NAGURICOM [殴り込む]/東山明
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山明の『気圧の魔』研究会報告
第7章 気圧と酒について その3
「気圧の魔」とは、どういう意味ですか、何か出典があるのでしょうか、という問い合わせがいっこうにないので、こちらから説明します。

 わたしがわたしの悪魔を見たとき、悪魔はきまじめで、徹底的で、深く、荘重であった。それは重力の魔であった。――かれによって、一切の物は落ちる。怒っても殺せないときは、笑えば殺すことができる。さあ、この重力の魔を笑殺しようではないか!

 出典はフリードリッヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラはこう言った』(氷上英廣訳、岩波文庫)です。「すべての書かれたもののなかで、わたしが愛するのは、血で書かれたものだけだ。血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう。他人の血を理解するのは容易にはできない。読書する暇つぶし屋を、わたしは憎む」ではじまる「読むことと書くこと」という章の最後に出てくるのですが、この「重力の魔」からの連想で、我らの一切を押し潰そうとする「気圧の魔」を何とか笑殺したいという思いを込めて命名したものです。
「気圧の魔」は、酒によって笑殺できるのかどうか。だいぶ掲載の間隔があいて、酔いが醒めたでしょうが、当研究会・宴会部長、武井剛氏による「気圧と酒について」のレポートその3を掲載します。こちらは依然として酩酊気味ながら、どうやらテーマは、しだいに笑いへと向かっているようです。

気圧と酒は体に悪いダブルパンチ

 さてさて、前回までの流れの中で気圧とからだ(特に免疫、自律神経)との関わりが見えてきた気がします。では酒との関係はどうでしょうか。酒を飲んだ時というのは、その1で紹介したように、活性酸素の発生を招く状態といえます。

このような状態を回避するには、

1.酒を飲まない

2.活性酸素をださない、または抑える

といった方法が考えられます。
1.は当然却下(できたら苦労はない)となり、2.の方法を採用せざるをえません。
 気圧の影響と酒の影響は、体にとってはダブルパンチともいえます。ただし、気圧の高低が体に影響を与える状態は、気圧が高い状態や低い状態が長時間続くこと(交感神経緊張や副交感神経優位の状態が長時間にわたって続くこと)によって引き起こされるわけですが、その時間は個人差があり、必ずしも高気圧だから、低気圧だからといって、即人体に影響を及ぼすとは限りません。
 気圧の魔を酒によって和らげるというテーマで始めたわけですが。
 気圧と酒がまったく逆の力なら、両方を対峙させることで、中和することができるはずです(多分)。実際には気圧も酒も白血球中の顆粒球を増加させ、活性酸素を多く出させてしまう要因でしかありません。これを上記の2.の方法で考えていくと、気圧は人間の力でくい止めることはできませんので(長寿と呼ばれる地域;気圧の低い地域に移住するということも考えられますが、その地域に住んでいる全員が長寿というわけではないし、個人差や食生活の影響もあるのでいちがいにはいえません。気圧の低いところで生活する時間が長い人、例えば登山家とかヒマラヤの奥地に住んでいるとか、というのもいいのかも知れません;私も沖縄あたりで、泡盛でも飲みながら、ゆったり仕事するなんていうのが夢です!)、だいぶ強引とは思いますが、具体的に次ぎの方法を考えることにします。

(1)気圧の魔、気圧の影響を受けにくい方法を考える。気圧の影響により増大するストレスを抑制または解消する(活性酸素の発生を抑える)ために、笑いやリラックスを用い、酒をその誘導剤として位置づける。

(2)酒自体は飲む量を減らす方向(減らすであって止めるではない)で、活性酸素を抑える方法を考える。活性酸素を抑える酒量の模索と有用な肴等の組み合わせも考える。

酒を飲んだときのからだの状態

 さて、今まで酒についての知識を入れていませんで、ここで少し触れておきましょう。酒自体に関しては、その歴史や味や作り手などにいろいろな思いとかが詰まっていて面白いのですが、体との関係でみる場合は、やはりアルコールが重要な要素といえます。酒を飲んだ場合、アルコールは胃で20%、小腸で80%が吸収され、肝臓でアセトアルデヒドという物質に変わります。アルコールの代謝経路をみると、アルコール(エチルアルコール)は、まずアルコール脱水素酵素(ADH)により、アセトアルデヒドに変り、次にアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により、酢酸、さらに炭酸ガスと水に分解されて体外に排泄されます。
 このアルコールの分解に関与する2つの酵素の処理能力は民族差、個人差(遺伝子の違いによる)があります。アセトアルデヒドは、いわゆる「悪酔い」の主な原因になる物質であり、それを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素は、アルコール代謝上重要な酵素といえます。ALDHは、さらに2種類に分かれ、そのうちALDH2と呼ばれる酵素の欠損率が高いとアセトアルデヒドの分解がすばやく行われないことがわかっています。このALDH2の欠損率は民族差が激しく、日本人、アジア系とくにモンゴル系が高くなっています。ちなみに日本人は44%と世界一酒に弱い民族(全員が弱いという意味ではありません)といわれており、次いで中国人(41%)、韓国人(28%)となっています。ちなみにアフリカ系、ヨーロッパ系は欠損率がほぼゼロといわれています。

