■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
☆番外篇『特別会計メモ』

(2006年5月23日)

本稿は、要望がますます広がっている特別会計改革に関する講演依頼に備え、作成した「メモ」である。

結論/特別会計の問題を永久に解決するには、特別会計の制度自体を廃止するしかない

*なぜ、いま特会改革か →「行財政改革の本丸」だからである。
1)財政改革のため → 国と地方合わせて1000兆円にも上る借金財政 → 国の一般会計予算(79.7兆円、06年度)のほぼ4割を借金で賄う現状。
●にもかかわらず、31ある特別会計予算は2005年度で一般会計の5倍(歳出ベース411.9兆円)。 → 会計間の出入りなどのダブルカウントを除くと、一般会計の純計は34.5兆円、特別会計はその6倍 近い205.2兆円 → 実質約6倍 → 06年度では、特会予算はさらに48兆円超も増え、460.4兆円と、一般会計(79.7兆円)の5.8倍に上る。会計間や会計内の出入りなどの重複計上分を除くと、特別会計の純計は一般会計からの巨額の繰り入れなどから、225.3兆円と一般会計(33.4兆円)の純計の実に6.8倍近くにも膨らむ。 → しかも特会はカネがダブついている/歳入385.8兆円vs歳出357.7兆円、28兆円もの入超(05年度予算) → 個別決算ベースでは、しばしば当初予算の収支均衡を大きく乱す入超となる → 道路整備特会の場合、歳入5兆4591億円に対し歳出4兆7019億円と、8000億円近い入超。電源開発促進対策特会も、歳入6479億円に対し歳出4252億円。労働保険特会の雇用勘定も、歳入3兆570億円対歳出1兆9855億円と、1兆円以上の入超だ(いずれも04年度) → 結果、余剰収入から積立金や翌年の予算計上額を除いた純剰余金はざっと1.4兆円、積立金は年金保険を含め207兆円に上る → それなのに、一般会計から特会への繰入額が47.7兆円、その逆の特会から一般会計はたったの0.8兆円(05年度) → 一般会計のカネ不足に対し特会の巨額のカネ余り状態 → 離れで”スキヤキ会計”(03年2月の塩川正十郎財務相の国会答弁)になっている。

2)行政改革のため特会改革が必要 → 省庁が自分たちの裁量で使える「特別ポケット会計」に化している → 労働保険特会の法人別予算のほとんどは天下り先の独法へ配分 → 雇用保険料を財源とする労働保険特会雇用勘定の雇用保険3事業(雇用安定、能力開発、雇用福祉)の法人向け05年度予算をみると、2600億円超の予算の88%が所管の独立行政法人である雇用・能力開発機構、高齢・障害者雇用支援機構、勤労者退職金共済機構、労働政策研究・研修機構に、残り12%が所管の34の公益法人に分配されている。労災勘定の労働福祉事業も同様の傾向 → 雇用保険料や年金保険料財源のハコもの事業(サンピア、グリーンピア、サンプラザ、プラウザ、いこいの村etc.計約2430施設)、年金財源で庁舎、公務員宿舎の整備、まさかのゴルフクラブやマッサージ機も → ムダな官業と自分たち用の資金に流用。
●しかし、特会は問題が表面化する3年ほど前まで、国会でほとんど審議されず、マスコミも滅多に報道せず、財務省の予算査定もずさんな「沈黙の闇会計」「隠された裏予算」になっていた。

*特会の5問題
  1. 一般会計は大変な借金財政なのに、予算規模6倍近い特会のカネはダブついている → コスト意識の欠如、公金のムダ遣い。
  2. 国会審議も、マスコミ報道もほとんどなかった“隠された不透明マンモス会計” → 監視不全で実態不明
  3. 一般会計が透明性が高い「表予算」とすれば、省庁の「裏予算」となっていて、省庁の裁量で使い途を決めている → 所管省庁が管理運用。
  4. 天下り先となる官業の主要な資金源 → 「官の聖域」に資金供給。
  5. 省庁の管理・裁量下にあり、財務省もきちんとチェックしていない → 資金のルーズな管理、ムダ遣い。

