■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
<番外篇> 成長戦略、正念場に/焦点は法人税と規制緩和

(2014年2月17日)

安倍政権が今年6月に打ち出す新たな成長戦略は、4月の8%への消費税増税の経済への影響をにらみ、成長を持続させ海外からの投資を呼び込む法人税引き下げ・規制緩和の内容が焦点となる。 踏み込み不足だと海外を失望させ“日本売り”を一挙に促す恐れもある。政府内の成長戦略論議は正念場を迎える。

法人税下げを国際公約

注目されるのは、安倍首相が1月22日に行われた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、法人税引き下げを明言した基調講演だ。「国際相場に照らして競争力のあるものにしなければならない」として、今年さらなる法人税改革を実行する旨述べ事実上、国際公約したことだ。政権当初の経済最優先に立ち戻れば、国民の高い政権支持率を引き続き保持できる。
安倍首相は同講演に先立ち、減税に際しこれに見合う当面の財源確保という従来の手法にこだわらない考えを示し、法人税の引き下げ先行に向け踏み込んだ。これは経済を上向かせ、中長期で財源を確保しようとの考え方だ。
自ら議長を務める経済政策の司令塔「経済財政諮問会議」でも、民間議員から法人実効税率を中国、韓国などアジアの主要国と同水準程度に、今年度の約35%から10%下げ25%程度にすべき、との主張がなされている。税収減を穴埋めする特定業界への特別減税措置の廃止などと引き替えに、法人実効税率の10%引き下げに踏み切る可能性が高まった。実現すれば、企業の負担減に加え海外の“日本買い”を誘い、日本での現地法人設立や企業買収を活発化させることが確実だ。

減反廃止に続く第2弾

法人税下げと並ぶ成長戦略の焦点が、省庁が張り巡らした「岩盤規制」の緩和・撤廃だ。とりわけ農業、雇用、医療、エネルギー分野の規制改革と政権が突破口と考える「国家戦略特区」の内容がカギとなる。
規制による保護の象徴とされてきた農業分野。政府は40年以上にわたり日本のコメ作りを規制してきた減反(生産調整)政策の廃止を昨年11月に表明した。2018年度から農家に向けた生産目標の提示をやめ、コメの生産を自由化する。
この目玉級の改革に加え、企業の農業への参入規制をどこまで外すかが、環太平洋連携協定(TPP)との交渉絡みで重要となる。
医療分野では、混合診療(保険診療と保険外診療の併用)の拡大が確実視される。

しかし、内外に十分に評価される新成長戦略に仕上げるには、ここに来て浮上してきた政策課題にも対応する必要がある。課題のキーワードとして、まず東京都知事選の争点となった「脱原発」に絡む「再生利用エネルギー開発」および「東京五輪対応」が挙げられる。さらに少子高齢化による労働力人口減に対し、主に不足する建設や介護現場向けに「外国人の就労受け入れ」、欧米に比べ遅れが目立つ「女性の活用」、「65歳以上高齢者の就労支援」関連の成長戦略を大胆に打ち出せるか、が問われる。

政府が昨年6月に発表した「第3の矢」の成長戦略(第1次)では的を外し、株価急落の一因となった。内外の市場からは「驚きがない」「総花的で小粒ばかり」と厳しい評価が相次いだ。新成長戦略で、際立った具体策が現れるか、市場は注視しているわけだ。
たとえば、東京五輪と東日本大震災・原発事故被災地の復興を「改革のパッケージ」として組み合わせ、東北被災地を「国家戦略特区」に指定する。 五輪の開催時に合わせ東北で医療、教育、農業、エネルギーなどの分野で規制改革、税制優遇、再生エネルギー開発支援、原発廃炉支援などを実施し、外国企業のヒトと投資も呼び込む。
このように国家戦略特区を使った壮大な改革を考えられないか。

問われる国民負担減

もう1つ、4月に迫った8%への消費税増税に対応する成長シナリオも描く必要がある。経済はこのところデフレを脱しインフレ含みとなってきた。この物価変動の影響で昨年後半から勤労者の実質賃金(名目賃金指数を消費者物価指数で除して算出)は下落している。厚生労働省の「毎月勤労統計」によると、昨年前半(1〜6月)の実質賃金は2月を除きプラス基調だったが、物価が円安の影響などで上がりだした後半は毎月1.0%〜2.0%のマイナスが続いた。
消費者物価に加え社会保険料や電力・ガス料金アップの家計への圧迫がジリジリと強まっているのだ。この状況で消費税が上がれば、家計への影響は避けられない。 対応策の一つとして、来年10月に予定される消費税率の8%から10%への再引き上げ時に食料品などへの軽減税率適用を決めておくべきだろう。 軽減税率を適用する対象は、欧州の多くの国が実施している食料品や情報インフラの新聞、雑誌、書籍などが挙げられるが、適用の考え方と軽減対象とする具体的生活品目、サービスを詰めるべき時期に来ている。

もう1つ、忘れてならないのが政府資産の売却による財源の捻出だ。消費増税にもかかわらず国の社会保障関係費が年間30兆円の大台を超えて膨張するなど借金経営の負担は大きい。経済成長を持続させ、財政を改善するため、国民の負担にならない財源を調達する必要がある。
そのためには政府出資の特殊法人、特殊会社の資産や持ち株を売却して新たな資金を調達しなければならない。現在、国の連結対象となる特殊法人、特殊会社、独立行政法人などは計216法人、国からの累計出資額は42.4兆円超(2011年度)にも上る。この膨大な政府系法人の役割と資産を洗い直し、民営化、資産や持ち株売却を進める必要がある。国が全額出資する成田や関西国際空港、高速道路各社などが検討対象となる。
財政不安が高まったEUでは、フランス政府がエアバスやパリ空港公団の保有株を売却して資金調達したほか、イタリアやスペイン、ポルトガルなども国営企業の株式売却や民営化を進め、増税なき財政改善を急いでいる。