■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第215章 統一教会の罪と罰 / カルトの正体
(2022年11月28日)

3つの切り口で教団解散狙う

安倍元首相の銃撃死から4カ月余。燃え上がった旧統一教会問題に、危機感を深めた岸田政権がようやく法的対応に本気になった。教団の自民党政権への浸透、霊感商法被害の相次ぐ表面化で国民の支持率が急降下、これがもたつく岸田首相の背を押した。

法的切り口は3つから成る。この切り口で教団を解散などに追い込む狙いだ。苦境を打開のため河野太郎・消費者担当相が「遣唐使(検討氏)」とも揶揄される岸田首相をせっ突いた。
切り口の1つは、宗教法人法だ。不法行為の疑いのある宗教法人に対し所轄する文部科学相または都道府県知事が報告を求めたり、「質問権」を行使して実態を調査できる。永岡桂子文科相は11月11日、質問権を行使し、教団に対し調査を始めると表明した。
裁判所は法令に違反して公共の福祉に著しく反する行為を認めれば、所轄庁や利害関係者からの請求に基づき宗教法人の解散を命じることができる。これまでにオウム真理教と、「霊視商法」で詐欺を働いた明覚寺の2件が解散を命じられた。

切り口の2つめは、現行の消費者契約法の見直しだ。契約の取り消し期間を大幅に延長し、不安を感じた親族も取り消せるようになる、などを定める。 被害者救済に向け立憲民主党と日本維新の会は、不当な高額寄付などの被害を防ぐ新法を目指すが、与党の自・公明の反応は鈍かった。 政府は野党の攻勢を受け、急ぎ被害者救済に向けた政府法案をまとめ、発表した。
河野消費者担当相が着任2日後の8月に立ち上げた有識者検討会は、会合を7回重ね、10月17日に報告書を発表。これが政府を動かす。有識者検討会の8人の委員の中には、旧統一教会の霊感商法対策に取り組んできた紀藤正樹弁護士や菅野志桜里弁護士らが含まれる。菅野弁護士は、元検察官で元衆院議員。対応にもたつく自民党を見て、検討会で政府が宗教団体への質問権を行使して調査すべき、と主張し、実現につなげた。

カルト規制法を作れ

3つめは、民法の不法行為だ。首相は、政府が裁判所に解散命令を請求する要件に「民法の不法行為も入り得る」とした。前日の答弁では刑法違反ケースのみを対象としたが、批判を受け答弁を変更した。これで刑事上の有罪判決まで待たずに済み、解散命令を出しやすくなる。会社法により公益に著しく反したとして教団の関連会社・団体に対しても解散を命じられるようにもなった。
これら3つの切り口で、問題解決への道がひとまず開かれたかに見える。だが、3分野からの個別追及では、教団の特異な問題に十分、対処できそうにない。紀藤弁護士によると、統一教会の脱法行為には、日本法の適用が困難なケースがある。信者に韓国の統一教会(活動実態が変わらないため以下、「旧」を略)本部に献金をさせる、とか直接お金を持っていかせるようなケースだ。韓国ソウル郊外にある教団修練所には、千人規模の日本人信者が送り込まれ、献金させられていた、とされる。国境を越えた大がかりな脱法事件でもある。調査が壁にぶつかって時間を費やしたり、日本の法の網から漏れやすい。
既存の法令で個々に判定するには、ムリがあるのではないか。ポイントは、統一教会を「宗教団体を装ったカルト団体」とみるかどうか、である。カルト団体なら別の新法を作って包括的に判定すべき、とも考えられる。

「カルト(cult)」の意味は、本来、「宗教的な崇拝」とか「憧れ」「礼賛」だったが、「宗教による病気の治癒」、「邪教」、「伝統的な宗教に対する新宗教運動」という意味が、のちに加わったとされる。しかし、1978年に米サンフランシスコを中心に発展した「人民寺院」の信者900人以上が移住先の南米ガイアナで集団自決した事件で、カルト問題が一気に脚光を浴びる。信者はカルトの教祖の「詐欺行為」による犠牲者だったとみなされた。
フランスでは、2001年、社会問題化したカルト活動に対し反セクト(カルト団体)法が成立、統一教会もカルトの1つに挙げられ、活動が禁止された。同法はカルト団体に10の基準を設け、これが教団に適用された。その中には「法外な金銭要求」「元の生活からの意図的引き離し」「子供の強制的入信」「通常の経済流通経路からの逸脱(高額物品販売など)」「公権力への浸透の企て」もある(図表)。
「社会調査支援機構チキラボ」が11月に公表した「宗教2世」の意識調査で、1131件の回答者のうち67.3%が「カルト団体について定義し、規制するための法律作り」を希望していることが判明した。

