■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第75章 特殊法人を上回る「蜜の味」

独立行政法人

(2004年8月26日)

 独立行政法人(独法)はいま、特殊法人以上に「官の聖域」と化している。職員の平均年収が国家公務員よりも多く、天下り比率も特殊法人より高いのだ。昨年10月以降、特殊法人・認可法人から移行した独法に、その傾向が著しい。だが、これら独法の人件費は、「運営費交付金」を名目に補助金で、つまり国民の税金や保険料など特別財源で賄われている。現在、107法人に上る独法の巨額の人件費に、「国民のカネ」が惜しげもなくバラまかれているのだ。

国家公務員より高い給与

 総務省は7月末、独法95法人の役員報酬と職員の給与水準を公表した。それによれば、2003年度の常勤役員報酬(平均)は、理事長など法人の長が1842万4000円、理事が1595万7000円、監事が1401万円だった。
 常勤職員の給与水準はどんなか。年齢構成に合わせた昨年度の比較(ラスパイレス指数)でみると、国家公務員行政職の「100」に対し事務・技術職員が107.4、研究職員102.3。いずれも国家公務員の給与を上回る。すなわち事務・技術職員2万3262人(平均年齢42.7歳)の年間給与額の平均が728万4000円、研究職員8377人(平均年齢44.0歳)が同899万5000円だ。

 だが、各法人にかなりのバラつきがあり、この平均値を10ポイント超上回る給与突出の法人が実に33法人に上る。その原因は、「法人の自律性の尊重の下、国家公務員や民間企業の給与、法人の業績等を考慮しつつ、各法人がそれぞれ支給基準を定めること」(総務省)とされているためだ。
 今夏の賞与も、特殊法人同様、国家公務員(2.1カ月分)のを業績に関係なく上乗せさせた2.19カ月分で決着している。給与、賞与とも、独法の方が国家公務員より優遇されている形だ。

給与約4割高の独法も

 調査対象とされた95法人中、職員の給与が最も高いのが農畜産業振興機構(農林水産省所管)。国家公務員の給与を36.4%も上回る。
 同機構は昨年10月、特殊法人の農畜産業振興事業団と認可法人の野菜供給安定基金が統合され、発足した。畜産物・生糸・砂糖・野菜の価格安定化のため、指定乳製品や指定食肉の売渡し、加工原料乳や肉用子牛の生産者への補助金交付などの業務を行う。
 同機構のホームページに掲載された公開情報によると、03年度の年間換算報酬額(推計)は、理事長が2054万8000円、副理事長(1人)が1895万7000円、総括理事が2人で計3569万9000円、理事4人が計6750万2000円、監事2人が計2910万3000円。

 理事長の場合、全報酬のうち賞与が565万7000円、調整手当が158万4000円を占め、賞与と手当の比重が高い。役員の報酬体系の特色は、理事長と副理事長以下との格差が、民間の役員の格差に比べずっと小さいことだ。多くの独法にみられるように、とかく目立つ理事長の報酬は抑えて副理事長以下に厚くする「高原型体系」になっている。
 常勤職員の場合も高原型に支給され、計182人の平均年齢43.6歳の平均年間給与額は諸手当と賞与が押し上げて960万6000円。在外職員は9人(平均年齢40.6歳)で、平均1347万6000円の「高待遇」だ。
 同職員の給与水準は、独法全体の水準と比べても独法平均を100として127.4。3割近くも高い。こうしたべらぼうな給与設定ができるのも、所管省庁と総務省のチェック機能が甘いためだ。双方とも第三者チェック機関の独立行政法人評価委員会を設けているが、十分機能していない。

給与は底上げの「高原型」

 国家公務員に比べて職員給与を4割近くも高給にしている理由について、農畜産業振興機構の総務部は、二つの理由を挙げる。
 一つは、BSE(狂牛病)や鳥インフルエンザのような事態に緊急対応ができる管理職の割合が役所より高く、大卒と大学院卒も同様の高比率で全従業員の8割を占めること。
 二つめは、本部(東京)に機能が集中しているうえ、公務員住宅を持たない住宅事情から調整・住宅・通勤各手当が公務員よりかかる。
 以上の「特殊事情」から、給与の高め設定はやむを得ない、というのだ。だが、こうした「特殊事情」はなにも同機構に固有のものでない。何より重要な点は、機構は自らの財源(収入)で給与水準を決定しているのではないことだ。国民の税金で、自らを養っているのだという見地から給与水準を決めなければならないはずだ。

 職員給与が国家公務員より3割以上高い独法は、ほかにも日本貿易振興機構(旧日本貿易振興会=JETRO)と理化学研究所がある。31.1%高い日本貿易振興機構の場合、役員報酬は理事長が03年度に2136万9000円、理事が1人当たり1682万9000円、監事同1473万1000円の水準。理事長と理事の報酬格差が500万円弱と比較的小さい。他方、職員570人(平均年齢38.4歳)の年間平均給与額は774万円。役員に比べ職員の給与が、相対的に高い。
 職員の給与が国家公務員より29.9%高い福祉医療機構の場合、理事長の03年度の年間報酬は2063万8000円。理事4人が計6816万1000円、常勤監事1人が1452万7000円、非常勤監事1人が477万5000円。
 ここでも、理事長の報酬を抑えた分、理事報酬が高めに設定され、職員給与も高水準だ。このような高原型の給与体系で、独法は運営されているのである。

