へと、庶民向けに用途を広げていった。
この伝統食がいま、内外でにわかに注目されている。