(図表)
出所)仏反セクト法

仏サイエントロジー事件裁判

ここでクローズアップ必至の問題が、憲法で保障された「信教の自由」との兼ね合いだ。個人の自由意思に基づく信教の自由を否定するものであってはならない。教団の活動内容が、詐欺や脅しなど法を逸脱していないか、行為が問われるべきだ。
示唆に富む先例がある。フランス・リヨンで起きたサイエントロジー教団絡みの投身自殺事件。死んだ夫の妻が訴えた裁判で、地元の教団所長ら23人が「意図しない殺人」などで有罪判決が確定した。所長は「銀行からカネを借り入れてピュリフィケーション(浄化)しなさい」と迫ったとされる。注目されたのは、最高裁が控訴審を批判した1999年6月の判決内容だ。控訴審が「サイエントロジーは宗教という名称を主張することができる」と判定したのに対し最高裁は「裁判所に、ある団体が宗教か否かを判断する権限はない」と明言したのだ。裁判所は宗教性を判定する権限は持たない、人権侵害など不法行為の有無を問うべき、としたのである。

「宗教哲学」とも「カルト」とも「ビジネス」とも言われるサイエントロジーは、その多様な活動で物議をかもしてきた。フランスでは「カルト」、ドイツでは「営利団体」と扱われる一方、米国では「宗教団体」だ。2001年9月の米同時多発テロ。その救助隊に提供した支援プログラムが、打ちひしがれた隊員の精神的肉体的立ち直りに貢献したとして、ニューヨーク市警察や消防局から公式に表彰された。 これには米俳優のトム・クルーズ(写真1)が、サイエントロジーのナンバー2としてプログラム普及を宣伝し、後押ししている。トム・クルーズは創始者のロン・ハバードの著作に感銘、1990年から教団活動にのめり込んだ。 その自己啓発プログラムには、大量のビタミン摂取の勧めもあり、肝臓障害の多発などが報告される一方、目を瞠る健康改善効果も確認された。サイエントロジーは、「人間は不滅の霊的存在で、無数の過去世を持つ」と教える、とされる。

サイエントロジーの評価分かれは、その国・地域の教団活動への評価が時にさまざまで、正反対にもなりうることを示している。自己啓発や能力アップ、健康改善などのプログラムはそれ自体、好ましく積極的な価値を生み出すが、これをエサに入信を勧誘しひと儲けする詐欺や強要行為が問題なのである。
騙し商法は、先端のストレス対応分野にも忍び寄る。たとえば「マインドフルネス(Mindfulness)」。1979年にジョン・カバット・ジンが、米マサチューセッツ大学医学部にストレス低減プログラムとして創始した。 瞑想とヨガを基本とした新しい精神療法で、不安障害、感情障害、摂食障害、心身症などが対象となる。ジンは鈴木大拙のZen(禅)に影響を受け、仏教を精神科学として医療に取り入れた。マインドフルネスの語義は「心の集中」で、「いまに生きる」ことを実感するトレーニングを行う。これにより心の静かさを得て、セルフコントロールが可能になる、とする。2000年代に入って、米国などで脚光を浴びるようになり、2016年にはNHKがストレス対処技法として特集報道した。
しかし、オウム真理教はヨガ教室を隠れみのに信者集め、騙し商法に走った。先端を行くマインドフルネスでも、これを看板にした信者集め・詐欺行為もありうる。

宗教団体の評価は、その実際の行為によって是と非に分かれるのだ。統一教会の場合、韓国では「よし」とされるが、日本での行為はどうなのか。
日本では統一教会の霊感商法に対し悪質性・組織性・継続性を認定した有罪判決が既に出されている。 東京地裁は2009年、統一教会の関連会社で印鑑販売を行う「新世」社長に対し、特定商取引法違反で懲役2年、執行猶予4年、罰金300万円を言い渡した。霊感商法関係者への初の懲役刑判決だ。
統一教会の目を引く手口を見てみよう。

カルトの隠語 「ギンカンポ・アパキンジョ」

脱会した信者の証言でその実態が次々に明らかになるにつれ、驚かされたのは「マインドコントロール」の凄さだ。
マインドコントロールの手法は、まず悩みを持つ者に接近して頼もしい安心感を与える。引き入れると、恐怖感を植え付ける。「悪霊を払う」、「脱会すれば地獄行き」などと脅かす。
とくに大学生や社会人になりたての若い頃は、多くが自信をなくして悩む。憂うつで億劫になり、身だしなみを気にしなくなることもある。生き生きとした感情を失うと、眼差しや身ぶり、動作から、落ち込んだ感情が他者にも伝わって来る。 そういう若者の状態を見て、教団の“工作員”が身元を隠して優しげに近づき、入信への勧誘が始まる。

