NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第29章 公益法人の「資格」を国が認定
 前回、国家試験を行って技術的な能力水準を「認定」する公益法人を紹介したが、今回はその逆の、公益法人が実施する「資格」などを国が「認定」するケースを取り上げてみよう。ここでは国の行き過ぎた権威付け、"過剰関与"ぶりが明らかになる。

「英検」の波紋

 文部科学省(旧・文部省)所管の財団法人「日本英語検定協会」は、「英検」(実用英語技能検定)の試験実施機関として知られる。
 1961年、社会教育審議会が文部大臣に対し、「青少年および成人に学習目標を与え、意欲を高める意味で技能検定が必要である」旨の答申が出されたことが発端となった。これに呼応する形で、63年4月に当時「豆タン」の発行者で知られた赤尾好夫・旺文社社長が私財を投じて同財団を設立している。翌年に東京オリンピックを控え、国民の間に国際化への熱意がみなぎっていた。設立直後の同年8月には、第一回「英検」1級、2級、3級が全国四九都市で実施され、約3万8000人が受験している。
 現在は副会長などに元文部事務次官が天下っているが、財団の設立当初は役員に文部省OBはいなかった。


 「英検」は「実用英語」(プラクティカル・イングリッシュ)の技能が基本だから、「特に口頭で表現できること」に能力審査の力点が置かれている。このため、発足当初からリスニングテストと面接形式によるスピーキングテスト(1級から3級)を実施し、「読む・書く・聞く・話す」の四技術について測定している。コミュニケーションのできる英語を重視するため、「学校英語」の読み・書き偏重に比べ、遙かにバランスがとれている。例えば「コミュニケーションを積極的に図ろうとする態度」を「アティチュード」として評価する。
 このことが、長い年月にわたって人気を保ち、これまでに5700万人以上の受験者を集め、最近5年間をみても毎年300万人以上を引きつけた理由だ。99年度には受験者が最も多い3級で、最年少で4歳の幼児、最年長で77歳の合格者が出ている。

 「英検」は高度の1級から初級の5級までランクが設けられ、1級と2級の次のレベルに「準1級」「準2級」がある。検定料は1級が5500円、2級が3500円、3級が2000円。年3回実施され、各一次、二次試験を経て、検定の合格者には「合格証書」が交付される。
 一次試験は筆記とリスニング。二次になると、例えば一級は外国人と日本人面接委員各1人がペアで個別に面接し、5つのトピックから1つを選び、2分間のスピーチをし、このあとQ&Aを行う、といった内容だ。こうした実用本位の「検定能力」が評価され、同財団によれば、上場企業は入社試験の際の英語の能力審査で自ら実施するペーパーテストに次いで「英検」などの資格を重視している(95年実施の上場企業100社のアンケート調査結果では、「ペーパーテスト」により英語力を評価が46%、「英検などの資格」で評価が43%、の順)。

文部省が資格を「認定」

 文部省がこの「英検」を「文部省認定の技能検定」と定めたのが、68年2月のことである。大学紛争で揺れたこの年に、文部省は「社会教育上奨励すべきもの」として、「文部省認定」に踏み切った。
 さらに、2000年4月には、それまでの「告示」を根拠にしていた認定を、文部大臣自らが発する「省令」に"格上げ"している。

 この省令は中曽根弘文・文部大臣名で「青少年及び成人の学習活動に係る知識・技能審査事業の認定に関する規則」として定められた。内容は、第一条に「文部大臣は、青少年及び成人の学習意欲を増進し、その知識及び技能の向上に資するため、これらの者が習得した知識等の水準を審査し、証明する事業のうち、民法第三十四条の規定による法人(筆者注、公益法人を指す)その他の団体の行う事業であって、教育上奨励すべきものを認定することができる」とある。
 続いて第二条で、認定を受けようとする法人は「その名称、事務所の所在地、代表者の氏名及び認定を受けようとする技能審査の名称を記載した技能審査認定申請書を文部大臣に提出しなければならない」と義務付けている。申請の様式も別記され、この様式を踏まえて申請するようにと、用紙の大きさ(A4)まで決められている。

 ここに問題がある。公益法人の実施する「資格」などを、国がどうして「認定」する必要があるのか。「資格」の意義と実績を認めるのは関わりのある「市民社会」の側であり、認めれば受験者の増加をもたらして「英検」事業を発展させ、逆ならば事業の衰退を招く。国が直接関与する理由はないはずだが、「英検」のように社会からその意義が広く認められるようになると、国が「認定」に乗り出し、「認定を受けたければ申請するように」といって申請書の所定の様式まで示す。ここには国が民間の「資格」を権威付けるという「お上」の発想と権威主義がある。国がそこまで関与する必要があるのか、明らかに「国の関与」の行き過ぎであり、関与を取り止めるべきであろう。

