■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第194章 国家権力 vs 巨大IT権力の戦い始まる/GAFAに脅やかされる国家

(2021年1月14日)

米巨大IT企業GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の市場寡占に対し、欧州に続き米国の規制当局が次々に反トラスト法(独占禁止法)で提訴に踏み切った。 一連の流れは、デジタル技術を駆使して集めた個人データを基にプラットフォーム(ネット交流サイトのSNSなどIT基盤)を握り、市場支配する巨大IT企業のパワーに国家が脅威を受け、対抗を余儀なくされた構図を示す。 そこには、世界的なデジタル経済権力 vs 国家権力の新たな戦いが浮かび上がる。

米当局も相次ぎ狙い打ち

12月、米連邦取引委員会(FTC)と48州の司法長官が、フェイスブック(FB)を写真共有アプリ「インスタグラム」の買収などに関し「競争を制限し支配的な地位を築いた」として提訴。直後にテキサスなど10州の司法長官がグーグルの広告事業を、コロラドなど38州・地域の司法長官が同社の検索事業を問題視してそれぞれ反トラスト訴訟を起こし、事業分離などを求めた。 反トラスト法はカルテルなど独占や取引制限による市場への悪影響を防止するため、1890年に米国で制定されたシャーマン法が起源。その後、クレイトン法、FTC法などが加わり強化された複数の独禁法を指す。 米国で当局のIT大手提訴は、1998年のマイクロソフト以来だ。
米当局に続いて欧州連合(EU)が、GAFAを念頭に従来の制裁金を科す事後規制に代え、プラットフォーマー(事業者)に対し自社サイトでの自社サービスの優遇を禁止するなど、予め禁止事項を定める「事前規制」に踏み込むと発表した。違反した場合は、世界の売上高の最大6%の罰金を科し、事業分離も可能になる。

この後、中国当局もネット最大手、アリババ集団を独禁法違反の疑いで捜査に着手した。デジタル大国を目指し、ネット企業の急成長を後押ししてきた中国政府だが、一転してネット通販で5割超のシェアを握るアリババにメスを加えた形だ。
アリババによる取引先への圧力は、様々に問題化していたものの、本当の理由は政府の言いなりにならない創業者の馬雲(ジャック・マー)を当局が懲らしめた、ともいわれる。11月には、史上最大規模の資金調達が見込まれたアリババ傘下のアントグループによるIPO(新規株式公開)が、直前に突然の延期となったのも、馬雲の反政府的な発言に習が激怒したため、との情報が出回った。
今や中国の共産党政権も力を付けすぎたネット大手に対し警戒を強めているかに見える。日本の公正取引委員会も、GAFAなどの個人情報の不当な利用に厳しい姿勢で臨む方針を表明している。

国家権力を脅やかす

世界の株式時価総額のランキングトップ10をGAFAと米マイクロソフト、中国のアリババ、テンセントでほぼ独占している。デジタル市場の「勝者総取り」式ビジネスモデルの最強の勝者たちによる不公正取引に、各国の政治リーダーや規制当局が揃って危機感を共有し、強力な対策を打ちだしたのだ。
このことは、経済・社会における重要な変化を意味する。巨大IT企業が国家権力を脅かすほどパワフルになったのだ。その理由の一つは、スマートフォン(スマホ)の利用者(消費者である市民)が2010年代に入って世界的に激増し、スマホがもはや日常の携帯ツールになってしまったからだ。FBの世界の月間利用者数は傘下のアプリを加えると32億人を超える。今やスマホの情報で人々は判断したり行動するようになる一方、その弊害もまた目立って増え、政治的解決を迫られてきたのである。
弊害とは、16年の米大統領選でのロシア発信と疑われる、SNSを通じた米国内世論の操作、トランプ米大統領のたび重なるツイッターでのフェイク情報発信などだ。民主主義の根幹が揺るがされるとの懸念が強まった。

スマホの影響力拡大に加え、国家権力を脅かすもう一つの真因は、プラットフォーマーが蓄えた超巨大な経済パワーだ。株式時価総額が計5兆ドル(約520兆円)を超えるGAFA。これにマイクロソフト社を加えた5社で東京市場の全上場会社の株式時価総額をすでに上回る。
米議会下院は20年に発表した報告書で、米国人の85%がIT大手による個人データの収集を懸念している、と明らかにした。IT大手は各分野で無料サービスを手法にビッグデータを収集し、巨額の利益を稼ぎ出してきた。ごく少数の寡占大手による個人情報と富の独り占めだ。 しかもその従業員数は、かつての産業大手に比べ「雇用は切り捨て」式にごく少なく抑えられる。FBグループが雇う人員の数は、倒産したかつてのアナログ写真の雄、コダックの10分の1以下だ。
相次ぐGAFA規制の背景に、こうした歴史的な新事情がある。