*特会の死角
●歴史的には古く、特会の前身は明治2年にさかのぼるが、もとは「一般会計への従属性が強く、特に戦時期には、特別会計所属資金は一般会計に繰り入れられる場合が多かった」(「昭和財政史第17巻」大蔵省編、1959年発行) → ところが、いまは法律上は同格(財政法で2つの会計に経理区分)、実態は逆に超巨大な特会に、足りない一般会計資金が繰り入れられる(46.3兆円、06年度予算) → あたかも「特会が主、一般会計が従」の倒錯状況 → 説明責任あり。

*特会制度を見直す
●特会制度を今後も採用すべきか否か → 「国の財政は、一団として通覧できる形で予算を編成し、その執行結果である決算を作成することが、財政の統制、国民の理解のために最も望ましく、いわゆる単一予算主義の原則として従来から強調されてきた」(「会計法新講」行方敬信著)) → アメリカでは特会はなく、fundごとに独立させて収支がわかるように区分している、統合された一般会計方式(統合予算) → 米政府のホームページをみると、07会計年度の米連邦予算は「大統領の予算教書」、各省庁予算などの一般項目と並んで「ナショナル・サイエンス基金」や「社会保障運営」、「小企業管理」などの政策分野別項目に構成 → 国の予算を統合された会計上で関心項目に沿って通覧できるようになっている → 特会制度は「国の財政実態をわかりにくくする」ほかに省庁の隠れポケット会計、となり、壮大なムダ遣いの温床になる恐れ → 電源特会でホームページの制作・更新の委託に4年間で12億円も支出の例(経産省本体のHPで年130万程度の予算) → 抜本対策には特会制度の見直しが不可避

*新たな公的会計に抜本改革せよ
現在、政府は国会で審議中の行政改革推進法案で、特別会計改革の推進をうたっている → その基本的な考え方は、1. 国として行う必要性があるか。なければ独立行政法人化や民営化を検討すべき、2. 区分経理の必要性はあるか。なければ一般会計で経理すべき、3. 現行区分の妥当性はどうか。類似の事業を行う特会については、業務の効率化が見込まれれば統合する → この考えから改革の具体的な内容は、特会同士の統合、独法化、一般会計への統合で、31ある特会を「2分の1から3分の1程度」に減らす、となった → これだと特会の廃止、民営化は一つもない → 大半は所管省庁内の特会の統合 → 不要になった特会も束ねられて肥大化し、存続へ → 今後も特会が省庁によって悪用される仕組みを温存。

*抜本改革の内容
特会制度自体を廃止し、どうしても必要な特会事業のみを一般会計上で区分経理する → 不可欠な事業として区分経理が必要となりそうなのは、国債・借入金の償還・利子支払いと地方交付税の交付を経理する2特会など、ごく一部 → 特会制度自体をやめることで、ムダ遣いを生む各省庁による特会の管理・運用に永遠に終止符を打つ → 密室型の特会をオープンな一般会計一本に統合することで、国民にとって国の会計が一段と透明になり、一覧して掌握できる→「陸上競技場方式」 → トラック(一般会計)やフィールドの各種競技(個別区分経理)をスタンド(納税者)から一覧できる → あるべき日本の新会計制度は、米国版をモデルとし、それよりも透明で簡潔な日本版をつくるべき → その作業工程は、1. 全特会を制度ごと廃止し、一般会計に統合する、2. どうしても国の関与が不可欠な特会事業に限り一般会計上で区分経理する、3. すべての国の事業の財務内容をわかりやすくするため、民間会計方式を取り入れる → この特会制度の廃止を、複雑化してわかりにくい公的会計制度の大改革の「基軸」に据える。