■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第128章 迷走民主党政権/首相決断で海図示せ

(2010年1月25日)

民主党政権と検察権力とが一時、全面対決の様相を見せた。小沢一郎幹事長は16日、東京地検特捜部が自らの資金管理団体「陸山会」を巡る政治資金規正法違反容疑事件で強制捜査したことに対し、「断固として戦っていく決意だ」と語り、検察との戦いを宣言。これに呼応して鳩山由紀夫首相も「戦ってください」と小沢氏に伝えたからだ。
しかし、軽はずみなこの首相発言は翌日、修正を余儀なくされる。「幹事長続投を認めたという意味で言った」と。

小沢氏の元秘書らの逮捕直後の世論調査によると、内閣支持率は共同通信と朝日新聞で42%、読売新聞で45%(共に小数点以下四捨五入)などと急落した。鳩山内閣が小沢氏と「一蓮托生」で浮沈を共にすれば、沈没は避けられないことは明らかだ。
ここで内閣と民主党は、国民の支持の回復に向け、根本から立て直しを図らなければならない。せっかくの期待された政権交代を短命で終わらせないために、正念場の対応が求められる。重要なのは、検察捜査という「ピンチ」を、むしろ“小沢外し”の「チャンス」に変えることではないか。暗転した状況を一挙に逆転するには、打って出るしかない。

ここで、民主党政権4カ月余りの足跡を振り返ってみよう。官僚主導政治の象徴だった事務次官会議の廃止や、予算査定の新手法「事業仕分け」のようなたしかな前進はあった。が、半面、大蔵(現・財務)事務次官OBを活用した郵政3事業の「民から官へ」の逆走、普天間基地を巡る鳩山内閣の迷走、といった後退も著しかった。全体として、揺れる「場当たり対応」の印象は否めない。
政権が「行きつ戻りつ」する不安定さの要因に、まずは鳩山首相の優柔不断の性格が挙げられる。首相は先送りを繰り返し、たちまち朝令暮改して発言を変える。

もう一つ、政権に不安定さをもたらしている要因が、内閣外にいて党内の実権を握り、内閣ににらみを利かせる小沢幹事長と、政権が依存する財務省の影響力である。
「政治主導」、「脱官僚」を謳いながら、力不足で幹事長頼りと財務省依存から脱け出せないのだ。内閣の中枢は、これに対し“武装解除”されているか、それに近い状況にみえる。
この結果、政権は海図を持たずに大海原を航海しているような様相なのである。そこに見えるのは「主体の危機」だ。自民党政治では「官僚主導」で暗礁に乗り上げた。民主党政治では「主体の危機」が日本丸を揺さぶる。安全保障の柱、日米同盟まできしませた。

ここで起死回生を図らなければ、内閣は支持をさらに失い、窮地に立たされるのは間違いない。マニフェストを洗い直し、より現実的な「第2のマニフェスト」を打ち出すことが重要だ。「政権100日間の混乱期」は過ぎた。この際、先のマニフェストと財源、日米関係などを閣僚委員会でしっかり総括して再出発を図ることである。これにより、国民の高支持を取り戻すことは、十分可能だ。そして、そのためには次の手順を踏む必要があろう。
それは明確な「方針表明」と「方法論」だ。むろん、方針表明は政権がもくろむグランドデザイン、工程表と絡めて行う。
まず、持っていくべき「この国の全体像」を国民に示す。次に改良版の「第2のマニフェスト」を国民に問い、実現に向けて財源と手法とを掲げる。
出発点は、鳩山首相の毅然とした「方針表明」だ。主要な政策に期限を自ら設け、この期限までにやり遂げる旨、国民の前に誓うことが欠かせない。そうやって自分自身を断崖絶壁に立たせ、のっぴきならない状況に追い込む―。
これは受験生が志望校に「絶対に入ってみせる」と広言するのと同じだ。決意を鈍らせないために、このように公然と自らの退路を断つ必要がある。もしもこの誓いが守れなかった場合には、首相は潔く辞める覚悟を、他言はせずに内心、固めておくことだ。

次に「第2のマニフェスト」のプログラムとその実現に向けた財源、方法論については、広く「参謀」を集め、国民目線の骨格を作り上げるべきだろう。スーパーコンピューターの予算をどう付けるかに関しては、事業仕分け人がコスト面からその場で即断してはならない。「世界一が必要か、二番目ではダメなのか」は、国家戦略室が国の成長戦略として予め熟慮し、決めておく必要がある。
首相の決意の下、このような政策手順を実行することで、民主党政権はようやく海図を手に入れ、落ち着いて航海の途につけるだろう。海図がなければ、ジグザグの不安定航行は避けられない。(山形新聞1月20日夕刊掲載)