NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第32章 官の究極の聖域「特別会計」
 小泉政権が誕生したとき、CNN放送はいち早く「小泉首相は日本のゴルバチョフになる」と報じていたが、その後の経過をみると“和製ゴルビー”の面目躍如だ。ゴルバチョフのロシアのように旧体制を破壊し尽くしたあと国家再建に失敗しないためには、破壊に続く創造のヴィジョンを明確に打ち出す必要があろうが、まずは既に実質破綻して役立たない日本の旧来の仕組みと手法をことごとく打ち壊さなければなるまい。創造のために、はじめに破壊あるべし、である。
 本欄でもこの国の官制統治システムが金融に始まり財政に至るまで、すべての面で機能不全に陥り、「全身病」に至っている実態の一部を伝えてきた。その中で再三指摘したのは、この国に張り巡らされた「官」の聖域が市場経済をひどく歪め、社会の閉塞感と長期経済停滞を招いたことだ。
 「官」の聖域は、郵貯、簡保のような国営事業をはじめ、特殊法人・認可法人―公益法人―傘下の子会社・関連会社へと連なる「官業の多重構造」の中に潜む。そして、この聖域を養っている基盤が「事業」と「カネ」であることは言うまでもない。
 この意味で、塩川正十郎財務相が5月16日、道路をはじめ特定財源全体のあり方を見直す、と表明したことは、画期的だった。「官」の究極の聖域にいよいよ「政」による改革の手が及んだのである。特定財源全般を見直すことになれば、各省庁が所管する特別会計(現在37)のあり方も、連動して見直されることになる。

特別会計37のうち22が赤字

 その「特別会計」だが、そもそもどんなものなのか。
 財政法(1947年4月施行)第一三条に、国の会計は一般会計と特別会計に分かれる、と書かれてある。そして同条二項に「特別会計」の設置条件が定められている。
 それによると、「特別会計」は次の3つの場合に限り、法律をもって設置することができる。 1. 国が特定の事業を行う場合、2. 特定の資金を保有してその運用を行う場合、3. (目的税のような)特定の歳入をもって特定の歳出に充て、一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合、である。
 この条件から、国の特別会計のどれもが、特定の事業や特定の財源を持っていることがわかる。特別会計はいわば、特定の事業と財源を持つ各省庁が財務省主計局の査定を受けずに自らの判断で運用できる「プロジェクト会計」である。それはまた、議員やマスコミの目に留まる一般会計の陰で、これまではほとんど国会審議の対象にもならなかった「官」の「ポケット会計」でもあった。

 筆者が入手した国の特別会計(特会)の財務諸表(自民党行革推進本部の要請で各省庁がとりまとめ)によると、37ある特別会計のうち6割の22が最終赤字に陥る(2000年度予算ベース)。赤字額は計14兆円を上回る。赤字額の大きい順から並べると、ワースト1が「交付税及び譲与税配付金特別会計」で8兆2231億円の赤字。次いで「労働保険」の同1兆5236億円、「郵便貯金」の同1兆2120億円、「国民年金」の同1兆858億円と続く。
 以下、赤字特会はワースト順に、「道路整備」(同5714億円)、国立学校(同5345億円)、「治水」(同2705億円)、「国有林野事業」(同2200億
円)。さらに「石炭並びに石油及びエネルギー需給構造高度化対策」、「自動車損害賠償責任再保険」、「電源開発促進対策」、「国営土地改良事業」(以上赤字額1900億円台-1300億円台)。続いて、「食糧管理」、「国立病院」、「郵政事業」、「農業共済再保険」、「特許」、「農業経営基盤強化措置」、「漁業再保険及漁業共済保険」、「森林保険」、「自動車検査登録」、「都市開発資金融通」(同700億円台-3億円)の順。このほかに赤字スレスレが4会計ある。
 赤字特会は全体のほぼ60%を占め、しかも赤字の特会数と赤字額は年々増えている。ワースト1の交付税特会の赤字額が飛び抜けているのは、景気対策の連発で膨れ上がった公共事業費の負担増にあえぐ地方自治体の財源穴埋め用に、一般会計から1兆9303億円も繰り入れ、自治体向けに使ったためだ。このように「財源措置」として一般会計から繰り入れを受けた特会は21あり、繰入総額は25兆円以上に上る。

将来、国民に多額のツケ

 大半が赤字を計上し、しかも年々悪化している特会の財政事情が意味するものは深刻だ。特別会計は、補助金、出資金、交付金、補給金などの形で、傘下の特殊法人、認可法人、公益法人に対して多額の国費を投入しているからである。77ある特殊法人の中には、既に破綻の危機が表面化している本州四国連絡橋公団、石油公団、年金資金運用基金などもある。経営破綻が一挙に表面化する可能性のある日本道路公団も含まれる。これらの特殊法人が破綻すれば、特別会計に大穴を開け、国は旧国鉄清算事業団に対して行ったように「国民の負担」で債務超過の穴を埋めなければならなくなる。
 したがって、2001年度予算(歳出ベース)で約310兆円と一般会計(約83兆円)の4倍近い規模の特別会計の赤字は、公的部門の不良債権であり、資金投入先の特殊法人などが破綻すればたちまち「国民のカネ」が焦げ付く。
 だが、巨大なカネが特定財源によって集められ、運用される「特別会計」の実態を、これまで国民はほとんど知らされなかった。この「官」の“特別ポケット会計”に、国会議員らが関心を持たず、実態をできれば隠しておきたい「官」と歩調を合わせて議会で取り上げないできた。筆者の記憶では、マスコミも「政」同様に不作為の罪を犯し、特別会計に関する体系的な報道を行った事実は、最近まで一度もなかったように思う。
 この特別会計の聖域に、小泉内閣が歴代内閣で初めて踏み込むのである。しかも自民党族議員が既得権益を手にしつつ建設官僚、業者と結んだ高速道路づくりの原資となる特定財源中最大の「道路特定財源」をまず見直し、一般財源化を検討する、というのだ。