 脱線して申し訳ありませんが、「酒は鍛えれば強くなる」という話は本当でしょうか。

 よく、酒は鍛えれば(たくさん飲めば)強くなるといいますが、これはアルコール脱水素酵素の能力が向上することを指しています。向上率は個人が生まれつきもっている処理能力の10%増程度であるといわれていますで、もともと酒が弱い人が飲む回数を増やしたからといって突然酒豪になれるわけではありません(よく下戸の人が酒を何回か口にしているうちに少しは飲めるようになったといわれるのは、ADHの能力が向上したことを指しています)。
 またアルコールの処理で重要なのは、アセトアルデヒド脱水素酵素で、これは生まれつき、一生一定の能力しか与えられていませんので訓練しても能力が向上するものではありません(DNAに支配されています)。飲めないという人に無理やり酒をすすめるのは、殺人幇助に近い修行といえます(もちろん、酒を無理やり勧められるのは問題だから、お酌は断れと言っているのではありません。お酒はコミュニケーションの手段ですから、お互い楽しくなるように、しかも自分の処理能力をわきまえて対応するように)。酒の一番正しい飲み方は、おいしい酒を多種少量ずつ頂くということだと思うのですがいかがでしょうか(余計な話ですが、私の酒に関する座右の銘は「いい酒は若いうちにいろいろ飲もう」です)。
 さて酒を飲んだときのからだの状態に話を戻します。体内でのアルコール分解の経路は以上です。アルコールの分解能力に個人差があることがわかったと思います。
 次に、酒を飲んだときのからだの状態をみるときの重要なものは「血中アルコール濃度」という指標です。「血中アルコール濃度」とは、「酔い」の程度を示すものといえます。「酔う」とは、体内の血中アルコール濃度が上がり、全身にアルコールが回った状態を指します。アルコールの体内(血液中)での濃度は、次の式で計算できます。

最高血中アルコール濃度=アルコールの摂取量÷人体の水分量×100(%)
アルコールの摂取量=飲んだ量×アルコール度数/100×アルコールの比重
人体の水分量=体重×(2/3);人体の水分量は体重の3分の2
アルコールの比重=0.8

 ただし、この式を使う場合には、一定量のお酒を空腹かまたはそれに近い状態で、しかも短時間(30分)で飲んだ場合に限られるという前提条件がつきます。なぜなら、体内のアルコールは一定速度で分解されていくため、一定時間がたつと数字が変化してしまうためです(だから最高という冠がついているわけです)。
 この血中アルコール濃度と酔いの状態の関係をみてみましょう。下表は社団法人アルコール健康医学協会の手引きに記載されている表で、酔いの状態を血中アルコール濃度の範囲で6段階に分類しています。

酔いの種類血中アルコール濃度(%)ビール大びん
(おおよその酒量)
ウイスキー
(おおよその酒量)
日本酒
(おおよその酒量)
酔いの状態
爽快期0.02〜0.04〜1本シングル〜2杯〜1合気分がさわやかになる・皮膚が赤くなる・陽気になる・判断がややにぶる
ほろよい初期0.05〜0.101〜2本シングル2〜5杯1〜2合ほろ酔い気分になる・手の動きが活発になる・抑制がとれる・体温が上昇し、脈が速くなる
ほろよい後期0.11〜0.153本シングル6〜7杯3合気がおおきくなる・大声でがなりたてる・怒りっぽくなる・立てばふらつく
酩酊期0.16〜0.305本ダブル5杯5合千鳥足になる・何度も同じことを繰り返ししゃべる・呼吸が速くなる・吐気や嘔吐が起こる
泥酔期0.31〜0.407〜10本ボトル1本7合〜1升まともに立てない・意識が混濁してくる・言葉が支離滅裂になる
昏睡期0.41〜0.5010本以上ボトル1本上1升以上揺り動かしても起きない・大小便を垂れ流し・呼吸はゆっくりと深い・死亡する


酒は笑いとリラックスの誘導剤

 酒を笑いとリラックスの誘導剤と位置づけた場合の最適な酔いの状態は、段階的にはどのあたりを指すのでしょうか。基本的には第2段階(ほろよい初期;日本道路交通法でいえば、酒気帯び運転と飲酒運転の境目位)までとしかいいようがありません。ただし血中濃度が各段階の境界を1でも越えたらまずいかといえば、決してそんなことはない(体調や環境にも左右されるので)。いわゆる「ほろ酔い」状態に近い程度ということになります。

 さて、この「ほろ酔い」状態が笑いやリラックスを引き出す最適な状態と位置づけると、次は、個人差はあるもののどの位の酒量が飲めるかというのうが、呑んべえ(自白してどうする)としては気になるところでしょう。また酒の種類や酒の肴で違いがあるのか、さらにはどうしても飲み過ぎてしまった場合に活性酸素を抑制する方法はないか、酒を飲む前の事前の防衛策はなにかないか、次回に報告してみたいと思います。ほろ酔い状態を維持する酒量というのは、推計学的に算出できるそうで、現在関連の文献を収集しているところです。

 笑いやリラックスの効果については、これも調べているところですが、アメリカには、アメリカ笑学会と呼ばれる学会が存在し、笑いの効果について真面目な研究を行っているそうです。要は笑いは免疫力を高めるということです。笑いの効果については、ロビン・ウィリアムズ主演のパッチ・アダムスという映画作品をみてもらうのがてっとり早いと思います。やや誇張な表現もありますが、笑いは治癒力を高めるというのがわかりやすく表現されています。参考までに公式サイトのページを下にあげておきます(10月末にレンタルが開始されています)。

参考資料及びサイト

お酒と楽しくつきあうためのガイドブック
アサヒビール株式会社環境文化推進部
http://www.asahibeer.co.jp

映画パッチ・アダムス
(原作“Gesundheit:Good Health Is a Laughing Matter”
ハンター・ドハーティ・アダムス with マーリーン・ミランダー)
http://www.toho.co.jp/cinema/patch/welcome-j.html

★情報をお寄せください 『気圧の魔』研究会まで、メールおまちしています


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