■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第111章 「抜け道高速」延長712キロに /“隠れ工法”で整備推進

(2008年4月23日)

  国土交通省が、高速道路建設の「ゴーサイン」を出す国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議)を経ずにつくれる「抜け道高速」で高速道路建設を進める実態が、筆者が独自に入手した同省道路局の内部資料から明らかになった。「抜け道高速」とは、同省が「A’(エーダッシュ)路線」と呼ぶ、高速自動車国道に並行する国道自動車専用バイパス。この「A’路線」を完成後、国幹会議に諮って高速道路に編入する手法も実施されている。国交省の裁量で意のままに着工できるため、高速道路整備の「隠れ工法」ともいえる。

“隠れ高速”として建設

  国交省道路局道路経済調査室によると、「抜け道高速」はことし3月末現在、全国53箇所で建設・供用(開通)され、その総延長は711.8キロに及ぶ。このほか、建設後、一般国道286号笹谷トンネル(宮城県と山形県の県境、全長上り3.4キロ、下り3.3キロ)、一般国道42号海南湯浅道路(和歌山県、全長11.1キロ)の2区間が高速自動車国道に編入されている。
 同省は、笹谷トンネルの場合、1991年までにトンネルの両側が高速道として開通したのに伴い4車線化への改修を決め、98年に高速道(山形自動車道)に編入した、と説明する。また海南湯浅道路については、1987年の国土開発幹線自動車建設法改正で整備される高速道と並行することとなったため、4車線化を行って2005年に高速道(阪和自動車道)に編入したという。
  このように、高速道の整備を補完する形で「抜け道高速」をつくり、一部を4車線化して高速道に“格上げ”してきたわけだ。目下、建設中の北海道横断自動車道網走線とつながる北見バイパスなども、「抜け道高速」として完成後、高速道に組み込まれる方向だ(朝日新聞2月22日付)。
  しかし、仮に「抜け道高速」が高速道に編入されないとしても、その多くは一般有料道路などとして高速走行のできる「高規格幹線道路」であることに変わりはない。つまり、国交省は国民の税金から成る道路特定財源(国税・地方税合わせ総額計5.4兆円=08年度予算)を元手に、自らの判断で「抜け道高速」を“隠れ高速”としてつくっていけば、事実上、高速道路整備を推進できるわけだ。

過大な計画交通量

  国交省は3月末、「抜け道高速」について、着工前に国交相の諮問機関である社会資本整備審議会に諮る、と発表した。批判の高まりを封じる狙いとみられるが、同審議会は国交相がメンバーを任命し、国交省主導で運営されているだけに、チェック機能が働くかどうか疑わしい。  「抜け道高速」がこのように、国交省の高速道路整備の格好のツールとなっているばかりでない。「費用対便益」、つまり国民負担の観点からも、問題だ。
  2008年度から10年間で59兆円を投じる政府の道路整備中期計画。その根拠となる交通量予測が、2005年実施の最新調査結果でなく、交通量が多く事業費が膨らむ1999年の調査結果を用いていたことが、先の国会で判明した。05年の調査だと、2020年の交通量予測は99年調査より8.2%も少なくなり、事業費も縮小する。事業規模を正当化するために、故意に古い統計を使った疑いが濃厚だ。
  国交省資料によれば、「抜け道高速」の場合も、将来の交通量が過大に見積もられている。2030年もしくは2020年の計画交通量に対し、ほとんどの実績交通量が大きく下回る。実施が計画を顕著に上回った唯一の例外は、近畿自動車道に並行するバイパスくらいだ。
  低い利用率にもかかわらず、「抜け道高速」づくりにかかった費用は、道路特定財源の08年度規模の6割強にも上る。これまでの国の整備区間に対し総額2兆7431億円の税金が投入され、公団民営化で発足した東日本・中日本・西日本高速会社3社による整備区間内支出額6587億円を加えると、総額3兆4018億円もの費用が支出されている。1キロ当たりの整備コストは、約48億円と、一般国道なのに高速道路並みに費用がかかっているのだ。国民負担の割に利用率は低く、「抜け道高速」の費用便益効果は小さい、といえる。

整備に歯止め掛からず

  「小泉政権が決めた高速道路(国幹道)整備計画9342キロを超えて、国交省はどんどん着工を進めている。歯止めが掛からない。(一部区間が整備計画9342キロに入っていない)第二東名がいい例だ。このまま果てしなく税金投入が続いてもいいのか」。東日本高速道路会社のある幹部は、筆者にこう語った。
 高速道路網整備は、1987年に第4次全国総合開発計画(4全総)で、国幹道総延長11520キロの建設が閣議決定されたのが発端である。うち、施行命令済みが9342キロ。小泉政権は、その大部分の8300キロ相当を道路公団民営化6社(東日本・中日本・西日本高速道路3社と首都高速、阪神高速、本州四国連絡橋)が担い、1000キロ強を国と地方が「新直轄道路」として整備する段取りを決めた。
 ところが、総延長11520キロから既定の9342キロを引いた残りの約2200キロの施行主体は未定のまま。この「空白」を埋めるべく工事を進めているのが「抜け道高速」のA’路線だ。