 しかし、同財団が「文部省認定」を受けた結果、国の権威付けを背に事業に追い風を受けたのは言うまでもない。99年度の事業総収入は73億3000万円、そのうち検定収入がほとんどの71億5000万円を占める。公的資金は受け取っていない。
 役員名簿をみると、理事は11人、監事が2人。常勤は専務理事1人。そのうち副会長・理事の岩間英太郎氏と監事の木田宏氏双方とも元文部事務次官。理事1人も文部省からの天下りだ。

介護労働安定センター

 厚生労働省(旧・労働省)所管の財団法人「介護労働安定センター」は、高齢化社会の到来で需要が高まる介護サービス技能を養成する「講習」を、国の独占的な指定法人として実施する。その中にはホームヘルパーの「資格」を与える「講習」もあり、同法人の支部が四七都道府県知事の認可のもとに「資格」を修了証書の形で交付している。問題は、1. こうした国の優遇措置を受けた官製の「資格」が、民間の介護サービス業者・団体の活動を圧迫したり、ブレーキをかける恐れがある、2. 同財団の常勤役員(4人)、職員(480人)の人件費まで国が面倒みている、つまり「国民の負担」で丸ごと賄われている、ことだ。
 同財団は、労働省所管の公益法人として92年4月に設立された。同年7月に施行された「介護労働者の雇用管理の改善に関する法律」をにらんで、介護労働者の支援機関として立ち上げる狙いからである。出生以前に「労働省の現業部門」と運命付けられていたわけだ。これでは実質的に「政府の子会社」であって、「民間法人」とはいえない。

 こういう生い立ちだから、同法に基づく労働大臣の指定法人として、同法が改正施行された2000年4月以降、介護保険制度の開始などに伴い同財団の事業範囲は急拡大し、介護全般に及んでいったのも自然の成り行きだった。すなわち、「介護人材の確保」「介護雇用管理」の各助成金と「介護能力開発給付金」、「介護雇用環境整備奨励金」の四種からなる介護雇用創出助成金制度の実施、さらにホームヘルパーの講習を含む介護サービスの教育訓練などの大規模な実施が推進されるようになる。
 同財団のホームヘルパー養成制度は93年から失業者やケア・ワーカーを対象に実施され、即戦力になることから事業主が求める2級と3級の「資格」を与えられる。例えば、東京で養成講習を130時間受講した人は「2級課程として東京都知事が指定した講習を終了したことを証します」という文面の修了証書を同財団から貰える。試験はなく、一定期間受講すれば、「資格」が得られる。受講は無料。2級が「130時間」なのに対し、3級は「50時間以上」講習を受ければよい。

 さらに、ホームヘルパー養成制度とは別に、「介護支援専門員」の養成を目指す実務研修もある(受講時間30時間以内)。99年度はホームヘルパー2級の「資格」を約1万1600人が、3級を約7900人が取得している。
 介護サービスは従来、主に家政婦紹介所のケア・ワーカーが行ってきたが、ケア・ワーカーの就業の安定化や、家政婦紹介所の在宅介護サービス請負事業への転換支援なども推進する。その意味で、介護サービスを受ける側にとって頼もしい存在に違いないが、官業として国民の税金を原資に活動するからには、事業財務内容の情報公開、とりわけ政府交付金の使途についての透明性が欠かせない。その意味で、透明性の高い「独立行政法人」への脱皮をまず考えるべきであろう。

常勤役員の四分の三が天下り

 改正法の施行に伴い、2000年度から介護労働者を雇ったり、雇用者の労働環境を改善する(仮眠所の設置など)ような場合、各種助成金が出される。介護サービス労働者の雇用創出を図る狙いからだが、この助成金制度により同財団は2000年度に政府交付金を前年度実績比66%増の100億9600万円受け取ることになり、2001年度には135億2600万円に急増する(計画ベース)。
 99年度の収支状況をみると、収入計66億5700万円のうち、政府交付金など国からの収入が91%の60億8700万円。森俊男・専務理事がいみじくも言うように「ほとんどが国の事業で、全体の予算が労働省の監督下にある」。この国庫収入から、先のホームヘルパーなどの養成に向けた講習、研修のほか、役員や職員の給与、インストラクターの給与も賄われる。

 自前の収入は講師のテキストの販売(2億4400万円)や福祉共済掛金収入(3億700万円)など、ごく一部にすぎない。つまり、事業は事実上、「国にオンブにダッコ」なのである。
 役員体制は、会長1人、理事が11人、監事が2人。うち常勤役員は理事長、専務理事、常務理事、監事各1人の計4人。この中で、岡山茂・理事長が元労働省の大臣官房審議官→職業安定局次長→特殊法人・雇用促進事業団理事→介護労働安定センター理事長の"渡り鳥"コース。森専務理事は労働省労働事務官として東京都職業安定部長職に就き、都知事の指揮下に入ったあと同財団に天下った。常勤監事の斎藤五朗氏も元長野労働基準局長と、常勤役員4人のうち3人が労働省出身だ。
 こうした「労働省の聖域」とあって、同省が決める役員の待遇は経営が「お国任せ」で自助努力を要しないにもかかわらず、手厚い。理事長の年収が1900万円、専務理事が1800万円、常務理事1500万円、監事1500万円と「高原型」体系となっている。


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