在職2年で1000万円近い退職金

 もう一つ、退職金の支給実態はどんなか。特殊法人の場合、見直し実施前の02年3月までは、総裁が任期たったの4年で2326万円、理事長が1787万円も貰って批判を浴びた。政府は独法に対しても昨年12月に、役員の退職金の支給率の基準を決め、業績の範囲内に収めるよう、遅ればせながら閣議決定している。
 総務省によれば、03年度に退職した独法常勤役員の退職金の支給状況は、理事長など法人の長4人に対し計2535万7000円(単純平均633万9000円)、理事17人に1億1403万円(単純平均670万8000円)、監事1人に674万3000円だった。

 金額それ自体は小型化しているが、問題は在職期間だ。水産総合研究センター(農水省所管)の理事長の場合(ことし1月退職)、在職期間わずか2年10カ月なのに962万9000円の退職金が支給された。大学入試センター(文部科学省所管)の理事長のケース(昨年11月退職)では、在職期間が前者より少ない2年8カ月だが、退職金は991万円に上った。
 理事に対しても、在職2年余りなのに理事長並みに退職金を900万円超支給している独法が3法人あった。退職金も「高原型」といえる。その典型例は、農業・生物系特定産業技術研究機構(農水省所管)。在職期間2年6カ月の理事(昨年9月退職)に948万4000円支給している。これらはすべて「国民のカネ」から賄われているのだから、「お手盛り」というほかない。
 「国民のカネ」が、このような人件費に一体、総額でどのくらい費やされたのか―。

「隠れた国民負担」約6千億円

 「隠れた国民負担」と言うべき、こうした独法の役職員の人件費は、95法人の「最広義の人件費」(03年度)でみると、総額5817億8017万円に上る。「最広義人件費」とは、「給与、報酬等支給総額」に、退職手当引当金繰入額(当該年度のネットの繰入額。同引当金を取り崩した場合には、その額を控除)、法定福利厚生費、共済組合等の負担金の額および非常勤職員や臨時職員に支給した給与(手当)の合計額である。
 法人別でみると、同人件費のトップは、雇用・能力開発機構(厚生労働省所管)。619億7195万円に上る。次いで国立印刷局(財務省所管)の498億8899万円、産業技術総合研究所(経済産業省所管)の421億5158万円が続く。

 最大の「人件費ガズラー(大食い者)」の雇用・能力開発機構は、ことし3月に特殊法人から移行した。スパウザ小田原や中野サンプラザといった、雇用保険の積立金を使って建設した勤労者福祉施設は計2070。それらがことごとく不採算のため廃止を余儀なくされ、超安値で売却されて波紋を投げたのは記憶に新しい。
 官業の大失敗にもかかわらず、「特殊法人」の看板を「独立行政法人」に付け替えて存続し、いまなお役職員の人件費向けに巨額の公費を貪っているのだ。この間、官業の破綻と公費の壮大な浪費に対し、官僚は何一つ責任を取っていない。
 だが、独法の問題は「補助金を使った高い給与と疑問符の付いた仕事の内容」ばかりでない。経営を担う常勤役員の大部分が、所管官庁や特殊法人の出身者で占められていることだ。

役員全員が天下りの法人も

 独法の数は04年7月末現在で、107法人。これに独法の仕組みを取り入れた国立大学法人の89を加えると、実質196法人に上る。
 これらの独法は、大学法人を除けば、二つに大別できる。研究所など国の直属機関から分離され、01年4月に設立された第一期生の独法と、のちに特殊法人・認可法人が衣替えした独法だ。
 後者は、小泉内閣が閣議決定した01年12月の「特殊法人等整理合理化計画」により、特殊法人と認可法人(当時計163法人)は「廃止・民営化」する以外は基本的に独立行政法人化する方針に基づき、昨年10月以降独法化されていったものだ。

 だが、この独法の後発グループは、先の雇用・能力開発機構のように事実上、特殊法人などからの「看板の付け替え」に終わっている。いや、特殊法人時代よりも給与を引き上げ、天下りを増やしている例が多い。業務の自律性が認められていることをいいことに、独法の多くは自分勝手に運営している、と言うほかない。
 常勤役員中の官僚出身者比率をみると、特殊法人と認可法人から改組された独法では特殊法人を上回り、約7割に上っている。小泉政権の天下り抑制方針は、官僚に軽く見られ、事実上無視されているのだ。
 農畜産業振興機構を取り上げてみよう。役員10人全員が、前任の農水省と特殊法人、認可法人の元幹部だ。山本徹理事長は、林野庁長官から同事業団理事長を経て就任している。菱沼毅副理事長は元九州農政局長。独法全体が、蜜を吸い集める「官の巣」に化しているのだ。
 「改革」を看板にする小泉政権が、官僚に丸投げしてできた「改革の鬼子」をどう処置するかが、いま問われる。