  国交省は「A’路線」が緊急対応型で、建設を計画的に行っているわけではない、という。今後の建設計画をたずねた筆者の質問に対し、「もともと渋滞対策や防災対策などの課題に緊急対応する観点から、自動車専用道路として整備した。したがって、個々の箇所の計画策定・事業実施は、厳格な事業採択時の評価と毎年度の予算査定を経て決まるもので、予め今後の計画箇所が決まっているものではない」と文書で回答した。
 だが、現実には、先の供用済みの約712キロと合わせ、1000キロ程度は整備を進めている模様だ。そうなると、高速道路を補完する延長2300キロの「地域高規格道路」(準高速道)と共に、国交省の裁量で自動車専用道路網が限りなく拡張され、制御不能となる恐れがある。

「A’路線」の二重の効用

  A’路線の効用は、しかし、単なる高速道路整備の推進にとどまらない。もう一つ、道路公団民営化で2005年10月に発足した独立行政法人の日本高速道路保有・債務返済機構が旧公団から引き継いだ約40兆円にも上る債務返済を45年間に計画通り行えるよう、手助けしている事実を見逃してはならない。
  筆者は、同機構に処理が委ねられた巨額の借金返済は、金利の高騰など想定外の異変が起こらない限り、「計画通り行われる公算が大きい」とみる。
  その最大の理由は、A’路線は国が建設し、会社側は建設に一部しか関与しないため、建設に伴う借金の負担も小さいからだ。しかも、完成後、会社が管理する高速道路に編入されれば交通量はかさ上げされ、会社の収入増につながる。高速道路会社にとってA’路線の整備はまことに「吉報」に違いないのだ。
  国交省はこのように、A’路線を自らの判断で建設して高速道路に組み込むことで、高速道路の整備推進と機構の借金返済を波乱なく進めるという一石二鳥の利を得ることができるのだ。

40兆円の借金返済のカラクリ

  ここで、視野を機構の借金返済問題に広げて、返済の可能性について考察してみよう。先述したA’路線の高速道路編入による高速道路会社の「借金なき建設」のカラクリに加え、さらに返済を容易にする2つのカラクリがあることが分かる。
  その存在を知るために、まずは債務返済計画と実績とを対比してみよう。機構の06年度期初の未償還残高は、計画の28兆2882億円に対し、実績が28兆2626億円。返済計画ベースよりも256億円相当前倒しで進んだ計算だ。
 その理由として、機構は低金利の資金調達に伴う支払利息の減少や高速会社の料金収入増に伴う道路リース料の増大などと並んで、会社側からの引き受け債務の減少を挙げる。なかでも引き受け債務が計画よりも1604億円超も少なかったことが、未償還残高の減少に貢献した。

 機構によれば、その大きな要因の1つに圏央道(八王子〜あきる野)の完成時期の見直し(06年→07年)がある。これを言いかえれば、機構が高速道路の供用後に会社からの道路資産と共に引き受ける債務の引き受け時期を計画より遅らせることで、外見上は償還状況を改善できるわけだ。
 このように、大型債務の引き受けを先送りすれば、当年度償還計画をつつがなく消化しているようにみせることも可能となる。会計処理上は、会社の「仕掛道路資産」(建設中の道路資産)を期末に大きめに調整し、会社からの機構の道路資産・債務の引き受けを次年度に先送りする形をとれば、償還計画は好調に進んでいるようにみえる。
 事実、東日本・中日本・西日本高速道路3社合計で民営化開始時(05年10月1日)に4428億円だった仕掛道路資産は、06年度末には1兆773億円に増えている。機構は「債務返済は予想以上に進んでいる」というが、会社からの債務の引き受けを遅らせて数字をよく見せかけている疑いはぬぐえない。

 さらに、債務返済計画が45年で予定通り消化できるようにする「3つめのカラクリ」がある。法律(「機構法」)によって、工事に要する費用絡みの債務の機構による「引き受け限度額」が決められ、一定以上の債務引き受けをしないで済む仕組みになっていることだ。つまり、会社が大型債務を機構に引き渡したくても、決められた限度を超えてできないワクがはめられているのである。これによって、機構の債務が想定以上に膨らむことはない。
 こうしてみると、国交省は国の公共事業費の約8割を采配する官庁として、とりわけその最大事業の高速道路整備を支障なく推進すべく、さまざまな仕組みや仕掛けを工作してきたことが分かる。国幹会議に諮らずに建設を決められる脱法型の「抜け道高速」は、その“傑作”の一つだろう。
 だが、ねじれ国会による与野党対決が、これまで隠されていた国交省の手法を、いっぺんに白日の下に引き出した。長い間、実態が不明だった国交省の道路整備手法と道路特定財源の使途の透明化が、ようやく正面から問われてきたのである。