NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第36章 道路公団の痛んだ財務実態明るみに
 特殊法人・認可法人の行政コスト計算書と民間企業会計に置き換えた財務諸表が9月末、公表された。日本道路公団によれば、公団を民間企業と見立てた場合、2000年度決算の当期利益は4229億9451万円に上ることがわかった。これは一見ゆとりの黒字決算にみえるが、異例の低金利(調達金利2%弱)の恩恵を受けているうえ固定資産税などの税金も計上されていないため、実質ベースでは大幅減益となり、よく見積もっても、辛うじて黒字を出している状態だ。
 他方、大赤字の本州四国連絡橋公団はむろん、首都高速、阪神高速の二公団も民間企業並み会計手法を適用すると赤字に陥っていることが確認され、見掛けよりも悪い経営実態が浮き彫りされた。
 この結果、道路建設を続ければ採算性の一層の悪化が避けられず、高速・有料道路建設の即時凍結の必要性が浮き彫りされた形だ。同時に、道路四公団の民営化論議に際してこうした心細い財務実態を踏まえ、今後どのような手法で早期民営化を図るか、が焦点となってこよう。

 日本道路公団の発表によれば、公団特有の財務会計手法「償還準備金積立方式」の「償還準備金繰入」の項目にいっしょくたに盛り込まれていた「減価償却」と「除却」の費用が取り出され、損益計算書の当期利益が計上された。貸借対照表では、資産の部で道路資産から減価償却費と除却費の累計額が減額される一方、負債の部で償還準備金から減価償却費と除却費の各累計額を合算して差し引いた額が剰余金に計上された。

 この“黒字決算”は、しかし、大きく割り引いて考えなければならない。理由の第1は、期中の資金調達金利1・82%という金利安に経営が大いに助けられたからだ。累積債務27兆円に対し仮に金利が1%高騰すれば、ざっと2700億円分経費が膨らむから利益の大半は消失する。
 理由の2は、道路資産28兆円余にかかる固定資産税・都市計画税を税率計1・7%で試算すると約4800億円の税負担となって経費に加算され、利益は吹っ飛ぶ。しかも法人税、地方税、事業税などの税金の控除も仮定されていないのである。
 理由の3は、計上された「除却費」が、本当はもっと多額でないか、過小評価ではないか、とみられることだ。「除却」はアスファルトやガードレール、電光掲示板など、破損などで資産価値がなくなった場合の帳簿からの消去をいう。
 この「除却費」は公団が年報で公表してきた「改良費」(99年度2000億円以上)の大部分を占めるが、それが今回の民間会計手法による算出では、わずか413億円しか計上されていないのだ。除却費が過小に計上されれば、その分利益は膨らむ。
 理由の4は、通行料金など公団の自己収入以外に、返済の必要がない政府補給金を1008億円も受け取っていることだ。税金を負担する国民が無償で援助している形だから、まともな民間会社ならもらえるはずもなく、実質ベースでみればこの分も割り引かなければならない。
 したがって、せっかく公開されたこの民間企業並みの財務諸表も、数字が甘くはじかれ厚化粧されている疑いが濃いのである。

 結果、日本道路公団の利益は出るとしても実質かなり薄い、とみられる。仮に道路4公団を統合した場合、他の3公団の赤字の合算額1757億円超(2000年度)をカバーするだけの利益を上げている可能性は低い。本四と阪神高速2公団の累積赤字をみると、総じて道路4公団の経営実態は予想以上に深刻、といえる。

巧みな国交省の罠

 今回の道路4公団の財務情報開示で、政府方針が事実上決まった民営化をどのように進めるか、という方法論は、経営実態の悪さを踏まえ、再検討を余儀なくされるのは必至だ。国土交通省が9月21日に発表した4公団の民営化案の問題点を取り上げてみよう。

 小泉首相が当初「英断だ。高く評価する」とした案だが、問題の第1は、民営化の時期にまったくふれていないことだ。タイムスケジュールを明示せずに、課題を先送りできるスキームにしてある。
 第2に、同省のいう「民営化」のゴールが政府が株式を全部か、かなりの程度保有する「特殊会社」になっていることだ。特殊法人を政府系の株式会社にするような衣替えだが、これを「民営化」と強弁しているのである。イタリアでは高速道路網のほぼ半分を建設・管理するアウトストラーデ社とその子会社6社を「特殊会社」形態から政府保有株式のすべてを民間に売却することで昨年3月に「完全民営化」を達成している。ところが、国交省案は、この「特殊会社」を「民営化のゴール」とする、まやかしの民営化である。
 問題の3は、巨額の借金と採算性の悪化にもかかわらず高速道路整備を続行しようとしていることだ。現行の高速道路整備計画(総延長9342キロ)にこだわる理由は、残る2400キロ余りの建設工事を続ければ、あと20年にわたり年間1・2兆円超に上る建設費に絡む利権に与れるからだ。
 問題の4は、建設が終わって借金漬けとなった本四公団は「お役ご免」とばかり切り離し、国民負担によって借金処理する一方、首都高速、阪神高速の2公団を日本道路公団と統合させて巨大化させようとしていることだ。2公団を「廃止」することで、改革を印象づけると共に、3公団の統合で事業を大きく独占しようとの企みが見え隠れする。
 問題の5は、民営化のあり方を検討する第三者機関を委員の人選をコントロールできる国土交通省内に設置しようとしていることだ(のちに小泉首相が所管官庁から独立した形の第三者機関設置を指示)。

 などなど、「巧みな陰謀」ぶりを随所で印象づける改革案なのである。
 このことは、今後、国土交通省案をベースに民営化のあり方の検討を進めれば、たちまちにして「官の罠」にはまる危険性を暗示する。


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