教団側にとって、最初の関門は信者をいかに増やすかだ。東京に住む50代半ばの主婦から、およそ30年前に統一教会から受けた霊感商法の体験談を聞いた。それによると―
銀行に勤めていた1990年代はじめ、職場仲間に勧められて参加した自己啓発セミナーがきっかけだった。スタッフに悩みごとを相談するうちに、正体を隠していた統一教会の罠にはまる。 ある晩、相談先の事務所で数人の男に取り囲まれ、悩みをなくすには、壺を30万円で買えと迫られた。「そんなお金ない」、「いくらなら出せるか」と押し問答の末、「印鑑を5万円なら買う」と応じる。「帰れないかもしれない」という恐怖で震えたという。

統一教会は、資金集めのため霊感商法で印鑑、数珠、壺、多宝塔などを1970年頃から高額で売りつけてきた。その人の資力に合わせ、多宝塔を540万円で売った例もある。 全国霊感商法対策弁護士連絡会が、被害相談事例から集計した統一教会による被害は2013年までの27年間に3万3376件、被害総額は1156億円に上る。泣き寝入りを入れると、被害は氷山の一角だ。 同連絡会の山口広弁護士らによると、大理石の壺の場合、韓国の統一教会信者が運営している「一信石材」という会社が製造し、これを日本の統一教会の系列会社「ハッピーワールド」が輸入、全国に8社ある「世界のしあわせ社」(現在は社名を変更)に卸し、信者が販売していた。早くから韓国と日本の間に霊感商法のサプライチェーンを築いていたのだ。
統一教会には「銀看保アパ勤女(ギンカンポ・アパキンジョ)」という隠語がある。伝道のターゲットを指す。その意味は「銀行員・看護師・保育士・アパートに住む勤労女性」。日々の多忙な勤めに追われ、疲れ果てて帰宅しがちなアパート暮らしの女性たちだ。

カルトの手口 「聖本」1冊3000万円

統一教会の信者取り込み法は組織的だ。「セミナー」とか「カルチャー」、「アカデミー」という名で潜在信者をかき集める。次いで、ビデオセンターでの「深入りコース」に参加させる。 参加費数10万円の2泊3日の「2 Days」受講、「ライフトレーニング」で洗脳を進め、カンヅメ状態で“魂の充足感”を錯覚させる。次に「4 Days(4泊5日)」コースに誘導、「新生トレーニング」、「実践トレーニング」へとプログラムを進め、“真正信者”に仕上げる。 信者は終了時に創始者、文鮮明(写真2)をメシアとして受け入れ、献身することを誓うという。
この上、教団には歌手・桜田淳子も1992年に参加した合同結婚式を行い、見知らぬ韓国人男性と結婚させて文鮮明の手による祝福を受ける特異なシステムもある。「婚姻の自由」を侵害するこの合同結婚式に参加する日本人は「祝福感謝献金」として1人140万円プラス経費30万円支払わされる、とされる。
韓国への歴史的な罪を償うため、日本人女性は韓国人男性に生涯仕えるのがふさわしい式の歪んだ歴史意識を文鮮明が持ち、それが合同結婚式の発想につながったと指摘される。合同結婚の祝福を得るには、「公式7年路程」を実践しなければならない、と教えられる。3年半ずつの「経済活動」と「伝道活動」である。「聖本」とされる『成約時代と理想天国』という文鮮明の本は、贈呈の形をとって1冊3000万円で貢献度の高い信者らに売られた。安倍元首相銃撃の実行犯一家のように土地も売って1億円以上の高額献金をし、家庭崩壊に至ったケースも珍しくない。「異形のカルト」と言うほかない。

これまで明るみに出たカルトの手口は、次のような特徴を持つ。1. 正体を隠し、宗教団体を名乗らずに接近する、2. 勧誘や入信後の動揺に際し恐怖心に訴え怯えさせる、3. 高額の献金、物品購入を要求、4. 教団の代表に絶対的帰依と従属を要求、5. 子どもを強制的に入信させる、6. 関連の会社、団体と連携し、不法な経済活動を行う、7. 家族から切り離し、孤立化させる、8. 家族らの抗議や帰還要求を無視し、ウソをつく、などである。
統一教会の常軌からの法外な逸脱ぶりは、元信者や家族らの証言で既に明らかだ。不法性は既成事実化した。政府・議会は迅速な解決に向け対応を進める必要がある。

(写真1)トム・クルーズ

(写真2)文鮮明

出所)Tom Cruise Instagram

出所)世界統一平和家庭連合(旧統一教会)ウェブサイト