特殊・認可・公益3法人に予算配分

「道路特定財源」と「道路整備特別会計」、その実働部隊である高速道路づくりの特殊法人「日本道路公団」の隠されてきた問題については追って述べることとし、その前に「労働保険特別会計」の財務資料からわかった“興味深い事実”を明らかにしよう。
 同特会には「雇用勘定」と「労災勘定」の二つがあり、失業手当や労災保険などの保険給付を賄うほか労働福祉施設や労災病院にも事業資金を供給する。この労働保険特別会計(厚生労働省所管)は、先に見たように赤字額が1兆5000億円を上回るワースト2の特会だが、雇用や労災、労働環境などにかかわるだけに国民生活に影響が大きく、予算も巨額だ。
 民主党の仙谷由人衆院議員が厚生労働省から得た資料によれば、同特会の雇用勘定の2000年度法人別予算は総額3851億300万円。このうち「雇用・能力開発機構」など特殊法人3法人が72%の2782億9900万円、「日本障害者雇用促進協会」など認可法人2法人が4%近い145億3000万円、公益法人28法人が24%の922億7400万円を受け取る。

 一方、労災勘定の2000年度法人別予算では、総額1013億1100万円の予算に対し、公益法人31法人が予算の大半、53%の532億9500万円、「労働福祉事業団」など特殊法人3法人がほぼ35%の349億7800万円、「中央労働災害防止協会」など認可法人3法人が13%の130億3800万円割り振られる。
 ここから、二つの興味深い事実が浮かび上がる。一つは、特会の事業を実施する主体は「特殊法人、認可法人、公益法人」の3法人であり、予算割当規模ベースでは特殊法人、公益法人、認可法人の順になっている事実。
 もう一つは、予算を受け取る公益法人の数がやたらと多く、全部で実に59もの公益法人が予算の恩恵に与っていることだ。なかには「勤労者リフレッシュ事業振興財団」や「21世紀職業財団」のように、雇用勘定と労災勘定の双方から資金を手に入れる財団もある。
 これらの法人に、所管官庁の旧労働省から大量のOBが理事長など役員に天下っている。特殊法人の雇用・能力開発機構や労働福祉事業団の役員の大半は、旧労働省からの天下り組が占めるが、民間側の発意により設立されたとされる認可法人も事情は同じだ。中央労働災害防止協会の場合、常勤役員15人のうち理事長・常務理事各1人、常任理事・理事計8人と実に三分の二の10人を旧労働省OBが占める(2001年1月末現在)。ことし1月に空席になるまでは、専務理事ポストも労働省OBが押さえていた。
 公益法人の場合も、所管官庁から理事長など大挙天下りしている実態は、すでにみてきた通りだ。

利権・天下りの重層型聖域

 次第に前面に現れてきた構図がある。特別会計とこれにぶら下がる特殊法人・認可法人・公益法人が「官」の利権と天下りの「重層型聖域」になっていることだ。特別会計は官業の資金供給のポンプ役と経理を担う。財源の目的税などをしっかり確保する一方、社会主義経済のように5カ年計画などの形で拡大計画を策定さえすれば、「官」の聖域はこの上なくうまく働くはずである。
 道路整備特別会計の場合、その「特定財源」はガソリンに課税されるガソリン税、地方道路税、LPG(液化石油ガス)に課税される石油ガス税、車検を受けた自動車に課される自動車重量税などだ。これらの財源により2001年度は約4兆2900億円と特定財源全体の8割の税収を見込み、これらはすべて道路整備事業に使われる算段だった。

 道路特定財源は54年に導入され、74年からガソリン税など主な税目には道路建設費の高騰を理由に、本来の税率より高い「暫定税率」が適用されている。
 他方、道路整備計画は飽和状態に近づいているのに長期不況下で族議員、土建業者の要求に押されて拡張の一途をたどり、現在は5カ年計画(2002年度まで)の4年目。計画は常に「右肩上がり」だから、この計画経済が続く限り、道路整備特別会計と関連3法人は永遠に繁栄するはずであった。
 ところが、橋を架けたり高速道路をつくっても肝心の交通量が見込んでいたように伸びない。本州四国連絡道路のように通行料金収入が不足して、膨らんだ借金の利息も払えない。北海道の道東自動車道路のように日中1.5キロに1台車が走っているくらい(テレビ朝日取材班による実験)しか通行していないケースもある。結局、民間経済の予想を超える長期低迷が、国の特別会計と実働部隊の特殊法人などの収支見込みを根底から狂わせてしまったのだ。
 民間経済の影が長くなる中で、特別会計の土台がいま、急速に蝕まれている。


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